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お仕事 9

「パンがふわふわっ! アリスちゃんのスープは美味しいのにしょっぱくないから大好き!」

「美味しい! 美味しいよ~っ!」

「こんなに美味いもの生まれて初めて食べた!!」

「ほら、もっといっぱい食え! こんな美味い飯、俺たちには二度と食えないんだから!!」

「‥‥‥僕はもう死んじゃうの?」


 今夜のメニューは丸パンとハーピー骨で出汁を取った野菜と卵のスープ、オーク肉のミルフィーユとんかつ&チーズ入りミルフィーユとんかつと果物の盛り合わせ。


 チーズが苦手な子もいるだろうと思って両方用意したんだけどね。この家の子供たちは好き嫌いがないようで、あっと言う間にお皿が空になった。 


 ‥‥‥なぜか悲観的なことを言う子がいてびっくりしたけどね? 周りの子供たちが楽しそうに笑いながら否定しているし、ミネルヴァさんがその様子を見てくすくすとおかしそうに笑っているので私も安心した。





 さっき、調理場まで一緒についてきたミネルヴァさんはドアを閉めると、


「ここまでのことをしていただいているのに、この上食事までお世話になることはできません。食事の支度などは自分たちで行いますから」


 籠の中の野菜を手に取りながら、私を見て言った。


 賃貸契約の性質上、家賃の値上げの心配がなくなった。私との雇用契約で、今までは収入を得ることが難しかった子供たちも稼げるようになった。フランカが残したお金や冒険者たちからの弔慰金もある。


 少しだけどお金に余裕ができたので食事くらいは自分たちで、と言うのが彼女の言い分だ。


 福利厚生の一環だと言ったら、❝公衆浴場の入浴費用❞や❝着替えの衣類&靴❞だけでもこの街にあるほとんどの商会よりも好待遇であると説明され、これ以上甘えるのは良くないことだと力説され、それを聞いていたハクが、


(ミネルヴァも貰うばかりでは困るのにゃ。ちゃんとした大人なのにゃ♪ それに‥‥‥、与えられることに慣れてしまうと子供たちが将来困ると思っているのにゃ!)


 0歳の子猫(虎)とは思えない洞察力で考えの足りなかった私を諫めてくれた。


 何かと厳しいこの世界、私が全てを整えることがこの子たちにとって良いものだとは断言できない。というよりきっと、害になる可能性が高い。


 そのことに思い至って反省をしていると、


「だったら普段は自分たちで飯の支度をして、たまにアリスさんから飯を買わせてもらえばどうだ? アリスさんの飯は目が飛び出るほどに美味いぞ! 


 自分たちの稼いだ金で美味いものを食えるってことは、子供たちの労働意欲につながるだろう」


 ルシアンさんが笑いながら提案した。


「今、金に余裕があっても、この先のことを考えるとおいそれとは使えないってのは当然のことだよな。でも、今が子供たちに金を稼ぐことの❝楽しさ❞を教えるチャンスだと思うぞ?」


「楽しさを教えるチャンス?」


「ああ。金は生きる為に仕方なく稼ぐもんじゃない。どんな環境にあっても、楽しみってヤツがないと生きてくのが寂しいもんになっちまう。その❝楽しみ❞の1つが金で買えるってことがわかっていれば、稼ぐこと、仕事に張りができるってもんだろ?」


 というのがルシアンさんの見解だ。それを聞いたミネルヴァさんはハッと目を見開き、


「日々の生活に追われて余裕をなくしていたようですね。お恥ずかしいことです‥‥‥。 倹約は大切ですが、子供たちに生きる希望を教えるのも大切なこと。


 アリスさん! あなたの作るオーク肉料理を買わせてください!」


 何かを吹っ切るように高らかに宣言するように言った。


 じゃあ身内価格で、と思ったら「お値引きはなしですよ」と先に釘を刺されてしまったので、ハクとライム、ルシアンさんを交えて急いで適正価格を割り出す。


 ‥‥‥ハクとライム、ルシアンさんの出した価格にミネルヴァさんは納得していたけど私は納得できなかったので、計算をやり直したんだけどね? これはあくまでも適正価格の再計算であって、❝お値引き❞ではないんだよ!? 








 みんなが幸せそうな顔で食事の余韻を味わっている中、子供たちの注目を集めたミネルヴァさんは、


「今日の食事は新しい生活が始まったことを祝う特別な物でした。でも、今後のみんなの頑張り次第で、またこのような食事を楽しむことができる日もあるでしょう! がんばりましょうね!!」


 子供たちに発破をかけた。


 目の色を変えた子供たちが畑や組紐の円盤を置いている場所に走りだしのを慌てて止めたことは‥‥‥、いつか楽しい思い出話として語られるに違いない。


 お仕事は日のあるうちだけ!と約束させるのが大変でした。


ありがとうございました!

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