誤解を招く行動には気を付けよう 2
「うにゃ~っ!!」
「ぷきゅーっ!!」
「え…? あ! アリスさんっ!?」
往来で繰り広げられる痴話喧嘩らしきものを呆れ半分の好奇心で眺めていると、何を思ったのか、ハクとライムが大声で自分の存在を主張した。
元気いっぱいの鳴き声は賑やかな通りに響いて、2匹の目論見通りルシアンさんの気を引くことには成功したんだけど……、
「何? あんな子をうちらよりも優先するの?」
「約束してたのって、あの子の事なの~? だったら、会えたんだからもういいでしょ? さっさとお断りを言って、わたし達とデートしましょうよ~♪」
ルシアンさんの視線を追って私に気がついた女性2人の、物凄くキツイ視線を受けてしまった。
ルシアンさんの腕に絡みついてしな垂れかかっているのは、とても扇情的なビキニアーマーと胸をことさら強調するようなデザインのドレスアーマーを着た女性たち。……見知らぬ女性たちにいきなり敵視される覚えはないんだけどなぁ。
まあ、救い(?)はルシアンさんが、バツが悪そうながらもほっとした表情をしていることかな。彼には一応歓迎されているみたいだし、
「ここで会えて良かったよ、ルシアンさん! ごめんね、おねえさんたち。今日は私が先約なの」
助け舟を漕ぎ出してみる。
もともと約束をしていた私が合流したのだから、あなたたちは大人しく別の人の所に行ってくれ~?
という思いを込めて言ってみたんだけど、
「は? 何あんた! ルシアンはうちら2人の恋人なんだから、先約はいつだってうちらに決まってんの! あんたなんかお呼びでないよ!!」
「ルシアンはわたしたちのパーティーの大切なメンバーなの。発展途上のお嬢ちゃんは割り込まないでね~?」
返ってきたのは、これがナンパなどではなかったという事実。 この2人はルシアンさんから聞いていたパーティーのメンバーで……、恋人たちらしい。 でも、いくら村を離れて自由を満喫してるからって、いきなり二股交際はどうなんだろう。
私の持っていたルシアンさんのイメージとは随分と違うんだけど、親元を離れて羽目を外し過ぎちゃったのかな? 彼も男性だしね。と呆れながら視線を向けると、
「違うぞ! この2人は確かにパーティーのメンバーだけど恋人なんかじゃない! 俺はBランクに上がるまで恋人なんか作る気はないんだ!
おまえらアリスさんに失礼なことを言うな! 俺は今日は約束があるって昨日から言っていただろう? いい加減に離してくれ!」
ルシアンさんは2人の腕を振り払おうと奮闘中だった。……照れ隠しかと思ったけど、どうやらは本当に困惑して迷惑がっているようにしか見えない。
ハクとライムが面白そうに眺めているので、私もおとなしく観察を始めると、
「ダ~メ! 今日はルシアンから離れるなってリーダーからもキツク言われてんだから! あの子も冒険者らしいけど、登録したばかりのFランクよりDランクのうちらと一緒にいた方がルシアンの為になるって!」
「そうよ~。今日はいつもよりもうんと仲良くなって来いってリーダーも言ってたわ。
Fランクのお嬢ちゃんにルシアンの腕は勿体ないもの。 あの素敵な弓の腕でDランクの私たちを守ってね?」
わかったのは、DランクDランクと自信満々に言っているけど、内容は冒険者登録をしたばかりのルシアンさんに自分たちを守って欲しいってことと、彼女たちの行動はパーティーリーダーの公認…、っていうか、リーダーの指示らしいってこと。
………彼女たちの装備や行動を見ていると、なんとなく答えが出た気がする。
そう、アレだ。話に聞いている<コンパニオン冒険者>ってヤツだ。
旅の途中で一緒だったってことだから、魔物の襲撃などの際にルシアンさんの腕前を知って、囲い込もうと躍起になってって感じかな?
私としては冒険者になったばかりのルシアンさんにそんな❝お荷物❞を背負って欲しくはないんだけど、どうするのかを決めるのは彼自身だ。 何も言わずに静観していると、
「もういい加減にしてくれっ! だったら俺はパーティーから抜ける! もう俺に構うな!」
ルシアンさんがとうとうキレた。
それまでは女性たちに手荒なことはしないように配慮をしていたのに、力づくで抱き込まれていた腕を抜き取り、彼女たちを突き放したのだ。
自分たちが拒まれることは想定していなかったらしい彼女たちは目を丸くしていたが、事態を理解するとそれまでの甘えた雰囲気をどこかへと投げ捨てて、
「うちらを捨ててその子と組むつもり? そんなに簡単に脱退できるわけないじゃん!」
「そうよ。登録したてのルシアンはまだわかっていないだろうけど、一度加入したパーティーを脱退するにはそれなりのルールってものが」
「何もないわよね! パーティーを脱退するのに必要なのは、その人の意思だけよ!」
不条理を押し付けようとした。 パーティーの脱・加入については私が口を挟むことじゃないとわかっていても、これは黙って見ていられない。
彼女たちは私を見て鼻で嗤いながら、
「登録したてのお嬢ちゃんにはわからないかもしれないけどね? 一度パーティーに加入したなら、円満に脱退しないと次のパーティーへの加入に制限がかかるのよ? 問題を起こした冒険者を受け入れてくれるパーティーが他にあるかしら?」
常識の範囲のことを勿体ぶって教えてくれる。
パーティーから無理やりに離脱なんてしたら、次のパーティーでも同じことをされるかもと警戒するのは当然のことだ。誰だってそんな冒険者とは組みたくないだろう。
でもそれは、そのパーティーが常識的なパーティーだった場合の事! 今回のように、登録したての冒険者を食い物にしようとするとするパーティーからは全力で逃げ出すべきだ。
この程度のことなら、私が黙っていてもルシアンさん一人で切り抜けられると思うけど、❝パーティーに食い物にされる(かもしれない)冒険者ルールに疎い新人❞という私にとっては黙っていられないケースなので、くちばしを突っ込むことを許して欲しい。えっと…、二股疑惑を掛けてしまったお詫びということで!
「そうね、確かに登録したての私には詳しいことはわからないから、私の専属担当さんに相談してみましょう。
ルシアンさん、一緒に冒険者ギルドに来てくれる? 頼りになる職員さんがいるから紹介させて?」
視線だけでルシアンさんに謝りながら、彼の空いている腕を引っ張ると、
「んにゃん♪」
「ぷきゃ~♪」
ハクとライムがルシアンさんを先導するように歩き出した。
「は? 新人のくせに専属担当!?」
「見栄を張ると恥をかくのは自分よ~? FランクのあなたはDランクのわたし達に頭を下げて、大人しく端っこに寄っていればいいの」
ルシアンさんを引き留めようと前に回り込もうとする2人が、ハクとライムを蹴り飛ばそうとうするので、
「ねえ、Dランクさんたち。そろそろお口を閉じたらいかが? あなた達の理屈では、ランクが上の方が偉いのよね? だったら、私のすることに口を出すのはどうなのかしら?」
彼女たちを牽制する為にマントの中から取り出したように、冒険者プレートを見せつける。
「何よそのドレス!! そんなものを着込んでルシアンをたぶらかすつもりね!」
「……ご同業だっていうなら、先輩のわたし達を立ててもらいたいわ~」
でも、彼女たちの視線はプレートの前に、捲れたマントから見える私の装備で止まってしまったようで、
「そのプレートはCランク!? アリスさん、やっぱり凄いな!」
私の冒険者ランクに気がついてくれたのは、ルシアンさんだけだった。
………あなた達のご同業に間違われることは多々ありますが、決してご同業などではありませんので悪しからず。
当然、あなた達を立てるつもりも遠慮するつもりもありません!
ありがとうございました!
皆さま、誤字報告をありがとうございます!
とても助かっております^^
 




