ラード作り
「おはよう。 アリスさん、昨夜は助かったよ!
マルゴ、そろそろ来てくれ」
(ルベンさん、ナイスタイミング!)
マルゴさんが考え込んでいるところに、ルベンさんが迎えに来た。
このまま、かまどの事は忘れていいからね…?
「ルベンさん、おはようございます」
「おはよう。 わかった、今行くよ。
アリスさん、留守を頼むが、保存食を作るつもりなら家の調味料を使いな。 自分のは旅に出るまで置いておくんだよ」
マルゴさんは言い置くと、慌しく家を出て行く。
「昨日のハウンドドッグはどうします? 解体しておきましょうか?」
急いで後を追いかけると、玄関先にさっきのおじいさんが持って来たじゃが芋が置きっ放しになっていた。
「帰ってきてからアタシが解体するから、そのまま預かっておいてくれるかい?」
「わかりました。 あと、この芋ですが…」
マルゴさんは玄関先のじゃが芋を見て、
「アシルが持ってきた芋だね? アリスさんが貰っておくかい?」
と聞くので全力で首を横に振った。受け取ったりしたら、治療をしろと押しかけて来られる。
「そうかい。 じゃあ、ルベン。これをアシルのヤツに返してきておくれ」
「なんだ?」
「アタシの留守の間に、アリスさんに治療をねだりに来たのさ。この芋が治療の対価だとよ」
「ああ? 勝手にここに来ちまったのか!? 返すってことは、治療を受けていないんだな?」
「ああ。 断られた腹いせに、この芋をアリスさんに向かって蹴り飛ばしやがったのさ」
「なんだと!?」
そこまで聞いたルベンさんは振り向き、私に頭を下げた。
「アリスさん、すまない! アシル爺には俺からもきつく言っておくから、許してもらえないか…?」
ルベンさんが謝ることでもないのに。
「ルベンさん、頭を上げてください。 もう、マルゴさんが“説得”してくれたので大丈夫ですよ。
皆さんの治療は予定通りに午後からです」
微笑みながら伝えると、ほっとした顔で芋袋を持ち、
「そうか。本当にすまなかった。 これは俺から返しておく。
午後からの治療、よろしく頼むな……」
もう一度頭を下げてから、マルゴさんと一緒に小走りでどこかへ向かった。
「いってらっしゃ~い」
手を振って見送ると、二人とも振り返って手を振り返してくれた。
さて。 マルゴさんが戻ってくるまで、どうしようか?
「保存食を作っても良いって言っていたにゃー」
「言っていたね~」
「作るにゃ?」
そうだなぁ…。 昨日、手ぬぐいを手に入れたから、
「ボアの脂身から、ラードを作ろう!」
「ラードってなんにゃ?」
「美味しい油」
「美味しいのにゃ!?」
「ぷきゅ!?」
「うん、美味しいの」
「作るにゃ!」
「ぷっきゃ~!」
「うん、作ろうか!」
と、気合を入れるほどでもないんだけどね。
脂身を細かく切って鍋に入れ、少量の浄化水を足して火に掛けるだけ。 アクが出てきたら丁寧に取り除いて、油が十分に分離したら、1度塗らした手ぬぐいを使って他の鍋に漉すだけで、
「よし! できた♪」
油とそぼろに分けられた。 この油が冷えればラードになるんだけど、せっかくだからこのままインベントリに収納しておこう。
「それが美味しいのにゃ?」
「うん、この油で炒める料理を作ると美味しくできるんだよ。 ごはんを作るのが楽しみだね!」
そう答えると、2匹は嬉しそうに転がりながらじゃれあい始めた。
片付けが終わってもマルゴさんは戻って来ないので、少し残っているごはんでおむすびでも作ろうかと思ったが、
「まだ、作るのにゃ? 昨日、いっぱい作ったにゃ!」
ハクの言うとおり、塩むすびがまだ26個も残ってる。
「じゃあ、手軽に食べられるように、お肉を入れたおむすびを作ろう!」
「肉のおむすびにゃ!?」
うん、ハクも気になるようだ。 期待に目が輝いている。
残り少ない生姜焼きをフライパンごと複製する。 使う分だけ水気を軽く搾っておむすびの中央に。ご飯の残りを全て使って6個できた。
「おいしそうにゃ! いつ食べるにゃ!?」
「ぷきゅ!?」
ハクとライムも気になるようだ。
「治療に回る前、お昼ごはんに食べようね~」
「楽しみにゃ!」
「ぷっきゅきゅ!」
塩むすびとセットで6セットにして、お釜にクリーンを掛け終わったところでマルゴさんが戻ってきた。
「遅くなっちまって、すまないね」
「お疲れ様でした! お水でいいですか?」
コップに浄化水を入れて渡すと、一息に飲み干す。
「…美味い水だねぇ! どこの水だい?」
とても気に入ってくれたようだ。
「湖の水に【クリーン】を掛けてみました♪」
「水に【クリーン】を使ったのかい? 魔力量が多いアリスさんならではの贅沢だねぇ。 街でなら売り物になるよ」
「水が売り物になりますか?」
日本ではおいしい水を買うのは当たり前だったけど、この生きるのに厳しそうな環境で売れるかな?
「ああ。値段次第だが、金に余裕がある上位ランク冒険者や貴族、豪商が買うだろうね」
あ、ハクの目の色が変わった…。 値段を検討しておこうかな。
ありがとうございました!




