異世界のお金
「アリスさん、この猪は5万メレでどうだい?」
「はい、毎度あり♪」
相場がわからないので、マルゴさんの言い値でOK。
「代金はここを片付け終わってからでいいかい?」
「もちろんです。そろそろルベンさんがいらっしゃる時間ですし。
明日も続きをお願いしますね?」
「ああ、任せておくれ!」
後片付けと言ってもほとんどすることはない。
必要な物をインベントリにしまうだけ。 廃棄物はライムが頑張ってくれたし、汚れは、さっき手に入れた【クリーン】の魔法で一瞬だ。
脂と血で汚れた解体ナイフも、軽く水洗いをしてから【クリーン】を掛けたらきれいになった。 水洗いはいらなかったかもしれない。
【クリーン】魔法、最高♪
マルゴさんが肉を片付けている間が暇なので、かまどを借りてりんご水を作ってみた。
と言っても簡単なものだ。 今朝のりんごの皮と種をはずした芯を水から煮込むだけ。
「なんだ? いい匂いがしているな?」
ルベンさんもいい香りだと感じてくれているらしい。 夜に出すので、お楽しみに♪
「アリスさん、ショウガヤキ美味かったよ。ありがとう。 鍋、忘れないうちに返しておくな」
「お口に合って良かったです^^」
にこにこしながら鍋を返してくれたので、口に合ったのは本当らしい。 嬉しいな^^
「ルベン、来てたのかい。ちょっと待ってておくれ。
アリスさん、待たせたね。 54,700メレだ。確認しておくれ」
「何だ?」
「アリスさんが村と店に肉を安く譲ってくれたんだよ。その代金さ」
5万4千700メレ。 じゃらじゃらがいっぱい。
初めてのこの世界のお金は思ったよりも重かった。 銀色のが多分小銀貨で…。
「どうしたんだい?」
「え?」
「じっと見つめているからさ。 ……もしかして、金を見るのは初めてかい?」
「!! 良く、わかりましたね? 知識としてはあるんですが、見るのは初めてで……」
(いいのかにゃ? 世間知らずだと自分で言ってるにゃ)
(外国から来たことにすれば、別におかしくないでしょ?)
(……アリス、この世界は統一通貨にゃ。どこへ行っても同じお金にゃ)
(えええええっ!? やらかした? 私、変な人? 今までお金を見たこともないほど貧乏な人って思われて、引かれちゃう!?)
「そうかい、初めて見るのかい。 じゃあ、説明してやるよ」
「マルゴ…?」
「この銀色のが小銀貨=10,000メレになる。 この大きい方の銅貨が大銅貨=1,000メレだよ。 この小さい方の銅貨が中銅貨=100メレになる。
枚数をかぞえておくれ」
(ルベンさんはちょっと戸惑ってるけど、マルゴさんは動じていない。 大丈夫な感じ?)
(今のアリスは『とんでもなく世間知らずの、お金持ちのお嬢様』だと思われてるにゃ~)
(マルゴさんは、私が1メレも持っていないって知ってるよ?)
(アリス、自分を見下ろして見るにゃ。 絶対に、貧乏な人には見えないにゃ!)
ハクの言うとおり、ビジューの作品はとても高価なものにしか見えない…。
「アリスさん? もう一度説明しようか?」
「いえ! 大丈夫です。ありがとうございます。 ちょうど、いただきました!」
「夜にでも他の硬貨も見せてやるよ。と言っても、高額硬貨は置いていないけどね」
「はい、助かります!」
知識だけじゃ、困るよね。 マルゴさんの申し出はとてもありがたい。
「アリスさん、悪いがもう少し待っていてくれるかい? 肉を先に村の貯蔵庫に入れてくるよ。
ルベンは付き合っておくれ。 他の顔役にも先に声を掛けておく」
「ああ、わかった」
「すまないね。家にあるものは好きに使ってもらってかまわないよ」
治療を急ぐ患者さんはいなかったし、私もやることはいくらでもある。
「わかりました。
あ、ついでにお使いをお願いしても構いませんか?」
「なんだい?」
「この<増血薬>を昨日の2人の患者さんに渡してください。すっごく不味いので、頑張って飲んでもらってくださいね。 いらないと言われた時は、そのまま持って帰ってもらえますか?
飲み終わった後のビンも返して欲しいんですが、……やっぱり私が行った方がいいですか?」
昨夜作った増血薬。 エメさんのお宅は自分で行って状態を診たいけど、金物屋さんは………。
「いや、アタシが預かっていくよ。代金は?」
「昨日の治療の続きなので、受け取り済みになります」
「そうかい…。わかった。行ってくるよ」
「いってらっしゃい! ゆっくりで大丈夫ですのでお願いしますね~」
できたら感想もお願いします!
午後から治療した患者さん達は比較的軽傷だったけど、皆さん治療を希望した。
痛みの辛さよりも、痛みで思うように動けないせいで仕事ができなかったり、畑が荒れていくのが辛いらしい。
7名の治療で米3kg、じゃが芋7.5㎏、大根9本、人参4㎏、小麦粉4㎏、小ビン10個、手ぬぐい5本を支払ってもらった。大漁だ♪
「治療の対価は本当にそれでよかったのか…? 雑貨屋で受け取ったもの以外はほとんどが土がついたままの野菜じゃないか……」
ルベンさんは心配してくれたが、
「十分です。 皆さん、ヒール数回分程度の軽傷でしたからね」
米に野菜に小麦粉に手ぬぐい。欲しかったものばかりだし、小ビンはいくつあっても無駄にならない。
今日治療した人の中に、狸(村長)の家から脱出した時に謝ってくれた人の旦那さんがいた。
両足を骨折して動けなかった為に筋力が落ちていて、治療した後も少しだけ歩き辛そうだった。ヒールで傷は治せたが、弱った筋力は本人が努力するしかないらしい。
治療の失敗を疑われたので理由を説明すると、とても申し訳なく思ってくれて、お孫さんの結婚祝い用の綺麗な服を渡そうとしてくれた。さすがに貰えないから野菜を貰ってきたけど。
「アリスさん、今日回った家は雑貨屋以外、金の余裕がない家ばかりだったようだが偶然かい?」
マルゴさんは、よく見ているな…。
「私が欲しい対価を支払ってくれそうなところから、優先して回りました」
ごねそうな家は後回しにしました。
「…そうかい」
何か言いたそうだけど…。 まあ、いいか。
「もう、陽も落ちますし、今日はこれくらいにしておきますね。
お腹が空いたので帰って晩ごはんにしませんか? と言っても、昨日解体してもらったボア肉しかないんですけど…。
午前中にホーンラビットの解体をしておけばよかったな…」
(ハク、ごめん! 今日もボア肉でいいかな?)
(ボア肉はおいしいにゃ! アリスが料理をしたらもっともっとおいしいにゃ♪)
(ありがと♪ がんばるよ!)
ハクは問題なし。
「ボア肉に文句なんか言うもんかい!」
「ああ、楽しみだ!」
二人も問題なし。この感じだと、ライムとルシィさんも大丈夫だろう。
マルゴさんもルシィさんもお料理上手だから、私もとっても楽しみだ♪
ありがとうございました!




