おあずけ
おいしいお肉とおいしいお酒、楽しい食事会の雰囲気に少し酔ってしまったのか、ディアーナに、
「孤児院の土地と家屋を買ったのね? 今後はアリスが経営をするの?」
と聞かれて素直に今後の予定を話してしまったせいで、ラファエルさんは❝優秀な営業❞に早変わりし、ディアーナとシルヴァーノさんは頼りになる❝専属担当&補佐❞にシフトチェンジしてしまった。……3人ともプライベートな時間のはずなのに。
お手伝いを申し出てくれるのを、申し訳ないから、と辞退する私に、
「私にお小遣いを稼がせて♪」
「「我々にも小遣い稼ぎのチャンスを!」」
という魔法の言葉で遠慮を捨てさせ、私の今後の行動に対して自分たちができることをいろいろと提案してくれる。
本当は孤児院の子供たちを心配して、私を手伝ってくれようとしていることはバレバレなんだけどね?
3人の気持ちがとても嬉しかったから、素直に甘えることにした。
ラファエルさんにお買い物の代行とその配送をお願いすると、
「お任せください! 明日の昼までには必ず揃えてお持ちします!」
意気揚々と部屋を出て行き、ディアーナとシルヴァーノさんにはGランク冒険者への依頼の代行と明日ギルドで保存食の買い取りをお願いすることを伝えると、保存食の食べ方を簡単にレシピにまとめてくれ(これはそのまま食べられる、とかお湯をかけて何分ほど待つ、とか野菜を足して食べよう!とかね)、一食分ずつサンプルが欲しいと言うので渡すと、
「商業ギルドと連携して、適正な買い取り価格を試算しておくわ!」
「孤児院にもGランクの子がいたはずです。今夜のうちに依頼をしてきます!」
と部屋を飛び出して行った。
「頼りになるヤツらなのにゃ♪」
「うん。ありがたいねぇ」
ラファエルさんは今回のことで商業ギルドが大幅な利益を得ることはないと理解しているし、ディアーナとシルヴァーノさんはわざわざ時間外の仕事を増やさなくても、明日買い取りカウンターで私を待たせておけばいいだけのことだと理解している。
それでも笑顔で部屋を飛び出して行ってくれた3人に❝骨折り損❞だけはさせないことを、心の中で約束した。
いっぱい用意した極桃オーク肉の晩ごはんは、スレイのお腹に入ることはなかった。スレイが極桃オーク肉を拒否したからだ。
それが「ニールが戻って来たら一緒に食べたい」という可愛らしい理由だったので、ハクとライムの同意の元、極桃オーク肉はスレイとイザックが戻ってくるまでおあずけメニューとなった。
代わりに出した揚げパンとたっぷり野菜のスープはしっかりと食べてくれたので、食欲には問題ないから大丈夫!
ニール! 可愛い奥さんがおいしい極桃オーク肉と一緒に待ってるから、1日も早く帰って来てね~!
「アリスは本当に危機感がないのにゃ~……」
「はくがいるからあんしんしてるんだよ~」
「ライムの上だから、安心しきっているのにゃ」
ぺろぺろと首元をくすぐる温かくて濡れた感触と、頭を支えてくれているぷにぷにながらも頼もしい弾力、ちゃぷちゃぷとお湯の揺れる感触に目を覚ますと、
「あ~……、また寝ちゃったか」
宿のお風呂の中だった。
優しく体を包み込むような温かいお湯と、お湯に浮いている状態でも決して私の頭を落とさない頼もしいライム枕のお陰で、私は今朝もお風呂の中で眠ってしまったようだ。
あ~、睡眠不足もあるのかな。昨夜もやることがいっぱいあってあまり眠れなかったから。
でも、短時間とはいえ極上の気分で睡眠を取れたお陰で、気分はすっきりしている。
今日も忙しくなることだし、気合を入れて頑張るぞ!
と、自分に活を入れ、みんなで楽しく朝ごはんを食べている時だった。
ナントカ伯爵家(発音が難しくて覚えられなかった…)からの使いがアポイントメントを取りに来た。
伯爵家に知り合いはいない。朝から何事かと思っていたら、この宿に宿泊しているロザリアちゃんのお兄さんからのお使いの人だった。
そういえば彼女は伯爵家のお嬢さまだったな。
忘れていた記憶を掘り起こしながら、今から15分後の食後のお茶の時間だけなら良いと返事をすると、きっちり15分後にドアをノックされた。少し前からドアの前で待っている気配があったから、時計で時間を計っていたらしい。……少しぐらいの誤差なら気にしないんだけどね?
律儀な行動に感心しながらドアを開けて部屋へ招き入れると、丁寧なご挨拶と共に可愛らしい花束とお菓子の箱を差し出された。お土産のようなので素直に受け取ると、ジェレミアと名乗ったロザリアちゃんのお兄さんは一瞬だけほっとしたような表情を浮かべた。
(ちゃんと土産を持ってくるなんて、子供のくせになかなかなのにゃ♪)
(おみやげがおいしかったら、このへやのこと、ゆるしてあげてもいいね~?)
……いや、この部屋に代わったことなら全然気にしてないんだけどね? 十分に素敵なお部屋だし。
でも、ジェレミア君は妹のせいで迷惑をかけたと思って、謝りに来てくれたのかな?
と色々想像しながらテーブルに案内してお茶を淹れると、私が椅子に座るのを待ってから、ジェレミア君が立ち上がり、
「妹が迷惑をかけたことを大変申し訳なく思っている。その上、あなたのお陰で妹の婚約がまとまったので、礼を伝えに来たのです。……ありがとう」
軽~く頷く程度にだけど、頭を下げた。
うん? 話が見えないな?
ありがとうございました!




