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所変われば、挨拶も変わる

「マルゴおばさん、アリスさん、こんにちは! 少し早いけど、来ちゃった♪」


「ルシィ、よく来てくれたね。 店の準備をしたいから、早く来てくれて良かったよ。

 アリスさん、今日の解体はここまでにしていいかい? 後はハウンドドッグで終わりにしよう」


 うん、私もオーク解体のダメージが残っているからちょうど良い。


「わかりました。

 ルシィさん、こんにちは! ガレット、とてもおいしかったです。ごちそう様でした!」


「私たちこそ煮ボアとおにぎり、とっても美味しかったわ! それに、お父さんが怪我を治してもらったって聞いたの。本当にありがとう!

 ……でも、ガレットはごちそうなんかじゃないでしょ? そんな風に言われると恥ずかしいわ」


 お礼を言ったらルシィさんは申し訳なさそうに目を伏せた。 


 そうか、こっちには『いただきます』も『ごちそうさま』もなかったな。地球でも日本だけのマイナーな挨拶だったし。 


 おいしいガレットは十分に『ごちそう』だったけど…。


「『ごちそうさま』は私の故郷の言葉で、食後の挨拶です。 

 元々は、食材を揃える為に、あちらこちらを走り回って用意してくれた事に対する感謝の言葉だったんですが、今は『食材を用意して料理してくれた人への感謝、自分の血肉になってくれた食材への感謝』の言葉として使っています。 

対になる挨拶に、食前の『いただきます』があるんですよ」


「『いただきます』の意味も教えてくれるかい?」


 マルゴさんが興味を持ってくれたようだ。


「『いただきます』は2つの意味を一言にまとめた言葉です。

 1つ目は『肉、魚、野菜、果物。全ての食材に宿る命に対する感謝』です。『食材となった命を自分の血肉とさせていただきます』という意味です。

 2つ目は『料理を作ってくれた方、配膳をしてくれた方、野菜を作ってくれた方、肉や魚を獲ってくれた方への感謝の気持ち』を言葉にしたものです。

 なので、いただいたおいしいガレットに『ごちそうさま』と言いました」


「アリスさんの食前・食後の一言にはそんな意味があったのかい。短い言葉にいろいろな思いが込められていたんだねぇ」


 マルゴさんは、私の食前・食後の挨拶を聞いていて、女神への感謝の言葉がないことを不思議に思っていたらしい。 “全てへの感謝を一言に込める”と言えば、納得して笑ってくれた。


「だったら、私も! 美味しい朝ごはんだったわ。『ごちそうさまでした』!」

「ああ、アタシもだ。2人に『ごちそうさまでした』だね」

「んにゃん!(ごちそうさまにゃん!)」

「ぷっきゅう!」

「ごちそうさまです!」


「……なんだ?」


 みんなで『ごちそうさま』を言い合っている最中にルベンさんが来て、状況がわからず目を丸くしていた。


「アリスさん、朝は礼を言い忘れていた。 朝飯、美味かったよ。ありがとうな! …ルシィ、鍋は返さないのか?」


 ルベンさんに言われて、ルシィさんは手に持ちっぱなしだった鍋に気が付いたようだ。


「忘れていたわ! これ、ありがとう!」


「確かに受け取りました。 ありがとうございます^^」


「ルベン、ハウンドドッグの解体が今からなんだ。あんたを待っていた方が良いと思ってね」


「わかった。確認しよう」


「マルゴおばさん、私も解体を見ていていい?」


「ああ、かまわないよ」


 3人の会話を聞きながら、ハウンドドッグを私の3頭と預かり分の2頭に分けてテーブルに出す。インベントリのリスト機能は優秀で、『ルベンから預かっているハウンドドッグ』という項目があるのだ!


「こっちが預かっていた2頭で、こっちが村で買い取ってもらう3頭です」


 矢が刺さりっぱなしの、切り飛ばした頭もちゃんと出しておく。


「矢も折れずに残っているな。ルシアンが喜ぶよ」


 聞いてみると、矢は使い捨てにしないらしい。壊れたところを修理しながら使うそうだ。 忘れずに持ってきておいてよかった。


「アリスさんはどうする? 練習しとくかい?」


「やりたいです」 


「じゃあ、大きい個体を1頭やってみな」


 5頭の内の1頭だけを預かったので、スピードより丁寧さを重視することにした。


 マルゴさんを見ると、自分の手の遅さが気になるから見ない。 自分の手元だけを注視する。


 魔石を取り出し、牙をはずし、毛皮をはがす。無駄が出ないように丁寧に、丁寧に……。


 終わって顔を上げると、マルゴさんと目があった。


「丁寧な良い仕事だ」


 及第点をもらえたらしいが、マルゴさんはすでに4頭の解体を済ませているので、今度はスピードアップも頑張ってみよう。


「ルベン、肉は村の貯蔵庫で良いんだね?」


「ああ」


「じゃあ、2頭分の魔石、牙、毛皮、尻尾があんたの取り分だ。 確認しておくれ」


「ああ。ルシアンが喜ぶな」


「ルシアンさん?」


「牙は(やじり)になるからな。 それに、ルシアンは毛皮のなめしを仕事にしてるんだ」


 狩りには行けなくても、弓矢の手入れは怠ってないんだ。偉いなぁ。


 怪我をしたから毛皮のなめしを始めたのかな?


「ルシアンはもともと、自分が狩った獲物の肉をアタシや村に、毛皮をなめして行商や雑貨屋に売っていたのさ」


「じゃあ、毛皮をなめす腕は良いんですか?」


「ピカイチって訳じゃないが、そこそこの腕は持ってるよ」


 なるほど……。腕は悪くないのか。


「アリスさん、待たせたね。

 まずは、ハウンドドッグ3頭分の肉の代金が1500メレ。 それに魔石、牙、毛皮だ。

 それと、ホーンラビットの肉が2匹で1400メレ。

 オーク肉が2頭分で933,500メレで合計936,400メレ。

 中銀貨9枚に小銀貨3枚、大銅貨6枚と中銅貨4枚だ。 確認しておくれ」


「確かに。ありがとうございます」


「ああ、ありがとうよ」


 お金と一緒に、解体テーブルに置いている魔物素材をインベントリに収納する。


「アリスさん、お金持ちになったわね! 初めてのお金は何に使うの?」


 ルシィさんには楽しそうに聞かれたけど、100万メレにも届いていないと…、


「どうしましょうねぇ…。 

 宿に泊まるにはまだまだ足りないので、なるべく使わずに貯めるかと…」


「……アリスさん、どんな宿に泊まるつもりなの?」


「部屋にお風呂がついている宿に泊まりたいんです」


「……そっか。うん、それならまだまだ足りないわね」


「ですよね~。旅に出たら、高そうな獲物をガンガン狩らないと」


 ルシィさんと話していると、横でマルゴさんとルベンさんが溜息を吐いていた。 どうしたのかな?


(お風呂付きの宿に泊まらないにゃ!?)


(お風呂には入りたいけど、高級宿に泊まるにはもう少し貯めないとね。まだまだ必要なものが揃っていないから…)


(早く、いっぱい稼ぐにゃ!!)


(了解♪)


 いっぱい稼いで、お風呂のある宿に泊まるぞーっ!!


ありがとうございました!

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