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マルゴさんの解体講座 4  休講

「全部自分で解体する必要はないさ。ギルドの解体部門はその為にあるんだ。

 オークの討伐証明部位は右耳、魔石は心臓、素材は肉と皮。これだけ覚えて後はギルドに丸投げしちまいな。解体料なんざ、討伐報酬で釣りが来る程度のもんさ」


 マルゴさんは、慰めるでもなく当然のように言ってくれる。


 張り切ってオークの解体に手をつけた私は、途中で気分が悪くなってしまったのだ。


「アリスさんは人型の魔物とは相性が悪そうだから、人型タイプは手を付けずにギルドに任せて、空いた時間でポーションを作るなりすればいいだろう? 

時間は有限なんだ。効率的に使うだけのことさ」


(マルゴの言う通りにゃ。アリスには稼ぐ手段がいくつもあるのにゃ!)


 ハクも私の肩に乗り、頬をぺろぺろと舐めながら慰めてくれる。でも…、


「解体も満足にできない冒険者なんて……」


 格好悪いにも程がある。


 第一、解体のプロのマルゴさんに教われるせっかくの機会(チャンス)を生かせないなんて、凄く悔しい……。


 座り込んだまま落ち込んでいた私に、マルゴさんが静かに問い掛けた。


「冒険者が解体を覚える理由はなんだと思う?」


「えっと…、

 ギルドで高く買い取ってもらう為と、食料の確保の為だと…」


「そうだね。 解体を覚えるメリットは大きく3つだ。

①遠征先で手持ちの食料が切れた時に、獲物を解体して肉にできないと生存率が大きく下がる。  

 腹が減ってる状態で、まともな戦闘なんかできないからね。

② 魔物を狩ってからギルドに戻るまでの間に、魔物が腐敗を始める。それを遅らせるために、内臓の処理と血抜きをしているかどうかで、買い取り額が増減する。

③ 冒険者の持てる荷物の量は限られている。アイテムボックスに入る量だって人それぞれだ。だから少しでも金になる部位を多く持って帰るために、解体していらない部位を処分して容量を減らすのさ。

 でも、この3つ、アリスさんならクリアできるんじゃないかい?」


 ……解体を覚える理由は3つ。


 1つ目は、普通の獣タイプなら解体できるようになったし、インベントリにいっぱい食料を入れておけばなんとかなる。いざとなれば、食料がなくなる前に複製で増やし続けることも可能だ。


 2つ目は、インベントリには時間経過がない。いつでも新鮮な状態でギルドに持ち込める。


 3つ目は、インベントリには容量制限がない。いらない部位を処分して容量を減らさなくても、いくらでも収納できる。


「その3つなら、なんとかなりますね……」


「だろう? アリスさんの魔力量なら、アイテムボックスもかなりの量が入りそうだし、時間経過もほとんどなさそうだ。 人型タイプを自分で解体しないことのデメリットなんて、ギルドに支払う解体手数料くらいのもんさ」


「解体手数料を払える程度に、ポーションを作って売れば……」


「なんの問題もないねぇ」

(問題ないにゃ~!)

「ぷっきゅ~!」


 バケツの中から、ライムまで励ますような鳴き声を上げてくれた。


 うん、切り替えよう。 私には、ビジューがくれた【薬師スキル】がある!


「人型タイプは全て、ギルドに任せることにします!」


 そう言って立ち上がった時には、テーブルに出しておいた2頭のオークはただの『肉』になっていた。


 マルゴさん、流石です…。


「ここにいる間はアタシが解体できるしね。さて、オークはまだあるのかい?」


 残りの個体の解体も引き受けてくれたので、インベントリに残っているオーク4頭のうち小さい個体から3頭をテーブルに出した。一番大きな個体は、万が一の食糧難に備えて置いておく。

【複製】が出来るようになったら、別々のギルドで解体を頼もう。 それなら【複製】もバレないだろう。











「見事に真っ二つだねぇ…」


 初めて遭遇したオークの個体を見て、マルゴさんは呆れたように呟いた。


「真っ二つにすると価値が落ちますか…? 初めて遭遇したオークだったので、びっくりしてつい…」


「あっはっは! 初めて倒したオークがこの有様かい! 将来有望だねぇ。

 価値には何の問題もないよ。 解体が楽になってありがたいくらいさ」


「売値に影響しませんか?」


「ああ。 オークの皮はある程度の面積が取れれば、使い道はいくらでもあるからね。首を落とすのが面倒なときは、いっそ真っ二つにしちまって、不必要に傷を増やさない方が高く売れるよ」


 背が高くて首が落としにくいオークを真っ二つにしていいなら、狩りが断然楽になる。


「それだと、狩りが楽になりますね♪ ちなみにオーク肉はどんな料理に合いますか?」


「基本はボアと一緒さ。ボアで作れる料理の出来が、ランクアップすると思えばいい」


「いい肉なんですねぇ。見た目はアレだけど……」


「オーク肉は食べられそうかい? 無理そうならウチで全部買い取ってもいいが……」


 マルゴさんの気遣いがありがたい。


「解体後の肉は、普通に“肉”にしか見えないので大丈夫です。今夜が楽しみですね^^」


 感謝しながら笑って言うと、マルゴさんも安心したように笑ってくれた。


「ああ、楽しみだねぇ。 さて、オークの買い取りは2頭だったね。どの個体を売ってくれるんだい? 

 ちなみに、魔物は大きい個体になるほど味が良くなるよ」


 話をしている間に、追加のオーク3頭の解体が済んでいた。 


「見た目で味がわかるなんて、便利ですねぇ! 覚えておきます。 

 じゃあ、一番大きい個体は残してください。今夜食べましょう♪ あとはマルゴさんのお好きな個体をどうぞ」


 お得な情報を貰った♪ これからも一番大きい個体は複製用に残すようにしよう。


「なら、2番目に大きい個体と、1番小さい個体を貰おう。大きい方の個体は1kg 8,000メレ。小さい方の個体は1kg 7,500メレでどうだい?」


「毎度あり。です^^」


 お値段はマルゴさんにお任せで^^


(アリス、そんなんじゃあ、いつか騙されるにゃ……)


 ハクに心配されたけど、


(だって、相場がわからないんだし…。 マルゴさんになら騙されてもいいんじゃない? 調味料も貰ったし損はないよ。 他の所では気をつけるね!)


(なら、いいにゃ。 マルゴなら大丈夫にゃ!)


 ハクもマルゴさんの事は信用しているようだし、何の問題もない♪


「大きい方の可食部が67㎏、小さい方が53㎏だから、合計で933,500メレだね」


「たっかーっい!」


 オーク1頭で、高級宿に1泊出来るの!? 高すぎるっ!


「そうさ、肉は高いのさ。 どうする? 売ってくれるかい?」


「<冒険者ギルド>で売ったとしても、同じ金額ですか?」


「…ギルドで売るときは、手数料で少し引かれるね」


「だったら、1割び」

「店の買い取り価格で買わせて貰うよ」


(なんで、値下げするのにゃ!)


(だって、たかがオーク2頭だよ? 高すぎるって!)


 いきなりお金持ちになっても戸惑うだけだし、ギルド価格で良いんだけど…。


「アリスさんの気持ちは嬉しいさ。でも、肉屋としてのプライドだ。店の買い取り価格で買わせて貰う。

 と言っても、田舎の村での金額だ。街の買取価格よりも安くなってるよ」


「わかりました。ありがとうございます。その金額で買ってください」


(それでいいにゃ♪ 円満にゃ♪)


(みんなで、美味しく食べようね?)


(楽しみにゃ♪)


「こんにちは!」


 晩ごはんに思いを馳せていると、ルシィさんの元気な声が聞こえた。


ありがとうございました!

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