所変われば 2
私にとってはソウルフードの一品である<卵かけご飯>。でも、この国では❝食べるな、危険!❞と認識されている生卵。
いくら私が「大丈夫」だと言っても、誰も信じてくれないし、
「アリス! <卵>ってやつはしっかりと火を通さないと危険なんだっ! 今までも屈強なバカが何人も愚かな❝度胸試し❞で命を落としてるし、❝腐った卵を飲ませる❞って拷問は❝殴る、焼く、犯す❞の拷問に耐えきったヤツらでさえ『やめてくれ』って泣き叫ぶと言われているんだ。【治癒魔法】が使えるからって、わざわざ危険を冒すことはないだろう? 甘く考えると本当に危険なんだぞっ!」
誰が呼んだのかは知らないけど、ギルドマスター(オズヴァルド)が血相を変えて飛んできて必死の形相で私を説得してくれるものだから、それを無視して卵かけご飯の続きを楽しむこともできない。
だからといって、もう生卵を食べないという選択は私にはないし、抱いている私の指をガジガジと噛みながら、
(僕とライムにも早くごはんを食べさせるのにゃっ!)
(おむすびでもいいかな?)
(いやにゃ! さっきアリスが食べていた<卵かけごはん>がいいのにゃ!)
(ありすがおいしいとおもうものをいっしょにたべたいの~)
朝ごはんを催促するハクとライムを無視することもできない。
仕方がないから、
「ディアーナ! 依頼を出したいから手続きをお願い!」
しっかりと管理(【クリーン魔法】で菌を死滅)した新鮮な卵の安全性を立証することにした。
依頼の内容は、
<生卵を食べてくれる人4~7名募集>
詳しい条件は、
・7日の間、私が出す卵料理(と普通の料理)以外の食物を体内に入れないこと。(卵かけご飯も出すよ)
・依頼料は1人1日小銀貨2枚(2万メレ)
・被験者の体調管理がしやすいように、私の用意する宿(冒険者ギルドの宿)で引きこもり生活を送ること
・7日の間の食事の詳細と体調を嘘偽りなく詳しく記録として残すこと
※もしも卵料理のせいで体調を崩した時には、速やかに【治癒魔法】を用いて治療することを約束します(当然無料)。
※毎日体を清める為のお湯代、もしくは【クリーン】もつけるよ!(強制。自身を清潔に保つことは被験者としての仕事の一環です)
というものだ。
大っぴらに❝安全性の実験をするから被験者募集❞という形にすることでここにいる冒険者たちの注目を集め、❝私の扱う卵料理❞が安全であることを周知させるつもりだ。
生卵=危険・拷問用のアイテムという認識らしいので、通常ならこんな依頼に手を挙げてくれる人はそうそういないだろう。でも、私の<治癒魔法>のことを知っているここの冒険者たちならきっと……、と期待する。
ディアーナが依頼票を作成してくれるのをじっと見守り、書き上がった依頼票を確認させてもらっていると私の手元にたくさんの視線が集まっているのを感じる。
3食昼寝付き、宿(冒険者ギルド)内であれば(飲食以外の)行動は自由。こっちをじっと見ているそこのFランクの(まだ若くて装備が揃っていないから多分Fランク)あなたたち! 悪くない話だと思わない?と心の中で勧誘しながらチェックをすませる。
緊急性のない依頼だから、依頼ボードに貼り出されるのは明日の朝。 この条件なら駆け出しのFランク…、いや、まだ冒険者らしい仕事を受けられないGランクの子たちが応募してくれるハズ! と期待しながらディアーナに依頼票を返そうとすると、
「この依頼、あたいたちがもらったよっ!」
横から伸びてきた手に依頼票を持っていかれた。
とっさに誰かと確認すると、見覚えのある顔がニヤッと悪そうな顔で笑いながら周囲に依頼票を掲げてアピールしている。
依頼ボードに出す前なのに依頼票を確保するのはアリなの?とディアーナの顔を見てみると、苦笑を浮かべながら頷いているので彼女の行動は問題ないらしい。でも、
「こら、行儀が悪いぞ」
連れの男性にこめかみをグリグリされているから、あまり褒められた行為ではなさそうだけど。
「ずっと気になっていたアリスの飯がタダで食えるチャンスなんだよ? さっさと手に入れないと他の奴らに取られちまう! 見て見なよ! あの男のパーティーだって腰を上げてるじゃん!」
こめかみをグリグリする手を叩き落としながら彼女が指差したのは、残念そうな顔でため息を吐いているバルトロメーオさんのパーティ。リーダーさんが残念そうな顔で肩を竦めてる。そっか。彼らも受けてくれるつもりだったんだ? ランクと報酬が釣り合わないだろうに、ありがたいな。
バルトロメーオさんのパーティーに向かって感謝の視線を送ってから、依頼票を握る彼女たちに目を向ける。
「先日はどうもありがとう。お陰で変な誤解を受けることなく、あの人たちを裁けたわ」
「いや、俺たちは感じたことをそのまま話しただけだ。アイツらを裁いて貰ってこっちこそ感謝してる。…… で、この依頼は俺たちに受けさせてもらえるのか?」
彼女から依頼票を受け取ったリーダーさんの確認を受けるけど、
「んにゃ~ん♪」
「ぷっきゅ~♪」
「そうか、俺たちでいいのか! ありがとうな!」
「これからしばらくよろしくな! 仲良くしてくれると嬉しいぜっ」
……私が返事をする間もなく、私の保護者たちと彼らの間で話がまとまってしまった。
まあ、彼らなら問題はないんだけどね?
「では、この依頼は俺たちCランクパーティー<夜のルーチェ>が引き受けた!」
スフェーンの森で助けた時にはこんなに関わりを持つとは思ってもいなかった、パーティ<夜のルーチェ>。
「やっと名乗れたぜ!」と嬉しそうに次々と自己紹介をしてくれる。
Cランク試験に受かったんだね? おめでとう!
でも、この依頼はCランクが受けるには報酬が低すぎると思うんだけどね? スフェーンの森で助けたことのお礼のつもりなら、気にしなくてもいいんだけどなぁ。
……Fランクの彼らが恨めしそうに見てるのに気がついて「おいしい依頼は早い者勝ちだよっ! 次があれば頑張りなっ」なんて自慢気に笑ってるところをみると、そうでもないのかなぁ?
ありがとうございました!




