街歩き3日目 9
分厚い生地に色々な具材を乗せて焼くアメリカ風のピザを、故郷の日本風の味付けでまとめた私の好みの一品は、1枚をみんなで分け合って食べるピッツァの新しい食べ方として受け入れられた。 みんなで分け合うことで、何種類もの味を楽しめるというのがよかったらしい。
……私の感覚では食べもののシェアは当たり前だったからちょっとだけ意外だったけどね。この土地では薄い生地のピッツァを1枚丸ごと食べるのが❝当たり前❞過ぎて、思いつかなかったみたいだ。
ただ、リベラトーレさんのお父さまの作ってくれる生地がおいしいから簡単に受け入れられた面もあると思った私は、ついつい、いたずら心も手伝って、
「これは…っ! コメを使っているのか? 美味しくて腹持ちのいい、素晴らしい❝新作❞だ!」
「この料理は、アリスさんの携帯食を使って遠征先でも楽しめるかも!」
「これは……、ピッツァではない。ピッツァでは決してないが……、炊きあがっているコメを使うことで手間や材料費を抑えた上に腹持ちのいい素晴らしい料理になっている!」
日本でご飯を炊きすぎて余ってしまった日の翌日に流威が良くリクエストをしてくれていた、残りご飯を使った<ライスピザ>を作った所、なんだかとっても受けてしまった。
イザックやリベラトーレさんなどは、
「作り方、見たよな? 簡単だったよな!? 遠征先でも食えるぞっ!」
「そうだな。これならコメさえあれば簡単に作れるな。野営中にコメを炊くのは少しだけ手間だが、それだけの価値はある」
「ああ、おまえはまだ知らないのか。 コメをわざわざ炊かなくても、水を入れておくだけで食えるようになるコメをアリスが開発したんだ。 移動中でも遠征先でも簡単に美味い飯が食えるぞっ!」
「なんだとっ? それは本当か!? アリスは冒険者の救世主だな!」
なぜか、固く握手をした手を振り上げながら喜びを表していた。
喜んでもらえて嬉しいよ。うん。 ……でもこれって、冷蔵庫の残り物お片付けレシピなんだよね。なんか、ごめんね?
気を取り直して最後の1枚をお皿に乗せる。特にディアーナが大喜びしてくれた<ドルチェピッツァ>。
カスタードと果物をたっぷりと使った1枚は、試食会の最後の1品にふさわしいように色合いにも気を配って目にも楽しい1枚に仕上がっている。
それまでほとんどの料理を一口くらいしか食べなかったディアーナが嬉しそうに頬張っている姿は見ていて楽しいし、そろそろお腹がいっぱいになっているはずの試食者たちが揃って「おかわりをくださいっ」と叫ぶように訴えてくれているのも嬉しいんだけど、うちの仔たちが一心不乱に幸せそうに食べている姿は何よりも私の心を癒してくれる。
このレシピは閉まっているお店に招待をしてくれたリベラトーレさんと、時間外の突然の客に嫌な顔もせずにおいしいピッツァを振舞ってくれた店主夫妻のお陰で作れたものなので、
「皆さんがご覧の通り、ピッツァの生地を作れない私に代わって、こちらの店主さんがピッツァ生地を作ってくれたの。そのお礼に、私の登録する全てのレシピの使用料をこのお店からはいただかない方向でお願いしたいんだけど……。ラファエルさん、どうかな?」
ささやかなお礼を考えてみた。
「はっ? 全てってなんだ!? 全てって、全てなのか!?」
「嫌だわ、あなた。聞き間違いに決まってるでしょ!」
「そうだよな? はははっ……。 アリスさんが作った<ピッツァ(?)のレシピ限定だよな」
元の約束の❝新しく作ったピザのレシピ使用料をいただかない❞から少しランクアップさせた私なりのお礼は、ご夫妻を混乱させてしまったけど、ラファエルさんの、
「こちらのご夫婦のお店への特例処置ですね。……今回の登録レシピが対象ですか?」
「これまでとこれからの全ての料理レシピを」
「承知しました。では、こちらのご夫妻がお店を経営されている間のみ、アリスさんの登録される全てのレシピの使用料を免除させていただきましょう」
了承の返事は、ご夫妻とその息子のリベラトーレさんの動きを完全に止めてしまった。
「あははははははっ! やったな、リベラトーレ!おやっさん! こんな破格な礼なんて、そうそうあるもんじゃねぇぞ! さっさと覚醒して礼でも言っとけ?」
なぜか大笑いをしているイザックと、苦笑を浮かべているディアーナを見ても、私は何にも気にしない。
だって、あのハクとライムが文句を言ってこないんだもん。私は何にも間違っていない!
気をよくした私は胸を張って……、ハクとライムにおかわりの1枚を差し出した。
ん? この後はカスタードクリームだけを器にいっぱい食べたいの? いいよ、たぁんとお食べ♪
ありがとうございました!
 




