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後からわかる、親心?

「………」


「何か?」


「……いや。解体着を用意している新人は珍しくてな。

 今日はヴェルだけでいいのか? おま…、あんたが持ち込んだオークとアラクネーも教えてやるぞ?」


 大きく目を開いて私を見ていた職員さんが気を取り直すように首を振り、私と離れたテーブルでホーンラビットとハウンドドッグの解体を教わっている冒険者たちを目線で示す。 普段着姿の彼らを見て納得だ。 

 職員さんと同じような割烹着を用意している新人は珍しいかもね。 


「オークとアラクネーはこれからもギルドに任せるから、今回はヴェルだけでいいわ」


<冒険者ギルド>が行う解体講座は、初回の魔物の受講料は無料。でも、2度目からは有料だから、ヴェルの解体は今回できっちりと覚えるつもり! 気合と共にインベントリから大量のヴェルを取り出すと、職員さんは苦笑しながら、


「俺が直接解体するのは1種類2体までだぞ」


 と釘を刺した。 出したヴェルの数が多すぎたようだけど、私の練習用だから安心して欲しい。


「私がきっちりとモノにするまで反復するから、お付き合いよろしくお願いします!」


 にっこりと微笑みながら解体用ナイフセットを取り出して頭を下げる。講師に対する礼儀はきっちりと! 









 頭を上げて、さあ、始めよう!と職員さんを促したつもりだったんだけど、


「お、おう……。よろしく……な」


 職員さんは戸惑ったように私のナイフセットを見ていた。 ……新人が解体用のナイフセットを用意しているのも珍しいのかな?


 軽く咳ばらいをして注意を引くと、職員さんは我に返ったように解体の講義を始めてくれた。


 解体をしながら要所要所で説明を入れてくれるので、しっかりと見聞きしながらマルゴさんの解体指南書(複製した方)に書き込みを入れていると、唐突に職員さんの手が止まった。 目を皿のように真ん丸にして、


「な、なあ。 あんたのソレって、もしかして、マルゴ師の書かれた解体指南書じゃないか……?」


 マルゴさんの解体指南書を指差すので頷いて肯定する。<マルゴ(せんせい)>って言ってるし、知り合いなのかな?


 ハクと目を合わせて小首を傾げ合っていると、


「その<割烹着>と<解体用ナイフセット>ももしかして…!?」


「マルゴさんから頂いたものよ。 もしかして知り合いなの?」


 知り合いだったなら、これを渡さなくっちゃね! マルゴさんから「ギルドで自分を知っている人に渡すように」って言われている手紙。


 インベントリから取り出した手紙を手渡すと職員さんはカチンコチンに固まって封筒を見つめ、裏の差出人の名を確認するなり、


「ちょっ、ちょっとだけ、待っててくれっ! すぐ戻るからな? 待っててくれよっ!?」


 片手にマルゴさんからの手紙、片手に使っている途中だったナイフを握ったまま部屋を飛び出して行った。


 あまりの勢いに、ハウンドドッグの解体を教わっていた冒険者たちもびっくりして戸口を見つめている。


(随分と慌てていたのにゃ~)


(うん、何だろうね?)


(ぼく、これをきゅうしゅうしてていいのかな~?)


 手が空いてしまった私たちは、ライムがヴェルの廃棄部分を吸収するのをのんびりと見守りながら、職員さんが戻るのを待つことにした。


 ハウンドドッグの解体を教えていた職員さんが不審そうな目で私を見ているので、早く戻って来てくれると嬉しいなぁ……。









 バタバタと大きな足音をさせながら戻って来た職員さんは、なぜか2人に増えていた。


「き、君がアリスさんだなっ!? マルゴ(ねえ)さんはお元気だったかっ!? 姐さんの紹介なら俺が直接教えるぞっ! しっかりとモノにしてやるから任せてくれっ!!」


 開いた手紙を握り締めたおじさんが嬉しそうに部屋に飛び込んできたかと思うと、掴みかかるような勢いで私に迫ってきた。


「シャーーッ!」

「プキャーッッ」


「痛ってぇーっ! な、なんだ!?」


「落ち着いてくれ、ライモンドさん! 嬢ちゃんがびっくりして固まって従魔たちが怒ってる!」


 ライモンドと呼ばれた男性は職員さんの言葉で我に返ったようだ。


「え? あ、すまん! つい……」


 バツが悪そうに、ハクに引っかかれた頬を抑えながら謝ってくれる。


 さっきまで慌てていた職員さんは、男性の興奮ぶりを見て落ち着いたようだ。 慌てていても、自分よりも慌てている人を見ると落ち着く心理って本当なんだね~? ちょっと珍しいものが見られたので私としては問題ない。


 ハクを肩に乗せながら事情を聞いてみると、男性はこのギルドの解体部門の責任者でライモンドさん。 彼はマルゴさんの弟子の1人だと誇らしそうに胸を張った。


 で、マルゴさんは、元・王都の冒険者ギルドの解体部門の責任者。


 つまりは、この国の冒険者ギルドの解体職員たちのトップに立っていた女性だった。 


 マルゴさ~ん!! そんな凄い人だったなんて聞いていないよ~っ!?  ……どうりで腕がいいはずだよね! 私にはオーク肉のスライスをあんなに薄く切れないもん。 


 マルゴさんの素性を知ると納得の解体技術。 ❝解体❞のいろはを彼女に教わることができた私は、とんでもなくラッキーだったらしい。そして、


「アリスさんの割烹着はマルゴ姐さんのデザインしたものだし、その解体ナイフセットもマルゴ姐さんのオリジナルブランドだ。それはマルゴ姐さんの弟子になって初めて身に付けることを許されるものだ。 その上、その解体指南書はあんたが写したものじゃなくてマルゴ姐さんの書いたものだな? マルゴ姐さんがどれだけアリスさんを大事に思ってるかがわかるぞ…。

 俺はアリスさんの兄弟子だ! 遠慮なく、何でも聞くがいい!」


 マルゴさんからお餞別に貰った割烹着・解体ナイフセット・解体指南書はとんでもなく貴重なものだったらしく、マルゴさんがいかに私を大切に思ってくれていたか、改めて知らされた。


 ………お母さんのような、マルゴさん。 無性に会いたくなっちゃったな!


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 追いついてしまいました。 アリスちゃんのこれからが楽しみでたまりません。 コロナでステイホーム 「お出かけ我慢」と言われてますが、素敵なお話との出会いのお陰で、楽しい時間になっています。あ…
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