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イザックの帰還 1

 急いでドアを開けると、たくさんの荷物を抱えて満面の笑顔のイザックと目が合った。


「おかえりっ!」

「ああ、ただいま。良い栗が手に入ったぞ!」


 怪我などもなく無事に戻って来てくれたイザックは、自慢気にハクとライムに向かって生栗を差し出し、


「にゃにゃ~ん♪」

「ぷっきゃあ~♪」


 嬉しそうにイザックに飛び付いたハクとライムを、存分にもふる権利を手に入れたらしい。


 ……2匹とも、イザックが無事だったことが嬉しいんだよね? 大量の栗に目が眩んだわけじゃあ、ないよね?


 なんだかいつもよりもサービス過剰に見える2匹を見て、ちょっとだけ、疑ってしまったことは内緒の話だ。












 機嫌よくハクとライムをもふもふしていたイザックのお腹が盛大な音を立てたので、お話を聞く前にゆっくりと食事をしてもらうことにして私たちはその間にニールに会いに来た。んだけど、


「…………後にしようか」

「それがいいにゃ」

「そうしよう」


 ニールは久しぶりに会う愛妻(スレイ)ととても仲睦まじい姿を見せていて、お邪魔虫になりたくない私たちは早々に立ち去ることにした。


 ニールはスレイと会えた喜びを隠すことなく、愛し気にスレイを毛繕いしている姿はとても幸せそうで、❝仲良し❞と言うより❝らぶらぶ❞と表現したくなる様子に他の馬たちも少し離れて視線を外していたくらいだ。


 元気そうなのは一目でわかったので、私たちは部屋に戻ってからハクに心話で「おかえり」だけ伝えてもらって、再会は明日の朝に持ち越しとした。












 とにかくお腹が空いているというイザックに用意したのは、ふわふわ半熟オムレツを乗せるタイプのオムライスと生ハムのポテトサラダとはちみつ入りのアウドムラのホットミルクと冷たいお水。 冷たいお水はイザックのリクエストだ。お茶でもフレーバーウォーターでもなく<水>な所がイザックらしい。


 ふわふわ半熟タイプのオムライスは(スフェーン)で<夜のルーチェ>にも出したものだったことを思いだし、いたずら心で出してみた卵かけご飯も躊躇することなくあっさりとクリアした上おかわりを強請るイザックは、お腹を壊す心配など微塵もしている様子はない。


 好物だったのかと聞いてみたら、「他所で出された生卵をそのまま食うなよ!? いくら治癒魔法があっても危険すぎる!」と凄い剣幕で忠告されたので、元々は食べなかった物のようだ。 ……イザックの私が出す食べ物への信頼が感じられてとても嬉しかった。








 デザートのプリンにイザックにコーヒー、ハクはホットミルク、ライムは【アイスボール】で出した氷、私はシチュードティーを楽しむ。


【インベントリ】のお陰でみんながバラバラなものをリクエストしても、ストックがあればすぐに応えられるのは本当にありがたい。ここに冷蔵庫と冷凍庫が加わって、私たちのストックがさらに充実することを思えば、頬が緩んで仕方がない。


 イザックが「なにか楽しい事を考えてるな? その顔は新作レシピか!?」と鋭い勘を披露するけど、私は先にイザックの話が聞きたい。笑ってごまかすと「後で教えてくれよな」と言いながらイザックはお土産話を話し出してくれた。












 イザックの元パーティーメンバーの内の1人は引退後、荷運びの仕事をしながら妊娠中の奥さんと共に普通の生活を送っていたようだ。奥さんはつわりも軽いタイプのようで彼らが幸せそうで安心できたと嬉しそうに話してくれた。


 ただ、亡くなったメンバーの遺族である奥さんと子供さんの方は生活に苦労していたようだ。旦那さんの遺産のほとんどを旦那さんの親族に奪われて、もともとの貯金と残されたわずかな遺産は底を突きかけていたらしい。


 仕事を探していたけど保証人がいなくてなかなか定職に就けなかったなので、イザックが保証人になって仕事を見つけ、見舞金を当座の生活費として渡してから戻って来たそうだ。


「様子を見に行って本当に良かったよ。あのままだったらヤツの妻子が路頭に迷う所だった……。アリス、ほんとにありがとな」


 少しだけ、泣くのを堪えたような表情でくしゃりと笑ったイザックに、ハクとライムが突進していった。


 突然飛びかかって来た2匹を難なく抱きとめたイザックは気を取り直したように笑い、嬉しそうに2匹をなでなでしながら残ったお金を返してくれる。 全部使ってくれても良かったのに、と思ったのが顔に出ていたのか、


「幸い彼女たちに借金はなかったからな。今の状況だと大金は毒になると思って渡さなかった。親子が住む部屋の家賃を半年分前払いと、生活費の補助をしてやれただけで十分だ。本当に感謝している」


 と笑いながら頭を撫でてくれる。


 子供じゃないんだけどなぁ……。と思ったのには気がついてくれなかったようで、そのまま楽しそうに旅の間のことを話し始めるイザックに苦笑だけを返して、私たちはお土産話に耳を傾けた。


ありがとうございました!

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