【クリーン】で終わり【クリーン】で始まる
倒したハウンドドッグをインベントリに収納すると、
「さて、アリスさんは明日も忙しいんだ。早く帰って寝ちまおう。
ルベン、後は頼んだよ」
(そうにゃ、早く寝るにゃ! 明日の朝ごはんも、早いのにゃ♪)
マルゴさんに肩を叩かれハクに後押しさて、周囲の混乱はまだ収まっていないけど、私はマルゴさんの家に戻ることにした。
「ルベンさん、犬2頭、預かっていきましょうか?」
余計なお世話かな? と思いながら聞いてみると、
「ああ、マルゴに解体を頼むことになるから、明日まで預かっていてもらえると助かる」
と頼まれたので、ルベン家のハウンドドッグもインベントリに収納する。
「じゃあ、【クリーン】! また、明日~!」
ルベンさん、マルゴさん、私と順番に【クリーン】を掛けていく。
「! ありがたい!! アリスさん、ありがとう! おやすみ」
「お疲れさん! 何もしてないアタシにまでありがとうよ。さあ、帰ろう」
それぞれ挨拶を交わして、ルベンさんと別れた。
後ろでうめき声と泣き声が聞こえるけど、命には関わらない怪我だったし、消毒代わりの【クリーン】だけはしておいたから放置でいいだろう。
マルゴさんも何も言わなかったので、安心して家に戻った。
マルゴさんに約束をしていた“生姜焼きのレシピ”を書かなくてはいけないことを思い出したのは、ベッドに入ってからだった。
「もう、明日にするにゃ!」
「ぷきゅぷきゅ…」
レシピを書いている間、早く寝ろとせかすハクとライムを宥めるのが本当に大変だった……。
目覚めると、枕元に従魔2匹が揃って座っていた。 珍しい。
「おはよう! お腹空いたの?」
「おはようにゃ! クリーンを掛けて欲しいのにゃ!」
「ぷっきゅ!」
そういえば、昨夜はハクたちにクリーンを掛けていなかった。
「ハクに【クリーン】! ライムに【クリーン】! 私にも【クリーン】 気持ち良いね^^」
「すっきりにゃ♪」
「ぷっきゃあ♪」
うん、ハクはふわっふわで、ライムはすべっすべ! そして私はすっきり!
【クリーン】は本当に便利な魔法だ♪ 手に入って本当によかった!
静かに台所に移動して、昨夜から放置していた煮ボアを温め直してから鍋ごと複製する。 もう、従魔たちに心配を掛けないように気をつけなくては……。
冷めないように2つの鍋をインベントリに入れて、りんご水を飲んでいるとマルゴさんが起きてきた。
「おはようございます! 昨夜はお疲れ様でした」
「ああ、おはよう。 昨夜は世話を掛けたね。 眠れたかい?」
「はい、ぐっすりと♪ マルゴさんもどうぞ!」
りんご水がちょうど4杯分残っていて良かった。 これも作ってすぐに複製をしておけばよかったな…。また作ろう!
「ああ、ありがとうよ。 寝起きに贅沢なことだ」
マルゴさんは嬉しそうにりんご水を飲んでいる。 昨日聞いた話では大金持ちなのに、驕ったところがない素敵な人だな^^
「これ、生姜焼きのレシピです。紙は狸のですけど…。 こういうのにも使って良いですよね?」
流用しちゃった。
「ああ、構わないさ。必要ならもっと持ってくるよ。 これが生姜焼きかい? ……肉をしばらく漬け込むんだねぇ」
「生姜の入った漬け汁で漬け込むことで肉が柔らかくなって、臭みが消えます。 あとはマルゴさんの醤油焼きとそんなに変わらないと思います」
マルゴさんの作った醤油焼きも美味しかった! また、食べたいな^^
「ありがとう。大事にするよ!」
マルゴさんは大事そうにレシピをひと撫でして、嬉しそうにお礼を言ってくれた。
「いえいえ。喜んでもらえて嬉しいです。
それで、私が聞くのも何ですが……、
朝ごはんはすぐに食べますか? 昨夜のご飯を預かっているので、すぐに出せますよ」
「あっはっは! もてなしをする方がもてなされちまってるよ!
そうだねぇ…。 顔を洗いがてら、村の様子を見てきてからでもいいかい?」
さすが、マルゴさん。やっぱりこの人が村の責任者だな。
「わかりました。 行ってらっしゃい!」
「ああ、あるものは自由にしていておくれ。 行ってくるよ」
マルゴさんを見送ってから、りんご水を作っておくことにする。
「ハク、ライム、りんご食べる?」
「食べるにゃ♪」
「ぷきゃ~♪」
お皿を借りて、りんごは従魔たちに。 皮と芯はクリーンで浄化した水を張った鍋に入れていく。
マルゴさんの分も剥いてインベントリに入れておこう。酸化して茶色くなることもなくて、便利だね♪
沸騰させて煮込むだけ。火から下ろしてしばらく放置。うん、簡単! 氷を作れる魔法があれば、冷やして美味しく飲めるんだけどな…。
鍋からりんごの皮を取り出してライムに食べてもらっていると、ドアを乱暴に叩く音がした。
……ドアが壊れたら、ちゃんと弁償してくれるんだろうか?
ありがとうございました!




