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街歩き4日目 8

「これディアーナに似合いそう!」

「アリスのイメージだと……こっちね! ああ、でもこれも素敵!」



 山のように積まれたデザイン画を1枚1枚じっくりと見て、❝自分が着たい服❞と❝ディアーナが着た所を見たい服❞に仕分けしていく。 ディアーナも同じように自分の分と私の分を選んでくれているからお相子……って言いたいけど、なぜか私におすすめの方が断然多い。


 ディアーナが最初に私の服を探しに来たって息子(てんちょう)さんに言っていたから、私の好みに合わせたデザイン画多いのかな。


 どれも素敵なデザインなんだけど、実際に自分たちが着た所を想定すると不要な物も出てくる。それらをそっと脇に寄せると、それらのデザイン画はご両親(てんちょうさんたち)に続いて入って来た従業員さんの手でどこかへ片付けられる。とても丁寧に扱っているのでなんとなく目で追っていると「アレは彼女たちの教材になります」と息子(てんちょう)さんが教えてくれた。


 お店の中の従業員たちにもランクがあってご両親(てんちょうさんたち)と一緒に顧客のお家へ同行できるのは、従業員たちの中でも1ランク上の礼儀と教養を身に付けた従業員さんたちで、希望するとデザイナーとしての勉強もさせてもらえるらしい。


 逆にいうと、余程の才能がないといきなりデザイナーになるのは難しいようだ。


 ということは……。お店の中に残っていた従業員たちはそれなりだった、ってことかな? ご両親(てんちょうさんたち)と一緒に戻って来た従業員さん達からは不快な視線を感じなかったしね。視線が合うと浮かぶ微笑みはとても自然なものだったし。


 ………着物ドレスを観察する視線は鬼気迫るものがあったけどね? とても勉強熱心だったってことで、忘れよう^^


 微笑みを送ってくれた従業員さんに微笑みを返していると、


「ああ、そういえば。新人の教育が間に合っていないみたいだね。 店に出すのは早すぎたんじゃない?」


 息子(てんちょう)さんがご両親に向かってサラリと言っているのが聞こえた。


 いきなりどうしたのかと息子(てんちょう)さんを窺うと、店長さんの視線は留守番をしていた従業員を向いていて、従業員から視線を逸らせたかと思ったら、そのままお父さま(てんちょうさん)と目と目で会話を始めたようだ。


 器用だな~と思いながら思わず眺めていると、1つ頷いたお父さま(てんちょうさん)は私たちの目の前にある❝購入候補リスト❞を手に取り、ゆっくりと1枚1枚に目を通した後、ディアーナの前に1枚、私の前に2枚のデザイン画を置いて、


「お詫びとお詫びとお礼」


 呟くように言うと同時に頭を下げた。


 いきなり何のことかと目を丸くする私たちの前で息子(てんちょう)さんのお母さまが慌てて居住まいを正し、


「お客さま方には当店の店員が失礼をいたしましたようで誠に申し訳ございません。

 また、こちらのお嬢さまには主人とわたくしが❝お客さま❞に対する礼節を忘れた行動をとってしまったことを深く反省し、お詫びいたします。 と同時にわたくしたちに素晴らしいドレスと技術を見せてくださり学びの機会を与えてくださったお嬢さまに深く感謝しております。

 こちらの3点をお客さま方へのお詫びと感謝の気持ちを込めて当店から贈らせていただきたいのですが、受け取っていただけますか?」


 言い終わると同時に深く頭を下げる。その間、店長さんはずっと頭を下げっぱなし。


 困惑する私たちを見かねたのか、


「どうか受け取ってやってください。……お嬢さまの❝大したランクの店ではない❞と言う発言に目が覚める思いがしました。両親が今まで積み上げてきた❝店の格❞が従業員の視線1つで落ちたことへの恐怖を味わい、従業員に驕りを許した店の不手際に気が付く機会をいただきましたことへの、感謝の気持ちを形にしたいのです」


 説明と同時に息子(てんちょう)さんまで頭を下げてしまった。息子(てんちょう)さんの言葉に驚いて顔を上げたご両親(てんちょうさんたち)が再度頭を下げるのと同時に従業員さん達まで……。


 ❝大したランクの店ではない❞なんて言い方はしていないんだけど、確かにそれに近いことを言った記憶はある。でも、たったそれだけのことで息子(てんちょう)さんのお店よりも明らかにお高いだろうお店の服を無料で受け取ることには抵抗を感じたんだけど……、私たちが応じるまでこのままかと思うとそれもかなり居たたまれない。だから、


「わかりました。その3着はいただくことにします。それとは別にコレとコレとコレとコレも仕立ててください。とても素敵なデザインばかりで気に入ったわ」


 それ以上の買い物をすることで折り合いをつけることにする。当初の予定以上の枚数になるけど、ハクが呆れたようなため息を吐くだけで怒っていないようだから気にしない。


「生地はあまり高価なものでないもの……。う~ん。この辺りかな? 肌触りが良いことが第一条件だけど、あまり高価なものは使わないで欲しい。普段使いの服にあまりお金をかけるつもりはないの。

 あ、ディアーナの」


「私のものはもう少しお手頃な布で! そうでないと着ていける場所が限られちゃうもの。 私もそれとは別にコレとコレをいただきます」


 ディアーナの物はディアーナの気に入る素敵な生地で、と言おうとしたら勢いよく遮られてしまった。


 苦笑し合う私とディアーナの後ろで、


「ねえ。黒髪が綺麗なお客さまの選んだ生地って、普段使い用の生地じゃないわよね!? 十分すぎるほど高級な生地よね!?」


 従業員さん達がぼそぼそと話している声が聞こえた気がするけど気にしない。


 だって、日本で買ってた服はお値段が可愛いものでも、肌触りが悪いものはあんまりなかったんだもん!


 でも、この世界では布を作る技術があまり進んでいないのか、肌に痛い布とかも普通にあるんだもん!


 お値段は結構大変なことになるかもしれないけど、譲れないラインがあるんだもん! 


 だからハク、そんなに深いため息を吐くのはやめてくれないかな? 天然でとても素晴らしい毛皮を身に付けているハクにはわからない気持ちだろうけどね? 


 ❝着心地❞はデザイン以上に大切なんだから!


ありがとうございました!

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