お届け物に来ただけなんですが…… 2
「痛ってーっ! 指切った!」
「どうして包丁を振り下ろすのよっ!? 【ヒール】」
「痛っ! あっ! ああっ! 芋が~っ!」
「眺めていないで早く拾って! 【ヒール】【クリーン】」
「キャベツちぎり終わった~」
「ちぎるんじゃなくて切って欲しいの。もっと細く。あ~、これくらいに。 半分はこれくらいのざく切りで良いから」
「肉を切り終わったぞ。俺って料理の才能あるんじゃね?」
「そうだね~。今度はこの油でお肉を軽く炒めてくれる? 表面だけで良いから」
「任せとけっ。………あっちぃぃーっ!!」
「【ヒール】こんなに油を使っていたら❝揚げる❞だよ……。焼き目を付ける程度で良いからね?」
宙を舞う人参、転がり落ちるジャガイモ、ボロボロに千切られたキャベツに、不揃いに切られたボアの肉。
衛兵詰め所の調理場は、負傷者続出の戦場と化していた。
(アリスのごはんを売ってあげたら良かったのにゃ~)
この惨状に巻き込まれないようにと、ちゃっかりと隊長さん肩の上で避難&寛ぎ中のハクが唆すように言うけど、中途半端に手を付けられていた食材を見過ごしにはできなかったんだよね。
でも、私1人では詰め所全員分の朝ごはんを作るのは時間的に難しい。だからくじで負けた不運な彼らに手伝ってもらったら……。冒頭の惨状になったんだよね。まあ、仕方がないよね?
出ていた食材を使い、足りない分は備蓄庫を漁り、それでも足りない食材は私が❝販売❞することで今朝のメニューを決定した。できるだけ簡単で一つの鍋(正確には大鍋二つだけど)で大量に作っても大丈夫なおかず。
ということで私が決めたメニューは、
・ボア肉を使った肉じゃが
・たっぷりのお野菜とハーピー肉のスープ
・丸パン(近所のパン屋さんと契約しているそうで、さっき大量に届いた)
・塩キャベツ
・カットしただけのラフトマト(塩とオリーブオイルをかけてるよ)
だ。インベントリに入っている物と同じようなメニューの為、ハクとライムにはイマイチな反応をされてしまったけど、
「肉、じゃが? うめぇよ! こんなの今まで食ったことねぇぞ!」
「このスープは何だ? 今まで食って来たものと何が違うんだ? 入っている具材はいつもと同じ野菜なのに……」
「塩キャベツ! これ、凄く簡単なのに美味いよなっ! 俺が作ったんだぜっ」
「これ❝ラフトマト❞じゃないか。朝から贅沢だなぁ♪」
衛兵さんたちには歓迎された。と言うか❝大❞歓迎された。
全てを食べきった後に、
「もう、おかわりはないのか……。隊長! このメニューを定番にしてください!!」
「賛成!! 3日に一度はこれがいい!」
「このメニューはあいつらが作ったんだよな? だったらまた食べられるよなっ!」
楽しそうに盛り上がる衛兵さんたちだったけど、
「知ってるか? この一食にはひと月以上分の経費が掛かってるんだぞ?」
隊長さんの放った爆弾発言で、一気に静まり返った。
…………意義ありっ! 調理法を指示し、味付けを担当した私が証言する! 今朝のごはんにそれほどの経費は掛かっていませんっ!
愕然とする衛兵さんたちの中で、冷静に我に返った衛兵さんが声を上げる。
「隊長! 今朝の料理に使われてた食材は、いつも備蓄庫に入っている物がほとんどでありますっ!」
「確かにハーピーやラフトマトは高くついているかもしれませんが、さすがにひと月以上の経費とは……。2食分でもまだお釣りがくるかと……」
うん。その通りっ! 私が同意を示し頷いていると、
(ふふんっ、甘いのにゃ~!)
ハクがいたずらっぽく鳴き声を上げ、隊長さんが苦笑しながら静かに立ち上がった。
「【ヒール】3回に【クリーン】が1回。<肉じゃが>には<ショウユ>という異国の調味料を使用している上に、塩キャベツには<ごま油>、ラフトマトには<オリーブ油>などの高級油を使用していて、スープには何やら<ダシ>という、商業ギルドに登録申請中のものが使われている。
さて、会計係。今朝の飯は一体いくらが妥当だ?」
「正確な数字は出せませんが、確かにひと月分の食費に及びそうです。【ヒール】が3回とは……」
しんなりと眉間にしわを寄せた会計係さんの言葉に安心したのは私だけのようで、衛兵さんたちは口々に「ヒールが3回…。異国の調味料。高級な油……」と呟いては顔を見合わせていた。
いや、料金を請求したりはしないけどね!? 勝手に使用した治癒魔法や、前もって確認もせずに使用した調味料の代金を請求するほど、業突く張りじゃあ、ないつもりだよっ!?
ありがとうございました!




