初めての製薬
「ライム、ちょっと手伝って~」
「ぷきゅ!」
「何をするにゃ?」
「【増血薬】を作りたいから、バンパイアバットの血を回収するの。 ライムは部屋を汚さないように、広く伸びられる?」
お願いすると、ライムはぷるりと震えて薄く広く伸びていき、端を上に向けて折り曲げた。
「…………ねえ? スライムってこんなに有能で気が利く魔物なの?」
思わずハクに聞いてみると、
「多分、突然変異…、にゃ~」
ハクも自信なさそうに答えた。
「ライム、上にものを乗せるよ?」
「ぷきゅ♪」
大丈夫そうなので、ライムの上で鍋を1つと小瓶を3つ出して水洗いをする。 ライムがそのつど水を吸収してくれるから、本当に楽だ♪
鍋の中にバンパイアバットの血を3匹分集め、きれいに洗った薬草を6株入れてスキルを発動する。
「【薬師】スキル、【製薬】!」
上手くいって……!
鍋の中から優しい光が溢れ、光が消えるとそこにはラズベリー色の液体があった。
名前:増血薬
状態:普通
備考:体内にある血液を増やす
:かなり不味い
成功した! 初めての【製薬】が成功した!!
「アリス! おめでとにゃ!」
「ぷっきゃーっ!」
「ありがとう!」
「いっぱい作っていっぱい儲けて、お風呂付の宿に泊まるのにゃ~♪」
……ハクはやっぱりブレないなぁ。 うん、いい宿に泊まって、おいしいものをいっぱい食べようね!
「……っ!! っ!!」
こ、呼吸が! 息ができないっ!?
「やっと起きたにゃ~」
「ぷっきゅ…」
焦っていると従魔の声が聞こえ、同時に顔に張り付いていた何かがはがれて、やっと呼吸ができるようになった。
「なにが起きたの…?」
「お腹が空いたのにゃ!」
………ハク? なぜ、こっちを見ないのかな?
「何が起きたの?」
「アリスはお寝坊さんなのにゃ~」
「………」
ハクは私を見ないし、ライムは一言も鳴かない……。
「ハク、何をしたの?
正直に言わないと朝ごはんを出してあげないよ? 私と一緒にダイエットする?」
「お腹が空いたのにゃーっ! ごめんにゃ~! アリス、ごめんにゃ~っ!」
「……何をしたの?」
「ぷきゅ……」
「朝なのにアリスが起きないから、起こすためにライムに顔に貼り付いて貰ったのにゃ~……」
「……私を殺したかったの?」
お腹が空いた殺人事件!? そんなマヌケな死に方はいやだよ……。
頭の中でマヌケな戒名の捜査本部が思い浮かび、げんなりしているところにハクの朗らかな声が聞こえた。
「アリスはそんなことじゃ死なないにゃ! ちょっと苦しいだけにゃ~♪」
「ハク! 反省してないね!?」
「ごめんにゃあ!」
「ぷきゅう……」
しばらく反省してなさい! 私は2匹と視線を合わせずに、一人で部屋を出て行った。
「マルゴさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。 よく眠れたかい?」
「はい、おかげ様でゆっくりと♪ ……ゆっくりと眠りすぎて、従魔に殺されかけました」
マルゴさんからも叱ってやってください…。
「ああ? なんだい、そりゃあ?」
「息苦しくて目が覚めたんです。そうしたら顔にライムが貼りついていて…。 お腹を空かせたハクの指示でした」
「はあ? ……あんた達は本当に仲がいいんだねぇ!」
私の訴えを聞いたマルゴさんは笑い声をあげる。 ……叱って欲しかったのに。
「マルゴさんは早起きですね? 昨夜は後片付けをお任せしてしまって…。 ありがとうございました」
「年寄りは早起きなのさ。 ハクちゃんと同じでアタシも朝ごはんが楽しみでね。早く顔を洗ってきておくれ」
マルゴさんに促されて顔を洗って戻ると、ドアの内側でハクとライムが鎮座していた。
「反省しているようだね。アリスさんの戻りをそわそわしながら待っていたよ」
「そうですか? 入り口を塞いでしまってすみません。 ほら、早く顔を洗って朝ごはんを食べよう!」
待っていたのは私じゃなくて、朝ごはんだろうけどね~? 反省する姿がとても可愛かったから、許すことにした。
2匹を洗ってマルゴさんの家に戻ると、香ばしく甘い香りがしてきた。 これは焼きたてパンの香り!
しょうが焼きにはご飯派だけど、焼きたてパンに挟んで食べるのも美味しそうだ!
「お待たせしました! 焼きたてのパンですか? いい香りです♪」
「もうテーブルに置いてあるよ」
「すぐにおかずを出すので、お皿を貸してください」
りんごの皮を手早く剥いて8等分に切ったら、塩水を入れた鍋に入れていく。 3つ分切ってから振り返ると、大き目のお皿が4枚置いてあった。従魔の分も同じお皿を用意してくれるのが嬉しい♪
皮と芯はインベントリに大事にしまい、お皿にたっぷりのしょうが焼きと、千切りキャベツの代わりにりんごを置いた。
(美味しそうにゃ~♪)
(ぷっきゅきゅ♪)
「朝から肉とは、豪勢だねぇ! 遠慮なくいただくよ」
「はい、私たちも遠慮なくいただきます♪」
マルゴさんは食前の祈りを、私たち(ハクとライムも参加するようになった)は『いただきます』の挨拶で、朝ごはんを食べ始める。
(おいしいにゃん♪)
(ぷっきゃーっ♪)
「焼きたてパン、本当においしいですねぇ!」
「このショウガヤキ?も美味しいよ! 真似していいかい?」
「いいですよ~。レシピ、書きましょうか?」
軽い気持ちで聞いてみると、マルゴさんが一瞬だけ動きを止めた。
「……いいのかい?」
「? はい」
「そうか。 …もらえるとありがたいね」
「今夜にでも書いて、明日渡しますね」
「ああ、楽しみにしているよ」
(あ~ぁ、またにゃー)
ごはんを夢中で食べていたハクが、突然ため息を吐いた。
(え、何? また何かいけなかった!?)
(アリスは甘いにゃね~)
(え、ハク? 何? 説明してよ~!)
その後、何度聞いてもハクは答えてくれなかった。 レシピを渡すだけなのに何がいけないんだろう……?
ありがとうございました!




