街歩き 6日目 1
今日の朝ごはんはカスタードと果物たっぷりのドルチェピッツァとラフトマトのサラダ。と、ポルチーニ茸入りの卵粥に野菜とオークの炒め物。
ディアーナは幸せそうな顔でドルチェピッツァに手を伸ばしていて、私は卵粥をおかわり中。長年の食生活はなかなか変えられるものじゃないからね。無理に合わせることはないと思って別々の物を出したら、ディアーナは❝家なのにお店みたいで贅沢だ❞と笑ってくれた。
個人の好みに合わせて別々の物を作るのは大変だけど、私はインベントリのお陰で作り置きの中から好きなものを選ぶだけなので、ちっとも大変じゃない。ビジューには本当に感謝だよ!
「職員さんたちとギルマスは仲良しだね~」
「ギルマスは懐の深い方だから、安心して頼れるのよ」
ビーチェが冒険者ギルドを解雇になって、人手が足りなくなっただろうと心配したディアーナはここへ来る前にギルドに様子を見に行ったらしい。もちろん少しでも仕事を手伝うつもりで。
でも、職員さんたちは目の回りそうな忙しさの中でも楽しそうに仕事をしていて、ディアーナには私のエスコートを全力で頑張るようにと言いながらギルマス冒険者たちをこき使っていたらしい。こき使われていたギルマス達も「俺たちの分もアリスを頼む」と送り出してくれたので、遠慮なくギルドを出てきたそうだ。
……サブマスがディアーナの使っているデスクに、緊急ではない仕事を積んでいることには気がつかないふりで。
「まあ、ディアーナは私の案内がお仕事だもんね。……疲れたら遠慮なく言ってね?」
「こんな仕事ならず~~っと!続いて欲しいわね。 今朝も朝からこんなに豪華なごはんを食べさせてもらってるし、可愛いハクちゃんとライムちゃんには遊んでもらえるし、いろいろと楽しいことばかりで最高の仕事だわ!」
ディアーナを連れまわしている自覚があるので少し反省が必要かと思ったんだけど、彼女がハクとライムをなでなでしながら本当に楽しそうに笑って言ってくれるから、私も安心して、今日の希望を口にした。
「今日もいっぱい食べたわね! お腹は苦しくない?」
ディアーナ用の朝ごはんと私用の朝ごはんの両方をぺろりと平らげたハクとライム。相変わらずの不思議空間だ。……どうして太らないのかも不思議だよ。
食後の散歩がてら買い物の続きをしようと宿から出たんだけど、散歩が必要だろうと思われる2匹は、部屋を出てからず~っと、私の肩の上から動こうとはしなかった。 散歩は不要らしい。
まあ、私とディアーナもスレイとニールの背中の上にいるので、散歩にはなっていないんだけどね。
……実はスレイとニールは少しだけ成長したんだ。……横にね。
街に入ってから食べる量と運動量が釣り合っていなかったらしく、2頭が太ってしまったことを心配した兄妹の為に、スレイ達から同行を申し出てきた。兄妹を安心させる為に運動しているアピールをしてあげるなんて、随分と気に入っているようだと感心していると、
(スレイとニールもアリスと一緒にいたいだけなのにゃ~)
(ハ、ハク兄上! 我らは従魔としての心得はきちんと……)
(ハク兄さま、わたくしたちはきちんと待っていられる優秀な従魔ですわ!)
ハクがいたずらっぽく笑って言うのを聞いて、スレイとニールが慌てた様子で弁解するのが可愛くて嬉しかった。 お気に入りの兄妹の為かと思っていたら、私たちと一緒にいる為の方便だったなんて……。
もう、可愛いんだから~! もっと一緒にいる時間を作らないとね♪
トレント材を預ける為に馬車の工房へ行くと、スレイを一目見る為に、職人さんが総出で出て来てしまった。
スレイもニールも職人さんたちの視線なんてものともせずに胸を張っているのが頼もしい。2頭の堂々とした姿を見た職人さんたちが、
「この美しいスレイプニルにふさわしい馬車を作るぞ!」
「カッコいいスレイプニルにはカッコいい馬車でないと許せない! 頑張るぞ!」
と士気を上げてくれたのは、思わぬ収穫だ。
「将来がとんでもなく楽しみな美少女に似合う優美さも必要だ!」
「カッコ良くて優美か……。腕が鳴るぜ!」
「「「やってやるぜっ」」」
なにか不思議な連帯感も生まれていたようだけど、工房主さんの希望する場所にトレント材を積み上げるのに忙しかった私にはよく理解できなかった。 トレント材に興奮する工房主さんが側にいたせいもあるのかな?
まあ、なんにしても。 みんながヤル気になってくれているのは、ありがたいことだ♪
ありがとうございました!
 




