金策 3
冒険者ギルドを出ようとした私たちを引き留める声が上がった。
何の用かと思ったら、酒場のマスターと数人の冒険者たちが<生卵>と<温泉卵>を売って欲しいとのことだった。
<夜のルーチェ>のメンバーが森で食べた<生卵>と<温泉卵>のおいしさを、特に<温泉卵>のおいしさを声高に宣伝してくれた結果、まんまと釣られてしまったらしい。
(高く売るのにゃ! 1個5千メレと1万メレにゃ♪)
(たっか!! どこから出た価格なの!?)
(僕の気分にゃ!)
生卵1個5千メレで温泉卵は1万メレだと言い出したハクにびっくりしていて彼らに返事をしなかったせいか、彼らは私が渋っていると思ったらしい。
「生卵1個800メレでどうだ!」
「だったらオンセン卵とやらは1個1000メレでどうだ!?」
卵が高額商品になり始めている。 日本で私が買っていたは1パック200円程だったから1個20円。ということは、……40倍!?
驚きに声を出せないで目を丸くしていると、
「え、アリスさんが卵を売ってくれるのか? だったら俺は生卵と温泉卵を3個ずつ欲しい」
「あたいは温泉卵を5個っ!」
<夜のルーチェ>のメンバーまで買いたいと手を挙げる。 ……金欠って言ってたのにリーダーさんまでもが、
「アリスさんのお陰で今回の稼ぎはなかなかのものになったから今夜は酒と卵で祝杯だ! パーティーの経費で落として良いぞ!
俺は両方を2個ずつとショウユと温泉卵のダシと炊いた飯を大盛2杯分売ってもらいたいんだが」
満面の笑みで私を見ながらリクエストをするので、笑いが込み上げてきた。今夜の祝杯は卵かけご飯かぁ。
❝度胸試し❞や❝拷問❞に使われていた<生卵>が❝祝杯❞のメイン食材になるなんて、随分と出世を果たしたものだ。今回の依頼の目的はこれで達成かな。
気分を良くした私は<安全な卵>を売りに、生卵を1個300メレ、温泉卵を1個500メレで販売することにした。
ただし今夜中に食べ切ることが条件だ。保存状態を考えずに日にちを置いて、万が一のことが起こったらいけないからね。
この条件のせいで1人当たりの購入量が減ったし、私が1つあたりの価格を下げたせいでハクがお冠だったけど、その分購入者が増えて結構な収入になったので私は満足だ。
改めてご機嫌でギルドを出ようとしたら、
「アリス! 今回は<オーク肉>は売っていかないのか?」
「あ、ごめん! 今回は商業ギルドの方で換金しようと思ってて……」
「は!? ちょっと待て! ギルドの貢献ポイントはどうするんだ!」
「今回はポイントは諦めるーっ! またね!!」
「ちょっと待て! どれくらい売るつもりなんだっ? うちでも色を付けてやるから……っ」
ギルマス(オズヴァルド)に引き留められそうになって、少しだけ焦ってしまった。
今回は貢献ポイントよりもお金が欲しいんだ。ごめんね! 見逃して!
商業ギルドで【クリーン】使用生卵が安全に食べられることと水が腐りにくくなること(宿の総支配人さんの証言があったことを報告)を説明し、以前ジャスパーで登録した<ミルク>の件も絡めて【クリーン】魔法の有効性として登録し直すことになった。
この情報が広がれば、安全に食べられる食品が増えて病人も少しだけ減るだろう。
そして、私の扱う【クリーン】を使用した生卵やお水、ミルクの価値も下がるだろうけど、
(あ~あ、登録前にもっと荒稼ぎしたらよかったのににゃ~)
このことはハクの想定内だったようだ。
それでも登録申請を止めたり後日に引き延ばそうと言わないハクは私の自慢だ。私たちが少しの贅沢を享受するよりも、みんなが安全においしいものを食べられる方がずっと良いもんね!
私たちの贅沢の為のお金は、別の手段で稼ぐから大丈夫♪
ライムと楽しそうにコロコロと転がっているハクに、心の中で約束をした。
ちなみに……。
商業ギルドでは、森での戦利品の<桃>や<桃オーク肉>、少量の<極桃オーク肉>を想定以上の高値で買い取ってもらえたので、今回必要になりそうなお金の準備ができた。
私がギルドを出て行ったすぐ後に、冒険者ギルドマスターを始めとした上位ランク冒険者たちが商業ギルドに雪崩込み、桃やオーク肉を買い求めていたことは翌日の朝に知った。
冒険者たちが帰った後に商業ギルドのマスターが嬉しそうに高笑いしていたことは、……聞いてないよ?
ありがとうございました!




