お仕事 8
心配顔で子供たちを見守っていた衛兵さんたちは、私のスカウトに対して首をゆるゆると横に振った。理由は❝職務中だから❞。まあ、当然だよね。
でも、たまたま通りかかった隊長さんが、
「良い訓練になるから、30分だけ手伝って来い」
手に持っていた丸パンを齧りながら許可を出してくれた。
子供たちの歓声を受けながら仲間入りを果たした衛兵さんたちは、笑顔でヤル気満々だ。ミネルヴァ家にまともな農具がないのを見て取ると、すぐさま駆け出して鍬や鋤を調達して来てくれる。
硬い庭の土を耕して畑にするのは大変な力仕事だから、笑顔でお手伝いをしてくれる衛兵さんたちには感謝しないとね! もちろん、快く彼らを貸し出してくれた隊長さんにも!
詰め所に戻る途中だった隊長さんはその場に立ち止まったまま、衛兵さんたちと一緒に畑作りに勤しんでいる子供たちを優しく見守ってくれているので、お礼を言う為に側へと駆け寄った。
「いくら食べても太らないんですか!?」
「ああ。もう少し肉を付けたいと思っているんだが、これがなかなか‥‥‥」
丸パンを齧りながら歩いていて隊長さん。ただの行儀が悪い行動だと思っていたら、彼にとっては大切な仕事の一環だった。
燃費の悪い体質の隊長さんは、油断をするとすぐに痩せてしまう体質らしい。多くの人が痩せたいと願っている日本人女性たちには羨ましい体質だけど、体が資本の衛兵さんとしては不利な体質のようで、魔物や犯罪者に当たり負けしないだけの肉体を維持するために、隊長さんはお腹に余裕がある時は常に何かを食べているそうだ。
だからと言って食べ物にお金を使いすぎると隊長さんのお財布が大変寂しいことになってしまうので、日に2度の食事以外は丸パンや肉串などのなるべく安い食品を食べるようにしているとのこと。
‥‥‥だったら、今回のお礼はこれで決まりだね!
「今回のお礼として受け取ってください。これなら❝賄賂❞認定される心配ないですよね? これでも賄賂認定を受けるようなら、後日改めて詰所の方に❝差し入れ❞をしにお邪魔しますが」
「これは‥‥‥!?」
一部の人にはまだ<家畜の餌>扱いを受けている<米>を炊いて程よい大きさに結んだもの。
「中におかずが入っているので、これだけでも食べられますよ」
具入りのおむすびだ。見た目はただの塩おむすびにしか見えないから誰に見られていても大丈夫だと判断した私は、大皿ごとそれを取り出して隊長さんに渡した。これなら手軽に摘まめるでしょ?
この判断は間違っていなかったらしく、隊長さんは笑顔で受け取ってくれた。お米への偏見も無いようで一安心だ。もしもお米への偏見があるようならハンバーガーにする予定だったので、そうなると渡し方に苦慮するところだったよ。
大量に出したので、お手伝いをしてくれている衛兵さんたちの分も十分にある。隊長さんと話をしている間に約束の30分が経ち、畑にしようとしていた区域の土地をほとんど耕し終えていた衛兵さんたちは、子供たちの感謝の言葉を背に笑顔で詰め所へ戻って行った。
元からある畑の土には子供たちの手でライム特製の肥料が撒かれ、新しい畑にも一通りの作付けが終わった。
ほっと一息ついている子供たちに水分を補給させてから家の中へ入ると、<組紐>組の子供たちも丁度休憩を取っている所だった。
放っておくといつまでも組み続けてしまう子供たちの体調を考慮して、ミネルヴァさんが強引に休憩時間を設けたらしい。
とてもいいタイミングだったので、私からの仕事として<組紐>と<野菜作り>を改めてお願いし、これ以外の仕事でお金を稼ぎたい子には、その旨をミネルヴァさんに相談するように伝えた。
ヴァレンテ君のような職人見習いの子や、Gランク冒険者として活動している子供たちもいるからね。そこは臨機応変に。その為の❝出来高制❞であることを改めて説明して、その後のことはミネルヴァさんに丸投げだ。
今後は私もちょくちょく顔を出すつもりだけど、私に用があるなら宿に来てくれたらいいと伝えて話を締めくくる。
あとは、晩ごはんの支度をして帰ろうと食堂に向かうと、ミネルヴァさんが一緒についてきた。なぜかルシアンさんも一緒にだ。
お手伝いをしてくれるつもりなのかな? ‥‥‥ルシアンさんはお料理ができるんだっけ?
ありがとうございました!




