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お仕事 3

 みんな(こどもたち)が嬉しそうに出かけていくのを少しだけ羨ましそうに見送っていたヴァレンテ君だけど、


「俺に何かできることがあるのか?」


 私が意地悪で彼をお留守番させたとは思わなかったようだ。信頼関係がちゃんと築けているようで嬉しい。


「うん、これをね。真ん中に穴を開けてから全体を磨いて欲しいんの。子供たちに棘が刺さったりしたら大変だから。

 ……これは1枚でどれくらいの手間賃が妥当かな?」


 インベントリから取り出した大量の円盤状の木材を見せると、ヴァレンテ君は怪訝な表情を浮かべる。


 これは昨夜、私が<鴉>を使ってカットしたものだ。ビジューがくれた<(かたな)>は戦闘以外にも使えて本当り便利だよね!


 円盤状の木材の外周には対角線上に32個の切れ込みを入れてある。最初は8個だったんだけど、子供たちがそれぞれで工夫をしてくれることを願って32個にしておいた。


 私が教えるのは本当に基礎の基礎。8個の切れ込みを使って組み上げるベーシックな物だけど、子供たちの発想力に期待してるんだ♪ 


 でも、その分ささくれなどの処理が大変になってしまったんだけど……。引き受けてくれるかな?とヴァレンテ君を窺ってみると、


「……これがその綺麗な紐が作る為の道具なのか? 任せてくれ! チビたちに怪我なんかさせないから」


 ヴァレンテ君はワクワクとした様子を隠さずに円盤をじっくりと観察し、自分の部屋に駆け込むと道具を取って来てすぐさま円盤を磨き始めてくれた。


 その上、私に円盤の使い方を確認すると、


「だったら、この角は必要ないよな……。ここんところ削ってもいいか?」


 と、すぐさま改良を加えてくれる。 ヴァレンテ君に任せておけば、子供たちにも安全な道具になること間違いなしだ!


 当然私もできそうなことを手伝おうとしたんだけど、ヴァレンテ君から「全部俺に任せてくれ」と断られた。


 道具は彼の持っている一組しかないから仕方がないかな、と思ったら、


「1枚100メレもらっていいか……? ……いいのかっ!? すると全部で5,000メレ。へへっ、ばあちゃん喜ぶぞ♪」


 少しでも多く稼いでミネルヴァさんを喜ばせてあげたいからだった。だったら1枚500メレでもって思ったんだけど、


(アリスはどうして値上げをしようとするのにゃ!?)

(だめだよ、ありす。こういうときはねぎらないと~)

「アリスさん。いくら金持ちでも無駄金を使うのは良くないぞ? それにこれは俺たちが稼ぐために使う道具なんだろ? これくらい当然!って顔でいばりながら、無料でやれって言ったっておかしくないんだ。

 もしもアリスさんが破産でもしたら俺たちの家だってこのままって訳にはいかなくなるんだから、気を付けて欲しい……」


 ハクとライムに呆れたような声で叱られて、ヴァレンテ君には困ったようにお説教されてしまったので諦めた。


 うん。実は私は結構貧乏なんだよね。 モレーノお父さまの送ってくれたお(こづかい)のお陰でなんとか必要な物にお金を使えているだけ。無駄(ミネルヴァ家に入るお金なんだから、無駄遣いだとは思わないんだけどね?)に使えるお金はない。


 最近持ちなれない大金を持っていたから感覚が狂っていたようだと反省をして、円盤のことは1枚100メレでヴァレンテ君に全て任せることにした。


 その間に私にできることは……。やっぱりごはん作りかな? ヴァレンテ君にキッチンの使用許可をもらって、携帯食の調理に専念する。


 資金作りの為に販売しちゃったから、自分たちの分のストックが怪しいんだよね。いざという時の為にもいっぱい作って【複製】しておかないとね!












「アリスちゃん! 見て見て! かわいいの!!」


「ほんとだ、可愛い! 良く似合ってるよ!」


 ❝バンッ❞と勢いよくキッチンのドアが開き、嬉しそうな声を上げるなり勢いよく私に向かって飛び付いてきた女の子。 本当は勢いが良すぎてあまり見えなかったんだけどね? 新しいお洋服を褒めてもらいたがっている女の子は素直に褒めてあげるのが紳士というものです(紳士ではないけどね?)。


「クツもなの! わたしだけのクツなんて初めて! アリスちゃん、ありがとう!!」


「うん。靴も良く似合っているよ! サイズはあってるかな? 痛くない?」


「いたくな~い! かわいいからいたくないの!」


 この言い方だと本当に痛くないのか、本当は痛いけど可愛いから脱ぎたくないだけなのか悩む所なんだけど、


「少し大きめの物なので、本当に痛くはないはずです。 こら! キッチンにいる人に飛び付いては危ないでしょう!」


 続いて入ってきたミネルヴァさんの言葉に安心する。


「アリスさん、子供たち全員や私にまで新しい洋服を……。感謝の気持ちをどんな言葉にしたらいいのかわからないほどです」


 と言って嬉しそうに微笑むミネルヴァさんも、出かける前とは違う服を着ている。


 ❝新しい服❞と言っても新品ではないんだけどね? ディアーナが古着屋さんから買い集めてくれたものだけど、さすがはディアーナ! 少女にもミネルヴァさんにも良く似合う物を選んでくれている。


「とりあえず、今日の着替えだけは買ってきたわ。 アリスの注文通り1人に3着ずつの服と1足の靴は揃えられなかったから、また明日他の店を回ってみるつもりよ」


「うん、ありがとうディアーナ! いい趣味してる!」


 心の中でディアーナを褒めていると、当人がキッチンに顔を出してくれたので、満面の笑みでお礼を告げる。


 子供たち全員の分とミネルヴァさんの服を買って、みんながお風呂を上がるまでに公衆浴場まで届けるのは大変だっただろう。 それも、ただの❝間に合わせ❞ではなく、きちんと似合う物を選んでくれているのだから尚更だ。


 でも、ディアーナは、


「とっても楽しい買い物だったわ! 私たちが入った時と出て行く時では店主の態度も大違いで面白かったのよ? さあ、他の子たちも見てあげて?」


 笑顔を浮かべて、ただ「楽しかった」と言ってくれる。 だから私もそれ以上は言葉にせずに、


「楽しみだわ♪」


 嬉しそうな少女に手を引かれるままにキッチンから出て、子供たちが集まっているらしい食堂に足を急がせた。


 ハクとライムは……。振り向くと、2匹ともディアーナの腕の中で可愛らしい鳴き声を上げていた。


 ディアーナの働きを(ねぎら)っているつもりかな?


ありがとうございました!

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