街歩き4日目 & 5日目
ヒンヒンと力なく鳴きながら甘えるように身を摺り寄せてくるスレイとニールを撫でてやり、何かあったのかと聞いてみると、
(主より頂戴したものを断りなく他者に譲ってしまい、その結果主のお手を煩わせることに……)
2匹は大きな体を小さく折りたたんで申し訳なさそうに反省の言葉を口にする。
(そんなことは気にしなくていいんだよ。自分たちの分を分けてあげただけなんだから何の問題もない。あの幼い兄弟が可愛かったんでしょ?)
確かに突然の訪問にはびっくりしたけどね。そこに悪意があったわけでもないし私は気にしていないと告げても、2頭はしょんぼりとした様子で顎を地に付けたまま動かない。どうしたものかと考えていると、
(スレイとニールは、あの子供たちにあげて減ってしまった分をアリスにねだるつもりだったのかにゃ?)
((!! いいえ! そのような恥知らずな真似は決していたしませぬ!))
(だったらいいのにゃ! アリスはいつも十分な量のごはんをくれるから、自分たちの能力を損ねないだけのごはんをしっかりと食べてからなら残った分を世話役にあげようが、今後できるかもしれない自分たちの配下にあげようが、それはスレイとニールの甲斐性なのにゃ! 今回のことは気にするにゃ!)
ハクが話をまとめてくれた。
もしもスレイとニールに❝配下❞ができたなら、その配下の分のごはんも私が出すよ。と思ったんだけど、今は黙っておくことにする。せっかくハクがまとめてくれたんだから、余計なことは言わない方が良いよね?
話は聞こえていなかったはずの門番さんたちも、❝一件落着!❞みたいな顔で私たちを見ているし、この話は一旦ここでおしまいだ!
木の陰からこっそりとこちらの様子を見ていた厩舎の職員さんに2頭と、2頭の晩ごはん預けてからすっきりとした気分で部屋に戻る。
お風呂でゆっくりと疲れを癒し、今日も元気に晩ごはんを平らげるハクとライムを見ながら明日の分の活力を補い、日課の【複製】をしてからふかふかのベッドに潜り込む。
……❝休日❞の方が、森で狩りをしている時よりも忙しい気がするのは気のせいかな?なんて疑問を持ちながら瞼を閉じると、あっと言う間に眠りの世界に引き込まれた。
この日の分の【複製】も、ひたすら食料品に費やしたのは言うまでもないかな? うちの仔たちが❝配下❞を作った時の為にも、十分な食料を準備しておかないとね♪
ゆっくりと朝風呂を楽しんでいる途中にハクが耳をぴくぴくさせたので急いでマップを起動させてみると、宿にラファエルさんが入って来るところだった。この街のギルドマスターが同行しているのは想定内だったけど、この時間に来るのは想定外だったよ。 みんな朝の行動が早いなぁ!
急いでお湯から上がり【ドライ】で一瞬で自分たちを乾燥させ、手早くキモノを着込むだけ。ビジューの創ってくれた身体はお肌もツヤツヤで化粧の必要がないので、それだけで準備は完了だ。宿の従業員さんが部屋の扉をノックする時にはテーブルの準備までもが余裕ですんでいた。
案内の従業員さんの後ろにはラファエルさんとギルドマスター、総支配人さんと料理長さんにディアーナの合計5人。……ディアーナに今日の予定を話すのを忘れていたよ。
ラファエルさん達に状況をきいたのか、扉を開けると挨拶だけをして帰ろうとするディアーナを引き留めてテーブルに案内する。 優秀なマネージャーさんに聞かれて困るような話じゃないからね。
ハクとライムがディアーナを間に挟むように席に着くと、ディアーナも優しく目を細めて2匹の頭を丁寧に撫で始める。 ラファエルさん達もディアーナに聞かれて困ることはないと思っているのか、それぞれが好きなように席についてくれた。
堅苦しい席順を用意していないことを総支配人さんが覚えてくれていて、ラファエルさん達を誘導してくれたから説明の手間が省けてちょっと得をした気分。さすがは総支配人さんだ♪
簡単な自己紹介をした後はみんなにメニュー表を渡して早速朝ごはんタイム……、の前に、少しだけお付き合いをしてもらおう。
テーブルの上には番号の振った水を入れているピッチャーが複数と、それぞれの前には空のグラスだけ。
不思議顔の皆さんに、
「朝ごはんの前に、お水の試飲をお願いします♪」
にっこり笑顔で、試飲の協力要請をする。
本当は昨夜眠る前に済ませる予定だったんだけどね? うっかりと忘れていたんだ~。
お腹が空いているだろうにごめんね? きっと、すぐに終わるから!
終わったら朝ごはんにしようね♪ ハク&ライム! そんなに露骨にがっかりした顔をしないでよ!
ありがとうございました!
 




