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断罪 7

 人間は嘘で自分を守る生き物だ。


 ギルマスがそう悟ったのはまだ一桁台の子供の頃だったらしい。 


 ギルマスの物心が付く頃に開花したスキルは❝相手の言う言葉が嘘である時にはその声がとんでもなく不快に感じる❞というもので、今の所はギルマスにしか確認されていない極レアのスキルのようだ。


 幼い頃は常にスキルが発動している状態で、大人が子供の機嫌を取るために吐くその場しのぎの嘘や、いたずらがバレそうになった子供が大人に叱られないように吐く嘘、友人間で相手の為にと吐いた嘘や、恋人の機嫌を取るために吐く嘘など、様々な嘘がギルマスの耳と心を痛めつけたため、幼い頃はいつも誰かの言葉に怯えたような顔をしている子供だったそうだ。……ギルマス(くま)がそんな繊細なスキルを持っていることにもびっくりだけど、そんな子供時代を送っていたことにもびっくりだな。今のギルマスからはとても想像できない。


 でも(ギルマス)のスキルに気が付いたお姉ちゃん(サブマス)が、弟の前では決して嘘をつかず、また、嘘で弟を傷つけた人にきっちりと報復をするなどしてギルマスを守っていたお陰で人間不信になることもなく、大きくなるにつれて少しずつ自分の意思でスキル発動のon-offができるようになると、このスキルが自分を守る為の物であると思えるようになり、成長して冒険者になってからは不誠実な依頼人や自分を出し抜こうと画策する悪意ある冒険者の罠や悪意を躱しながら依頼を遂行するうちに、今の地位まで上ることができ、ギルマスとなってからは、その能力をギルド内で起こるトラブルを解決するのに役立てていた、と。


「見た目にそぐわない、繊細なスキルを持っていたのねぇ……」


「うるせぇよ! ちっ! アイツと同じことを言いやがる……」


 ❝アイツ❞とはこの街の裁判所の筆頭裁判官で、ギルマスが若い頃に受けた依頼を遂行する途中に知り合ってギルマスのスキルに気が付いた人で、今回来てくれた裁判官のお母さまだそうだ。


「特例措置とは、筆頭裁判官がオズヴァルド殿に与えたこの街だけで使える特例です。 彼が真実であると❝誓い❞さえすれば、我々裁判官はオズヴァルド殿の要請に従い裁判を省略した上で<真実>や<断罪>の水晶を使用することができる。我々裁判官も暇ではないので時短になるのはありがたい。 


 今回の調査書の写しもすでに受け取っているし、議事録やこの手紙の内容にも不審な点は見当たらない。そろそろ始めてもよろしいか?」


 サブマスからゆっくりと説明を聞いている間に、裁判官は今回の議事録と手紙に目を通し終わってしまったようだ。


 えっと、自分は忙しい身の上なのでさっさと用件を済まして帰らせろってことだよね? 了解です。


 いろいろと気になることはまだ残っているんだけど、別に今すぐに聞かなければならないことじゃない。裁判官に向かって軽く頷くと、裁判官は一瞬だけ柔らかい微笑みを浮かべてすぐに消した。そして、私たちが話をしている間に椅子に縛られて<断罪の水晶>を握り込まされていた男に、


「おまえはフランカに告白したが振られてしまい、逆恨みをしていた。 これに間違いはないな?」


「なっ、違う! そんなことは嘘…じゃない! そうだ! あの女、俺が目を掛けてやったって言うのに無下にしやがったんだ!」

「はあっ!? なんですって!? ちょっと! それはどういうことなのっ!?」


 最初の尋問を始めた。 ……私も聞きたい。それってどういうこと!?


「その後フランカを強引に逢引き宿に連れ込もうとして失敗したな? その頃からフランカに対する搾取がひどくなった」


 途中で女の方の尋問に代わっても、


「おまえは自分が失い始めている若さを持ったフランカを妬んでいた。その上、金持ちの依頼人がフランカの仕事ぶりを褒めて自分の息子の嫁にと誘ったことで憎しみが止められなくなり、事あるごとにフランカに八つ当たりをするようになった。間違いないな?」


 裁判官の口から出てくる尋問内容は、パーティー間の揉め事と呼ぶにはあまりにも稚拙で……。


 途中から、水晶を挟んで2人の手を握らせて、


「お前たちはそれぞれの理由でフランカを憎み日頃から搾取していた。その為に、ゴブリンの群れに襲われた時には躊躇うこともなく、フランカを生贄にして自分たちが逃げることにしたんだ。 間違いないな?」


「……そうよっ! これであの女の顔を見ないですむようになると思うとせいせいしたわ! もう、あの女と比べられることはなくなったの! 最高ね! ……嘘よ! そんなこと思ってないわ!」

「俺を振った愚かな女を俺の役に立ててやったんだ! けっ! ざまあみろっ! ……違う! 俺はあいつを殺すつもりはなかった!」


 フランカが命を捨てることになった原因を究明した時は、あまりの理由に心が冷えた。


「そんなことで、人の命を……?」


 目の前が赤く染まるほどの憎しみを必死に抑えている間も裁判官の質問は進み、それに否応なく答えさせられているヤツらの手から<スキルの水晶>生まれ、ヤツらの手を覆っている袋が水晶でふくらみを増していっていたが、私にはどうでもいいことだった。


 この手で裁きを受けさせたい。 その思いを押し殺すのに、必死だったんだ……。


ありがとうございました!

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