所変われば 1
今、私はスフェーンの森にいる。
(チーズ! チーズにゃ! チーズとハムが入った卵焼きはおいしいのにゃ~♪)
(ぼくもこれすき~♪ ありすのごはんはいつでもおいしいからだいすき!)
「なにこれ! こんなに厚い卵なのに中がふわふわでチーズがとろとろしてるっ! こんなのがタダで食べられるなんて、さいっこう!」
「ああ、このチーズ入り厚焼き玉子とキャベツの相性も最高だな。キャベツを細く切るだけでこんなに違うのか」
「ねえ、あんたは作り方を見てたんでしょ? 街に戻ったら作ってくれる?」
「……私にキャベツはこんなに細くは切れないし、この卵の焼き方も何度も何度も訓練しないと難しいな」
「【風魔法】でスパスパ!ってできないの?」
「できるか、あほうっ! それが出来たら私はとっくにSランクに上がってるっ」
「ちぇ~っ……」
「自分で作ろうとは思わないんだな?」
「おいおい、俺たちは体が資本だぞ? なに怖いことを言ってるんだ?」
「そうだな。パーティー全員が腹痛で依頼失敗!なんて笑えないぞ」
「「「「「あははははははっ!」」」」」
「……って、おまえまで一緒に笑うのかよ」
賑やかな一組のパーティーと一緒にキャンプの真っ最中だ。
事の起こりは1杯の卵かけご飯だった。
その日、私はまだ空が薄暗い早朝から冒険者ギルドに行っていた。
なにか目ぼしい依頼が出たら受けようと思っていたんだけど、残念なことに気になる依頼は出ていなかった。仕方がないから、適当に街の外にでて魔物でも探そうかと思いながら酒場(この時間は食堂)で朝ごはんを取ることにしたんだけどね。ハクとライムが酒場で出す料理を嫌がった。
なので、この酒場のルールに甘えさせてもらって、お水だけを頼んで(もちろん【クリーン】を掛けて安全&おいしくした)料理の持ち込みをさせてもらったんだけど……。
生卵を割って黄身を炊き立てほかほかご飯(インベントリって本当に便利っ)の真ん中に乗せた段階で周囲から視線が集まり始め、白身をよ~くかき混ぜてからご飯の上に掛けると話し声が消え、その上からお醤油をかけてご飯と混ぜ合わせて一口口に入れると、
「「「「「「「※△Φ×Σっっ」」」」」」」
何を言っているか理解できないほど、周りが一斉に騒ぎ始めたんだ。驚愕の視線を私と卵かけご飯に注ぎながら。
頑張ってかき混ぜ倒した白身はふわっふわに変化してご飯を優しく包み込んでいるし、黄身は温かいご飯の上で温めておいたお陰で濃厚な甘さを増している。そこに醤油が合わさると、どこにいても故郷のソウルフードの出来上がりだ。
そうしておいしくできた卵かけごはんをハクとライムのお皿に分け分けしていると、目を丸くして私を見ていた冒険者たちが、
「ダメだよっ! 猫ちゃんが死んじゃう!!」
「いくらスライムだって、そんなもんを食わせたらタダじゃすまないぞっ!」
慌てたように私たちのテーブルにすっ飛んできてハクとライムを持ち上げたんだ。
「アリスちゃん、腹は痛くないかっ!? 気分は悪くないか? 悪寒はしてないか!?」
その上、たまたま近くのテーブルでパーティーの打ち合わせをしていたバルトロメーオさんが、顔を真っ青にしながらすっとんできて私の肩を揺さぶり始める。
何が起こっているのかは理解できないけど、とりあえず、大切な卵かけご飯に埃が入らないようにとインベントリに仕舞い込んだら、やっと周りが少しだけ落ち着いてくれたんだけど……。
朝ごはんを取り上げられた形になったハクとライムのご機嫌を落ち着かせるのが大変だった。
暴れるハクとライムをどこか幸せそうな表情で宥めている冒険者たちから奪い返してくれたバルトロメーオさんから、何とか事情は聞けたんだけどね……。
この街では生卵は度胸試しや罰ゲーム、果ては拷問に使われているアイテムだなんて、知らなかったし知りたくもなかったよっ!?
ありがとうございました!




