仲間はずれは寂しいです!
体の前面に感じる温かい何かと、頬をくすぐるふわふわな何かが心地よくて幸せな気分に浸っていると、
「痛いっ!?」
頬にチクリとした痛みを感じて慌てて目を開いた。すぐ目の前に見えたのは、小さな白いほわほわの頭と三角の可愛いお耳……。
「やっと起きたのにゃ!」
「ハク! どうして噛むの~っ? もっと優しく起こしてよぉ……」
「何度も起こしたのにゃ!」
寝起きの悪かった私にしびれを切らしたハクが強硬手段に出たらしい。
頬をさすりながら不満を訴えても呆れたような冷たい視線が返って来るだけなので、抗議は諦めてゆっくりと大きく伸びをすると、
「主さま? そこで無防備に動くと危のうございますわよ?」
体の下から笑いを含んだスレイの声が聞こえた。
どうやらまた、移動中にスレイの背中で眠ってしまっていたらしい。……昨夜はケチャップを増産する為にあんまり寝てなかったから仕方がないよね。
スレイの背中で不用意に伸びをしてしまった私だけど、気配り上手なスレイはその行動にもきちんと対策を考えてくれていた。
下を覗くと大地が近く見えるのは、スレイが足を折って身を伏せてくれているから。ここからなら落ちても怪我をする心配は少ないだろう。落ちたら痛いのは間違いないだろうけどね。気遣いに感謝しながら背を優しくなでなでしていると、
「もうすぐ街に着くのにゃ。ライムを出してあげるのにゃ!」
タシタシと可愛い肉球で私のおでこを叩きながらハクが訴える。
ああ、そうだ。 今朝森を出発する時に、ライムが自分から従魔部屋に入るって言ったんだった。珍しいな~、と思ったけど「おなかいっぱいでねむたいの」って言われてハウスを開いたんだ。
昨夜は❝極桃オーク肉祭り❞でいっぱい食べてた(スレイは味見ほどしか食べてない。ニールが戻って来たら一緒にいっぱい食べたいらしい)からね。消化するのに体力を使っていたんだろうな。
走るスレイの上で眠るのは危険だから、ハウスに入るのはいい判断だよね。見習わないと、と思いながら従魔部屋を開くと、それを待っていたかのように、すぐにライムが転がり出てきた。
「アリスおはよう! ハクとスレイもおはよ~!」
おはようの挨拶と共にスレイのお腹に突っ込んでくるライムとライムの上に飛び移るハク。
今日もうちの仔たちは仲良しです♪
「アリスは寝起きが悪いのにゃ! もしも魔物が寝込みを襲ってきたらどうするのかにゃ!?」
「ゆうべはねないでおいしいものをつくっていたからつかれてたんだよ。ハクとスレイがついてるからあんしんでしょ?」
きょうもぷにぷにぷるぷるのライムのぷにぷるボディ。いつも通りのツヤツヤ感は見ていて楽しい。
「何度注意されても、移動中に眠る癖は治らないのにゃ~」
「スレイがおとすわけがないってしんらいしてるんだよ~」
愚痴るハク(いつも世話を掛けてごめんってば!)に対してもいつも通りにの~んびりとだけど、きちんと意見を言っている。
でもなんとなく感じる違和感……。それは、
「アリスもはんせいしてるよ~。ゆるしてあげて?」
「ライム? なんとなくだけど……、滑舌が良くなってないかな?」
「うん! ぼくセイチョウしたの!」
ほんの少しだけど、ライムの発音が違っていたせいだった!
「極桃オークをいっぱい食べたお陰なのにゃ!」
「あら、アラクネーのお陰かもしれませんわよ?」
「りょうほうだよ~♪」
高ランク魔物のアラクネーと独自の進化(?)でおいしくなった極桃オークのお肉でたくさんの栄養を取ったライムは、それまで蓄積していた栄養と合わせて自分の成長を促進させたそうだ。安全に成長を安定させる為に今朝は従魔部屋に入ることを希望した、と……。
で、ライムの成長に対した驚きを見せないハクとスレイは、きっと事前にこのことを知っていたんだね?
ずるいっ!と拗ねる私に、
「アリスは説明する前に眠ってしまったのにゃ」
「わたくしも移動中に話を聞いて驚きましたの」
ハクとスレイはあっさりと❝移動中に眠ってしまった私❞の責任を突きつける。確かに、それを言われると、ね。
渋々だけど納得しかけけてふと気づく。スレイに説明をしたのはハク。だったらハクはどうして知っていたの!? ライムがハクに言ったから? だったらその時に私も聞きたかったな!
ハクに文句を言おうとした私だけど、それに気がついたハクがさっさと種明かしをしてくれる。
「僕はライムのお兄ちゃんだから知っていて当然なのにゃ♪ それに、ライムに加護を与えたのは僕にゃよ? ライムの成長はわかって当然なのにゃ~♪」
……あまり説明になっていないと思うんだけど、とりあえずは、ハクが❝神獣❞だっていうことを思い出して無理矢理納得した。
ハウスに入る前に一言言って欲しかったと思うんだけどね? 続きは宿に戻ってからゆっくりと聞かせてもらうつもり!
まずは冒険者ギルドに行って、<夜のルーチェ>たちへの依頼を完了させないとね!
ありがとうございました!




