少女の事情 2
我儘少女改め、伯爵家の令嬢ロザリア。
領地は金が採掘できる山があり裕福なようだがその分ご両親が忙しく、今回は兄妹だけ(護衛やお付きはいるけど)の旅行でラリマーに来たらしい。
兄妹だけで旅行に出してくれるなんて、ロザリア達も十分にご両親から信頼されていると思うんだけどね。
『……信頼されているのはお兄さまだけよ。 本当は今回の旅行はお母さまと2人で来る予定だったのに、お母さまのご都合が悪くなって中止になる所だったの。
でも、お兄さまがご一緒にこの宿に泊まるならって……。私だって1人でも……』
乱れた筆跡から彼女の憤りを感じるけど、11歳の少女を1人旅させる親御さんはいないと思うよ? たとえ護衛&お供つきでもね。
私が年上で成人もしていると知ったロザリアは、昨日の様子が嘘のように素直な態度を取っている。窓から見せる顔もぷくっと頬が膨れていて、とても子供らしい。
でも、この旅行の目的は❝近隣の貴族家令嬢たちとの顔合わせ(お友達作り)&お茶会の練習の為❞のものらしく、とても子供らしくない。 貴族の家のご令嬢は大変だな。たまには我が儘も言いたくなるか……。
『宿を移りたがっていたようだけどここは気に入らないの? 私はとても良い宿だと思うよ?』
『だって、ここには何もないから……。 昨日のお茶会でお友達になった伯爵家と子爵家の子たちが自慢していたの。自分たちの泊っている宿は催しがいっぱいで楽しいって。この宿は、格式はあっても古臭いって……。この宿に泊まっている私は流行が理解できないおこちゃまだって……』
私が門前払いを食らった宿の片方、この街で3番目に高級な宿ではいろいろなイベントが催されているらしく、それを自慢され、自分の泊っている宿を貶されて悔しい思いをしたらしい。 それで自分もその宿に移ろうとした、と。 でも、それって……。
『ロザリアは催しに興味を持ったの? それともその令嬢たちと一緒の宿に移ってもっと仲良くなりたかったの?』
『家を出る時にお母さまが、お友達を作って来なさいって言ったから。だから……。 マスケラータとかも楽しそうだし……。
でも、お兄さまがとても怒ってるから、もう、お茶会にもマスケラータにも行かせてもらえない…!』
『マスケラータ?』
『うん。宿泊客だけじゃなく、芸人や街の商人たちも参加していてとても楽しいって言ってた。 素敵な出会いもあるって!』
……宿泊客だけじゃなく、芸人や商人も参加する仮面舞踏会? それって防犯面は大丈夫なの? 素敵な出会い? 危険な香りがするのは気のせいかなぁ?
『仮面の着用が許可されている不特定の人が参加する催しなんて、私は怖くて行きたくない。かなぁ』
『………お兄さまも同じことを言ってたわ』
『自分の泊っている宿の自慢をするのは良いけど、だからといって友達の泊っている宿を貶すのはどうなのかなぁ? ロザリアは彼女たちのどこが気に入ってお友達になったの?』
『え…? だって、彼女たちは今回のお茶会の参加者の中で目立っていたし、向こうから声を掛けてくれて……』
それ以上の言葉が続かなかったらしい。 私が手紙を読み終えて顔をあげると、困ったような顔で私を見降ろしているロザリアと目があった。
……迷いの表れた頼りない目をしている。
『お友達はゆっくりと話をしてみて、❝ここが素敵❞❝ここが好き❞だと思える子を選んだ方が良いと思うよ?
そうしないと相手を大切に思えないし、自分が相手を大切に思わないと相手も自分を大切に思ってくれないんじゃないかな?
今のロザリアは表面上のことだけで判断してるよね? 今の状態でお茶会に出席し続けて、お友達になれるかもしれない素敵な令嬢たちとの出会いのチャンスを潰さないように、お兄さんは今回は外出を禁止したんじゃない? 怒っているんじゃなくて、ロザリアのことを思いやっているんだと思うよ?』
私の手紙を読んでどう思ったのか、ロザリアからの返事はないし窓から姿も見せない。 手紙を届けたハクも戻ってこないので、ロザリアの反応がわからないけど……。
私の考えを押し付けてしまったから、気を悪くしちゃったのかもしれない。
ライムを抱きしめながら庭を眺めていると、フェンスの向こうにディアーナが歩いてくる姿が見える。 そろそろ潮時かな?
「ハク~。戻っておいで~。ディアーナが来たから出かけるよ!」
(では、我らは戻ります。主、お気をつけて行かれるのですぞ!)
(主さま、お疲れになったらいつでもお呼びくださいまし。ハク兄さまの心話なら、この街のどこにいても届きますので)
それぞれの言葉で❝いってらっしゃい❞をしてくれたスレイとニールが馬房に戻って行くのを見送っていると、代わりに従業員さんの案内でディアーナが庭に入って来た。
「おはよう! 今日の装いもとっても素敵ね!」
「おはようございます! ふふっ。せっかくのお出かけなので、頑張りました♪」
ギルドでは一つにまとめていた髪をおろしてハーフアップにしているディアーナは、いつものキリっとした美人さんのイメージが和らいで可愛らしい印象になっている。
「んな~ん!」
「ぷきゃ~♪」
ハクとライムも気に入ったようで、とても楽しそうにディアーナの足元で歓迎のすりすりを披露して、ディアーナを大喜びさせている。
ロザリアとはちょっと気まずい終わりになってしまったけど、まあ、仕方がない。
気を取りなおして……、
「とりあえず、行こっか!」
今日はお出かけの為のお出かけだ! 楽しむぞ~♪
ありがとうございました!




