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街歩き2日目 4

「俺がおまえから何を奪うって言うんだ! 治療費だぁ!? そんなもん、おまえに払わせるつもりなんざ、端っからねぇんだよ!」


 殴られて床に倒れてしまったマッシモよりも悲痛な顔をして、イザックが吼えるように怒鳴った。


 ジャスパーのダビが盗賊に流した情報が元で片足を失くしたマッシモが、これも一つのタイミングだと冒険者からの引退を決意した時、他のメンバーに死者が出ていたこともあってイザックは彼を引き留めなかったらしい。


 当時、【リカバー】を使える<治癒士>がジャスパーに不在だったこともあり、マッシモが故郷のラリマーに戻ると言った時も、それまでの冒険者活動でそれなりのお金を貯めていたことを知っていたから安心して別れたそうだ。


 なのにイザックが今回この街で探し出したマッシモは足の治療をしていないだけでなく、無事だったはずの片目と手の指を2本、そしてもう片方の腕を失くし、生きる気力までもほとんど失ってしまっていたのだ。


 今朝、宿で私に説明をしてくれたイザックは、マッシモがここまで傷つき追い込まれていたことを知らずにいたことをとても悔やんでいる様子だった。


 だからイザックが「アリスから預かっている金を使わせてくれ。足りない分は俺が払うから、あいつの治療をして欲しい」と言った時、私はイザックの為に、一刻も早くマッシモを治療しようとここまで急いで来た。


 だから当然、切れた唇から血を流して床に倒れ込んでいるマッシモよりも、彼を殴って拳を傷つけているイザックの方が気になるんだけど……。


 イザックは「まだマッシモの治療費を支払っていないから。足りなくなると困る」と言って治療を拒否する。


 ……イザックがこぶしの痛みを放置することで心の痛みを緩和させようとしているようで、見ていてとても痛々しい。


「350万メレ」


「ん?」


 イザックの治療をするために、さっさとマッシモの分の治療費を受け取ることにした。 


「350万メレ。イザックのお友達の治療費だよ。 早く頂戴?」


 そして、早くその拳の手当てをさせて!


 急かすように手のひらを向けてずいっと差し出すと、


「これだけの怪我の治療がたった350万メレぽっちなわけがないだろう!? なにを企んでいるんだ?」


 マッシモが割り込んできた。とても憎々し気に私を睨んでいるけど……、ま、どうでもいっか! 


 イザックに向かって、❝早くっ!❞と急かすように出した手の指先を小刻みに上げて見せると、


「………いくら何でも安すぎるだろう?」


 呆れたようにため息を吐いたイザックは、私が❝イザックの仲間へのお見舞い❞として渡した革袋と、もう一つ別の革袋を私に投げて寄越した。 ……中を確認して、両方ともイザックに投げ返す。


「だから350万メレだってば! それ以上は1メレだって受け取らないから!」


「確かに俺は金を持っていない! だからといってイザックがおまえの食い物にされるのを黙って見ているつもりはないぞ!! こいつだけはこんな目に遭わせない!」


 頑なに❝350万メレ❞にこだわる私を見て、何かを勘違いしたマッシモが食いかかってきた。


 ………へぇ? 自分の為ではなく、イザックの為に怒れるんだ?


 イザックを庇うように立ち上がったマッシモを見て、私の中で育っていた暗い感情が少しだけ薄れる。でも、私の話しの相手は彼じゃない。


「私はイザックが頭を下げるからあなたの治療をしたの。だから治療費を払うのはイザックよ。あなたは黙って引っ込んでて」


 治療を拒否していた人を勝手に治したんだから、治療費の請求ができるわけがない。もちろん、タダ働きもできるわけがない。 治療に見合った代金を受け取る為に改めてイザックに視線を向けると、困ったような表情で私を見ていた。


「これだけの怪我の治療がどうして350万メレなんだ? ……俺はアリスを食い物にする気はないぞ?」


「イザックはアルバロと同じだけ大事な人ってこと! 私も食い物にされるつもりはないよ?」


 簡単に答え過ぎたのか、もっと困った顔になったイザックに改めて説明をすることにする。


 ジャスパーでアルバロの昔の仲間?の義足男性の足を【リカバー】で治療した時、私が受け取った代金は350万メレだった。 アルバロにはとってもお世話になっていたから、お友達がすぐに出せると言っていた金額だけ受け取ることにしたんだ。


 その時から決めていた。もしも、他の3人の為に【リカバー】が必要になることがあったなら、その時は今回と同じ❝350万メレ❞で引き受けようと。


「こいつの怪我はあの時よりもずっとひどい怪我だぞ? それなのに同じ金額でいいのか?」


「うん。どんな怪我でも同じだよ。 アルバロ・マルタ・エミル、そしてイザック。みんな同じだけ大切な人だもの」


 これはハクとライムにも了承を得ていたことだ。2匹(ほごしゃ)の同意があることを話すと、イザックは、


「ありがとうな! 本当に、ありがとうな……!」


 革袋から350万メレを取り出して支払ってくれた。


 ハクとライムを片腕で抱え、私の手をもう片方の手で握りしめて感謝を伝えてくれているのを見て、


「こんなことが、本当にあるのか……? 俺はまだ……死なないんだな」


 マッシモが声を震わせながら呟いているけど、気にしない。


 私が気になるのはイザックの拳の怪我と……、半分壊れたドアからこちらを覗いて呆然としている少年の顔。


 ……何かご用ですか~?  


 できたら今見たこと、❝治療費❞のことについてはお口を閉じておいて貰えると嬉しいんだけどな~?


ありがとうございました!

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