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誤解を招く行動には気を付けよう

【遠見の水晶】の使用時間は1組1時間以内。だからあまりゆっくりとはお話できないので、もう解決していることや報告事項は要点だけを聞いてもらって詳しくは手紙を書くことになった。


 残った時間でお父さまとお話したいのは、


「マルゴがネフ村の村長になったら村の税を10年間優遇する約束だったね。領主から新村長への祝いとして通達を出しておいたよ。村長代理に【冒険者ギルドの英雄】オスカーを指名してくれたことで、特別措置を疑問に思う者も出なかった」


 そう。ネフ村への優遇措置の事! 


 ❝新村長への祝い❞として10年も税を優遇されるなら、村長を交代して自分たちの村も税を優遇してもらおうと考える村が出てもおかしくない。私の思いつきでモレーノお父さまに迷惑をかけるのは嫌だったので、きちんと相談したかったんだけど……。オスカーさんの存在で全てが丸く納まったようだ。


 気がかりなのは村の近くにダンジョンが生まれる可能性が高いってことだけど、これは【冒険者ギルドの英雄】オスカーさんがすでに手を打ち始めているようだし、お父さまも「ダンジョンの発生は危険もあるが、村が発展するチャンスだから領主として力になる」と約束してくれたので安心する。


 みんなが毎日お腹いっぱいごはんが食べられるように、ネフ村が豊かになれば良いな♪












 モレーノお父さまにこれからの予定などを相談していると、ドアをノックする音と共に担当の職員さんが入室してきた。 


制限時間がきてしまったようだ。


(アリスの順番までに52分も短縮してるんだから、少しくらい延長させてもらうのにゃ?)


 ハクが意地悪な顔で私を唆すけど、それとこれとは話が別だってちゃんとわかってるよ~?


 ❝しない❞と答えたら満足げな笑顔を浮かべる私の保護者さんは、相変わらず人を試すのがお好きの様だ。……ごはんやおやつを食べている時は、ただただひたすら可愛い子猫なんだけどね~? 食べる量だけは不思議だけど!


 お父さまに手紙を送ることを約束して部屋を出ると、法服を着た裁判官らしき女性が立っていた。次に水晶を使う人だと思い、「お待たせしました」とだけ声を掛けて通り過ぎようとすると、


「職員たちへの差し入れをありがとう。みな喜んで業務に励んでいましたよ」


 穏やかながらも張りのある声が掛けられた。立ち止まって、今回は無理なお願いを聞いて貰って助かったとお礼を言うと、裁判官さんは私に近づき声を潜めて、


「ジャスパーのモレーノ首席裁判官殿に火急の用があったようですね。……この街で何かが起こっていますか?」


 表情の変化を見逃さない、というようにじっと私の目を見つめながら問うた。


 驚きながら自分の行動を振り返ってみると、❝差し入れ(わいろ)を使ってまで時間の短縮を願い出た通信相手は別の町の首席裁判官。業務時間内の首席裁判官が制限時間いっぱいまで話し込む内容❞という条件は確かに何かがありそうな感じだ。……別に何もないんだけどね?


 聞けば彼女はこの裁判所の首席裁判官さんとのことなので、このまま❝何かが起こっている❞と誤解させておくのも良くないだろうと思い、


 自分はとあるご縁でモレーノ裁判官の後見を受けることになった、ただの新人冒険者兼新米商人なのだが、日々の忙しさにかまけて後見人であるモレーノ裁判官への連絡を怠っていた。相談したいことができたので、今日こそは連絡を!と思ってここに来たら思っていた以上の混み具合で、このままだとこの後の予定に差支えが出ると思い、我儘を承知で時間短縮のお願いをしただけ。


 であることを説明する。


 初めは❝たったそれだけの為にあれほどの差し入れを?❞と訝し気だった首席裁判官さんだけど、話に飽きたハクとライムが私の羽織っていたマントを捲って遊び始めると、捲れたせいで見えてしまったキモノの裾を凝視し、


「……あなたのお名前は?」


 唐突に私の名前を確認する。私が名乗ると「あなたがあの…」と何かを納得したような顔で頷き、


「城が建つほどの見事なレースを装備品に使っている新人冒険者さんの話は耳にしていますよ。…痛ましい事件のことも」


 と言うので今度は私がびっくりだ。首席裁判官さんの耳の早さにも驚きだけど、レースで城が建つってどういうこと!? 冗談だよね? 詳しく聞かせて欲しい! と思ったんだけど、


「この後も予定があるのですね? 引き留めてしまったことをお詫びします」


 私を気遣った首席裁判官さんが話を切り上げたので、私もそれ以上のことは聞かなかった。本当に今日はいろいろと予定が詰まっているしね。


 でも、私の❝差し入れ❞が首席裁判官さんの耳にまで届いているのなら、そのことで担当職員さんたちがお叱りを受けることがないかの確認だけはしておかないといけない。


 恐る恐る話を切り出すと、


「不正を持ち掛けていたのなら、モレーノ首席裁判官殿の後見を受けている方でも断固処罰しますが、あの差し入れに❝番を先に回せ❞や❝制限時間を長くしろ❞と言った意味合いがなかったことは確認が取れているので大丈夫ですよ。 担当の職員たちがいつもよりも体力を使っただけの事。その職員たちも嬉々として職務に励んでいたのだから、何の問題もありません。

 不正が絡まない上に頬が落ちるかと思うほどに美味しい賄賂(さしいれ)なら、いつでも大歓迎です」


 と朗らかに笑ってくれた。


 不正は許さないけど四角四面じゃない首席裁判官さん、素敵です!












 裁判所を出てから大急ぎで商業ギルドへ行き、【上級ポーション】のレシピ申請をするついでにいくつかのお願い事をしていると、あっという間にお昼前になってしまった。


 どうして待ち合わせを商業ギルド前にしなかったのかと後悔しながら裁判所へ急ぎ向かっていると、


「もう、いい加減に離してくれ! 俺は急いでいるんだ!!」


 知っている声が聞こえてきた。なんだか苛立っているみたいだ。


 マップを起動しながら姿を探すと、道の反対側でもめているような男女の姿。


 背の高い男性の両腕をそれぞれ胸に挟むように抱え込み、背伸びをしながら男性の頬や顎に唇を寄せている2人の女性が見える。


 ……………ルシアンさん、ナニヤッテルノ?


ありがとうございました!


冷え込みが厳しくなり、我が家でもストーブが稼働し始めました。

皆さま、お体にはくれぐれもお気をつけくださいね!

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