街歩き7日目 4
テーブルの上に並ぶいくつもの革袋。
今回受け取るフランカの遺産やあの2人からの罰金などをそれぞれ別にしているにしても、数が多い。なんだろう?と首を傾げる私に、サブマスが明細を渡してくれながら内訳を教えてくれる。
まずはフランカの個人口座のお金。ヤツらに手を付けられていなかったことは本当に幸いだった。
それからフランカがパーティーに預けさせられていた分のお金。フランカが細かく金額をメモに取ってくれていたから、きっちりと書かれていた分のお金が入っている。
それと、フランカが自分の命と共に葬ったゴブリンの討伐報酬。これは少しだけ色が付いているらしい。ギルマスからの指示のようだ。…ありがたい。
少しだけ離しておいてあるのは、例の2人の所持金と持ち物やスキルの水晶、本人たちを奴隷として売却した代金から、使い込まれていたフランカの預け金を引いた後の金額らしい。これはフランカへの慰謝料だから、当然といった顔で頷いておく。
その隣に置いてあったのは、ビーチェが私に行った数々の迷惑行為に対するギルドからの詫び料だ。ビーチェからの、ではなく、ギルドからの詫び料。……今後の職員教育に期待しよう。
そして最後に残ったのは、ひときわ大きな革袋。
「冒険者たちとギルド職員からの弔慰金だ。一緒に孤児院に届けてくれ。受け取った金をそのまま入れているから少しかさばっちまっているが、アリスが持って行くなら何の問題もないだろう?」
ギルマスの説明と共にサブマスから差し出されたのは何十…百人以上の名前が書かれたリスト。
冒険者ギルドには亡くなった仲間に対する素敵な習慣があるんだな、と感心していると、
「フランカとは初対面だったアリスが、フランカの弔いの為にしてくれたことを知ったヤツらがな。自分たちが知らん顔をする訳にはいかないから、ってさ」
ギルマスがほんの少しだけ誇らしげな顔で言うと、
「金額まで書いちまうと無粋かと思ってね。名前だけしか載せていないが……。多く金を出しているヤツから順になっているよ」
サブマスがこっそりとリストの見方を教えてくれた。
途端に苦笑を浮かべたギルマスとディアーナを不思議に思いながら、改めてリストを上から見てみると、
「……イザック? これって、私の知ってるイザック?」
イザックの名前が一番上に載っていた。その次にあるのがオズヴァルド。
「こういったものは、ギルドマスターの名前が一番上に載るものなんだがなぁ。イザックが出した金は他の奴らとは桁が違ってたんだ。弟はとある事情で貧乏だからな。恰好悪いが仕方がない」
サブマスが小さく笑いながら肯定を返すと、ギルマスは少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「……ありがとう、オズヴァルド! 本当に嬉しいよ!」
有り金は全て私が巻き上げている。だから、ギルマスがお金を出すのは大変だったはずだ。リストの2番目に名前が載っているのは、素直にギルマスの漢気だと感謝してお礼を告げると、
「イザックの奴❝アリスに渡せない分をフランカに貰ってもらうなら、全てが気持ちよく納まる❞なんて言って大金を出していたが、心当たりはあるか?」
リストを指差しながら話を逸らした。ここは突っ込まない方がいいんだろうなぁ。顔が赤いって。
ギルマスの問いには「さあ?」とだけ答えながらリストの名前を1つ1つ見ていく。フランカの為にお金を出してくれた人たち1人1人に感謝しながら視線を送っていると、サブマスや酒場のマスターにミルコ、ディアーナやシルヴァーノさんやこぐま達にセラフィーノ。バルトロメーオ、メラーニア、イルマ、リベラトーレやトリスターノさんなどの知っている名前がずらりと並んでいた。
びっくりして顔を上げると、
「気持ちだけ」
ディアーナが小さく笑いかけてくれる。
「ありがとう」
「ううん。私たちこそ、ありがとう。アリスがフランカ(わたしたちのなかま)の為にしてくれたこと、決して忘れないわ」
お礼を言うと、お礼が返ってきた。
みんながフランカの為にお金を出してくれたことは、きっと、フランカを育ててくれた院長さんの心の慰めになる。それだけ多くの仲間に恵まれたってことの証明のようなものだから。
みんなの気持ちの詰まった革袋を大切に、大切に預かった。
ビーチェの行為に対する私への詫び料もついでにみんなからの弔慰金の中に入れ(何故かみんなから笑われた)、フランカの預金とパーティーへ預けていたお金をひとまとめにすると、余ってしまった革袋。なんとなくインベントリに放り込もうとすると、
「不要な革袋はギルドで引き取るわよ?」
ディアーナがギルドでの常識を教えてくれた。
革袋は結構貴重なものだから、依頼達成時などの報酬を渡す革袋は不要な冒険者からギルドが買い取って使いまわしにしているらしい。
もちろん買い取ってもらって、そのお金も弔慰金の中に入れておく。
さて、大切なお金は全て預かった。 あとは、少しでも早く、孤児院に届けてあげないとね!
ありがとうございました!




