従魔をもふる夜
まずは薬作りでもしようかな~。と考えていると、ハクが真剣な顔で、
「明日の朝は煮ボアを食べる前に、複製するにゃ!」
と言うので、じゃあそうしよう。 と暢気に思っていると、
「今朝の生姜焼きも、どうして食べる前に複製しなかったにゃ!?」
牙を剥いて叱られてしまった……。
「思いつかなかったから…」
と正直に答えると、
「旅に出てから、美味しいごはんを食べたくないのにゃ!? アリスは果物と米だけで旅を続けるのにゃ!? アリスは塩だけで、肉と魚を食べ続けられるのにゃ!?」
ハクに捲くし立てられ、ライムには体当たりをされた……。
確かに、食材はあっても調味料も設備もない旅先で、今のような食事ができるとは思えない。
2匹の心配はもっともだし、なにより、私を心配してくれているのが伝わってくる。
「そうだね。ごはんのことは、もっとちゃんと考えないといけなかったね。 明日、マルゴさんに相談してみるよ」
反省すると、ハクは尻尾をゆらりと一振りし、ライムは私の足元でぽよぽよと跳ねた。 思っていた以上に心配を掛けていたらしい。
反省と感謝を込めて、心ゆくまで2匹をもふり倒した。
「も、もうやめるにゃ…」
「ぷきゃ~…」
もふられ疲れたらしい2匹に鳴かれたので、しぶしぶ手を止める。
「アリスは何かをするんじゃなかったのにゃ?」
従魔たちの可愛い反応に夢中で忘れかけていた。
「今日は薬を作ってみて、副作用の検証をしようかと」
「ないにゃ♪」
「え?」
「薬師スキルで作る薬に副作用はないにゃ。効くか効かないかのどっちかにゃ!」
あ、そう? そっか。することが一つ減ったな…。 副作用がないのか……。
なにそれ、すっごい便利!! 地球の製薬会社が喉から手を出す勢いで欲しがるスキルだよっ!
作るものが安全なら、安心して売れる♪ いっぱい作っていっぱい売ろう!
その為に、まずは自分とハクとライムに【クリーン】!
持ち物を【クリーン】!
ビン27個、鍋10個、包丁・ナイフを9本、フライパン4枚。 全てに【クリーン】を掛けても、ぜんぜん余裕だ。 不自由なく魔法を使えるって、本当に便利だな♪
クリーン後のビンを鑑定してみると、
名前:ビン(小)
状態:優
備考:形状はどこにでもある普通のビンだが、雑菌ひとつ付いていない
よし! お料理&製薬の基本『清潔』クリア!
大きな鍋に湖の水を出して、【クリーン】を掛けると、
名前:浄化水
状態:優
備考:不純物を取り除いた水
:とても美味しい
やった! 清潔で美味しい水ができた♪ 水袋の水にも掛けておこう!
次に、バンパイアバットの血液をこぼさないように慎重にビンに集めたが、倒してから回収するまでに流れ出てしまった分が多かったようで、大きなビンに1本と半分しかなかった…。
これを小さなビンに1匹分だけ入れて【クリーン】してから、薬草を2株と湖の水をいれて【製薬】すると、
名前:増血薬
状態:普通
備考:体内にある血液を増やす
:不味い
“かなり不味い”がただの“不味い”になった!
バンパイアバットの血液は、【クリーン】を掛けても性質が変わらないらしい。 なら、湖の水を浄化水に変えて、【製薬】!
名前:増血薬
状態:優
備考:体内にある血液を増やす
備考欄から“不味い”の記載が消えた!
これで飲みやすくなったはずだ♪ 味見する気はないけど…。
これ以上の改良は思いつかないので、ストック分も作っておく。
次は、朝まで放置していたバンパイアバットの血液に【クリーン】を掛けてから【製薬】!
名前:増血薬
状態:普通
備考:体内にある血液を増やす
:不味い
元のバンパイアバットの状態がイマイチだと、【クリーン】を掛けても、出来上がりは一段落ちるらしい。
何をするにも素材が大事ってことだね。
次は、薬草を5株と湖の水を、【製薬】!
名前:初級ポーション
状態:普通
備考:軽度の怪我が治る
普通のポーションができた。 これを浄化水に変えると…、
名前:初級ポーション
状態:優
備考:効き目のいい初級ポーション。 初級以上中級未満
水を替えるだけで、効き目が強くなった!
「初級以上中級未満なら、割高でも売れるかな?」
期待を込めて言ってみたら、ハクは呆れたような溜息を吐き、
「アリスは甘いにゃ~。
もっと、小さいビンに初級ポーション1回分を移して、3割り増しで売るのにゃ♪」
と楽しそうに笑った。 …今夜も守銭奴ハクの降臨です。
ハクの気合が怖いけど、解毒薬も作っておきたい。
毒消し草2株と薬草1株、浄化水を使うと、
名前:解毒薬
状態:優
備考:Dランク以下の魔物の毒の解毒ができる
:低威力の細菌の毒の解毒ができる
「Dランク以下の魔物の毒って、どのくらい強いの? これって売り物になるかな?」
なんとなく、弱そうだな~と残念に思っていると、
「Dランク以下の魔物に効くなら、十分に売れるにゃ! 低ランク冒険者には必需品にゃ~♪」
ハクが喜んでいる。 いくらで売れるのかはわからないけど、まあ、元手はタダだしね。
もう少し作っておきたいけど、小ビンが少なくなってきたから、やめておこう。
「アリス~、まだ寝ないのにゃ?」
思ったよりも製薬に時間がかかったらしく、ハクに就寝を促された。
「あとは、複製だけして寝るから、ハクもライムも先に寝ていていいよ~」
と勧めてみると、
「待つにゃ! 一緒に寝るにゃ~」
「ぷきゅ~」
2匹は拒否して、足元に擦り寄ってきた。
あ~っ! もう! うちの仔達、本当にかわいい♪ 早く複製を終わらせて、抱っこして寝よう!
今日の残り回数は5回。
ハウンドドッグから出た【ウインドカッター】の魔石の複製はできなかった。 残念!
「ハク、スキルの魔石、複製できなかったから使ってもいい?」
【クリーン】の魔石でやらかしたから、きちんとお伺いを立ててみると、
「仕方がないのにゃ。複製のレベルが上がったらできるようになるかもしれないけど、今は戦力強化にゃ!」
ハクは、思っていたよりもあっさりと認めてくれた。 複製のスキルレベルが上がるまで待てって言われなくて、良かったよ。
「【アブソープション】♪」
【クリーン】の魔法を取得した時と同じように、心臓を通して熱が体を満たす。
「取得できたにゃ?」
「うん、できたと思う。魔石の色も薄くなってるしね」
試してみたいけど、村の中で攻撃魔法を試し撃ちするわけにもいかないから、魔石の色で判断する。 【鑑定】を使えばわかるけど、他の項目に目がいって、寝るのが遅くなりそうだからやめておいた。
「でも、どうして“犬”の魔石が“風”なんだろうね?」
「襲ってきた時に、鎌鼬の風みたいなのが飛んできたにゃ。あれがウインドカッターだったんじゃないかにゃ?」
不思議に思っていると、ハクが説明をしてくれた。
「そっか! さすが、ハク! 良く見てるっ!」
「ぷきゅきゅーっ!」
ライムと2人掛りで褒めると、ハクはそっぽを向いて顔を洗い始めた。
照れてるしぐさがかわいいっ!
複製の続きも忘れて、ライムとひとまとめにもふり倒した♪
「早く、複製をすませるのにゃ!」
「ぷっきゅ!」
もふられ疲れた2匹に体当たりをされて、しぶしぶ2匹から離れて複製に戻った。
・おむすびを24個12セットを同時に複製。 複製失敗。
・おむすびを2個1セットなら、成功。 今後、効率のいい複製を検証する。
・1人前だけ残っているボアの生姜焼きをフライパンごと複製。 成功。
・ワイルドボアの各種ブロック肉。 失敗。 生姜焼きは複製できたのに…? 要検証。
・ワイルドボアの魔石。 失敗。
・ハウンドドッグの魔石。 成功。
・コボルトの魔石。 成功。 ……魔物の強さが関係しているのかな?
・初級ポーション。 成功。 小ビンと中身がセットで複製できた。
「これで5回。複製もまだまだわからないことだらけだね」
「そうにゃ~。でも、金目の物と、美味しいものは優先して複製する癖をつけるのにゃ!」
「は~い。気をつけます!」
心配してくれているハクのお説教が始まらないうちに、早く寝よう!
ハクとライムに改めておやすみのキスをして抱きかかえ、素早くベッドに潜り込んだ。
ありがとうございました!




