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話せばわかる。 ・・・・・・人もいる

「先日は俺が悪かった! 許して欲しい」


 ❝教材❞としてワイルドボアとスフェーン以外の地域で狩ったオークの肉をライモンドに預け、私たちはディアーナを探して受付に向かっていた。


 明日からの買い物の予定にワクワクしながら歩いていると、前方から一人の男性が駆け寄って来ていきなり詫びの言葉を口にする。


 突然の謝罪にびっくりしていると、男を追って来たシルヴァーノさんが苦笑交じりに教えてくれた。


 彼は以前ビーチェと一緒に、私がスフェーンで倒したゴブリンを「他の地域で倒したゴブリンを箔付けの為にまとめて提出した浅はかな新人」疑惑をかけて嘲笑った冒険者で、今回ディアーナから事情を聞いてわざわざ謝りに来てくれたらしい。


 ディアーナは解体担当さん達が書いてくれた鑑定書を早速有効活用してくれたようだ。


「あの後ほかの奴らからもアリスさんの話を聞いて、ビーチェの話と齟齬があることは感じていたんだが……。あんな言い方をしてしまった俺から声を掛けるのはちょっと、な。気まずいって言うか……」


 彼は鼻の横をぽりぽりしながらバツが悪そうな顔で言葉を詰まらせたけど、


「自分が他の冒険者たちに不当に扱われるのを受け入れるなら、謝罪などは必要ないかと」


「…って言われてやっと気が付いたんだ。 本当にすまなかった」


 改めて、深く腰を折って謝ってくれた。 


 どうやらシルヴァーノさんに諭されたらしい。


(あの件では周りの冒険者たちも不愉快そうな顔をしていたらからにゃ~。 まあ、これで、この男の寿命も多少は伸びたかもしれないのにゃ!)


(ん?)


(普段は一人で活動する冒険者も、ギルドからの強制依頼などでパーティーを組まされることがあるにゃ。その時に周りから嫌われていたら……、きっとやりにくいのにゃ!)


 あ~、なるほど。 そういうこともあって、彼以上にシルヴァーノさんがほっとした顔をしてるんだ? 面倒見のいい人だなぁ^^


 彼からの謝罪を受け入れ、シルヴァーノさんの人柄に感心しながら受付に向かうと、


「「「「「アリス(さん)!!」」」」」

「私たちのパーティーに加入すること、考えてくれた?」

「いや、俺たちの所だろう? 俺たちはパーティーハウスを持ってるから、宿代が浮くぞ!」

「うちはベテラン揃いだから、ギルドの事から魔物のことまでいろいろと教えてやれる! うちに入るだろう!?」


 ディアーナの所にたどり着く前に、冒険者たちに囲まれてしまった。 


 この状況にもそろそろ疲れて来たなぁ……。


 彼と話し始めたシルヴァーノさんを置いて来たことが間違いだったと気が付いたけど、今更どうしようもない。


 ディアーナは受付業務の最中で今すぐこちらに来るのは難しそうだし、どうやって切り抜けようか……。


 誰が手の空いている職員さんに話しかけてみようかと周りを見回すと、


「………(ぷいっ)」

 偶然目が遭ったビーチェに睨まれた上に露骨に顔を反らされた。


(ムカつくのにゃ……っ!)

(あいつ、きらい!)


(まあまあ…。落ち着こうね?)


 ビーチェの態度に不快感を表明するハクたちをなだめながら少しずつ受付に近づいていると、❝ビシッ❞という音が響くと同時に急に冒険者たちの壁が割れる。


「サブマス!」


 ギルド内で鞭を使うなんて危なくないのか?という疑問は置いておいて、このチャンスに急いでサブマスの元へ向かう。


 勧誘ルールの❝勧誘は職員と話をしていない時だけ❞が効力を発揮して、冒険者たちが散ってくれたのでほっと一息ついていると、


「モテる女は辛いねぇ?」


「これが❝モテる❞ってことなら、一生モテなくていいわよ!」


 握ったこぶしで口元を抑えながら笑っているサブマスに冷やかされた。 …と思ったら、いきなり真面目な顔になり、


「勧誘は❝冒険者ギルド内❞のみだからね。依頼の受注・遂行には影響しないから安心してくれ。 普通に声を掛ける分には規制できないが、そこは大目に見て欲しい。

 それより、……ビーチェがすまないな」


 サブマスが頭を下げた。


「わざわざサブマスが謝るようなことじゃないでしょ?」


 私としてはビーチェに反省してもらえたらそれでよかったんだけど、サブマスの考えはそうではないらしく、


「いや、ギルドの職員教育が行き届いていないせいで冒険者に不利益を与えてしまったんだ。責任者の1人として詫びるのは当然だ」


 とのことだった。それならば、と謝罪を受け入れることにした。 


 耳目が集まっている場所での謝罪は❝ギルドは冒険者を大切にしている❞というパフォーマンスも含んでいると判断して、サブマスの耳元で「貸し1つね」と囁くと少しだけ目を瞠り「わかった。感謝する」と返してきたので、ギルドに対する❝私は甘くないぞ!❞アピールにもなっただろう。


 すっきりしている私の隣で、サブマスは忌々しそうにビーチェを見ながら「反省の色はなし、か」と小さく呟いていた。 


 ……イライラするとお肌に悪いよ~? 今度、ビタミンたっぷりの果物セットを差し入れしてあげるね!


 心の中で一方的に約束をしながら受付を離れ、ギルドの玄関に向かう。


(どこへ行くのにゃ? もうディアーナはいいのにゃ?)


 突然の進路変更に疑問を口にするハクに、


(ヒントは、さっきのサブマスの言葉! ❝勧誘はギルド内だけ❞なら……)


(外に出たら、静かになるにゃ!)


(まあ、勧誘以外では普通に声を掛けてくるみたいだけど、そこは冒険者間のコミュニケーションとして受け入れて……。とりあえずは静かな所へ避難しよう!)


 にっこりと笑いかけて、ライムをマントの下(から従魔部屋)に保護してから外に出る。


(と、言うことは?にゃ…)


(そういうことです♪ 忙しくなるよ~?)


「んにゃ~~♪」


 興奮して私の肩を行ったり来たりしているハクを落とさないように気を付けながら、私は道行く人たちに聞き込みを開始した。


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 不穏な考えをするなら、なにやら自分から釣り餌になる行動を取ろうとしている予感?
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