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同じようで全然違う

「いやぁぁぁ!! こっち来たーっっ!!」


「アリス、落ち着くにゃ! あんなやつ、【ウインドカッター】でぶった切ってやるのにゃ!!」


「う、ウインド……、ひゃあああああああっ! 無理ーっっ。逃げよう! ねえ、逃げよう!!」


「…………スレイ、ニール。行くかにゃ?」


「はい、ハク兄さま! お任せを!」

「必ずや雪辱を遂げて見せましょう!」


 前回諦めた森の中心部。そこには❝初めまして❞の赤ポイントと共にトレントとオーク、桃の木の反応があったので、高額素材がまとめて手に入ると浮かれた気分でやって来たんだけど……。


 ❝初めまして❞の赤ポイントは、とても美しい女性の上半身(豊かなお胸にビキニスタイル!)の下に、うじゃうじゃと動く8本の足を持った私の天敵、蜘蛛の魔物だったんだ………。


「オークやトレントや桃はインベントリに入っているのを複製すればいいんだし、その蜘蛛のことはもう諦めよう? ねえ、もう帰ろうよ!」


 ハクは涙目で泣きを入れている私をチラリと見ると、


「たかが蜘蛛の魔物にゃ。何が怖いのにゃ?」


 小首をかしげて可愛らしく考え込む。


「あ、脚が8本もあるよ……っ」


「スレイプニルも8本肢にゃ。一緒にゃ!」


「違うよっ! 全然違うよ! スレイとニールの肢はあんなにうじゃうじゃしてないよっ!」


「一緒にゃ~。 他は何にゃ?」


「うわぁ! 糸を吐いたっ!!」


「糸ならヴェルも吐くにゃ。一緒にゃ!」


「ヴェルに脚はなかったよっ! 芋虫と蜘蛛は全然違う~~っ!!」


 私の必死の訴えがハクの心に届くことはなく、ハクは嬉々として戦闘中の2頭に指示を飛ばす。


「スレイ、ニール! 糸は採取するから汚しちゃダメにゃ!! 高く売れるのにゃ♪」


「かしこまりましたわ、ハク兄さま!」

「この憎き糸が金に…? これは重畳!」


「もう、やだ! スレイ! ニール! この場」


 ………お金なら他の方法で頑張って稼ぐから、とりあえずこの場から離脱したい。と、撤退を強くお願いしようとした矢先、


「これはニールの雪辱戦なのにゃ♪」


 ハクが私の肩に飛び乗って、楽しそうに言った。


 雪辱戦? そういえばさっき、ニールも『雪辱を遂げる』って言っていたようだけど……? 


 続きが気になって、蜘蛛の魔物から視線を外してハクを見つめると、少しだけ獰猛な目をしたハクが牙を剥いて笑いながら蜘蛛の魔物、アラクネーを見ていた。


 ハクの指示で、スレイ達の攻撃がアラクネーを倒す為の攻撃から足止めを目的にする攻撃に変わったことを確認すると、満足そうに頷いて、続きを話してくれる。


 スレイとニールに初めて会った時、ニールは満身創痍の状態で、スレイを狙うバイコーンとの戦いに負けそうになっていた。


 でも、その時のニールの怪我のほとんどは、バイコーンとの戦闘で負ったものではなかったらしい。

 この森の(ぬし)に位置する種族・アラクネーとの戦いで傷つき、やっと逃げ出した矢先のバイコーンの襲撃だったようだ。


「あの糸で不意打ちされたのにゃ」


 スレイとニールが草を食んでいる時に、不意に飛んできたアラクネーの糸に絡めとられてしまい、もう少しでアラクネーのごはんになるところだった、と。


「以前にニールを襲ったのとは別の個体でも、種族は一緒にゃ。 主として、ニールが立派に雪辱を果たすのを見守ってやるのにゃ!」


 一度負けそうになった相手との戦闘だと聞いて少しだけ2頭が心配になったけど、スレイもニールも傷1つ追っている様子はない。


「不意打ちにさえ遭わなければ、あの2頭にとってアラクネーはただの獲物にゃ♪」


 楽しそうに説明してくれるハクの横顔を見ながら、私は腹をくくる。


 ………蜘蛛は怖いけど、本当は今すぐに逃げ出したいんだけど、可愛い従魔たちが頑張っているんだから、


「スレイ! ニール! 頑張ってーっ!!」


 主として、応援するしかないよね。


「はい、主さま♪」

「おまかせください、主よ!」


 私の応援に気を良くしたのか、2頭はいままで以上に嬉々として戦い、あっと言う間にアラクネーの8本の脚を全て蹴り折ってしまった。


 その場から動けなくなったアラクネーが、上半身の人の口と、下半身にもある蜘蛛の口の2つから糸を使った攻撃を仕掛けているが、スレイとニールは縦横無尽に駆け回り(吐き出された後の糸は踏んでいない。器用だな~)攻撃を全て躱してアラクネーから糸を吐き出させている。


 アラクネーの吐き出す糸がだんだんと細く短くなってくるとスレイが後ろに下がり、ニールの静かな声が辺りに響いた。


「これまで、である」


 と同時にアラクネーの首が風の刃で切り飛ばされる。


「やりましたわ! 主さま、ハク兄さま!」

「主、ハク兄上! やりましたぞ!」


「よくやったのにゃ! それでこそアリスの従魔にゃ♪」


 傷1つ負うことなく蜘蛛の魔物を倒した2頭が嬉し気に戻ってくると、ハクがそれぞれの背中に飛び移り、労いの言葉をかける。


 ハクに褒められた2頭が嬉しそうにキラキラとした目で私を見るので、


「あんなに気持ちの悪い魔物を相手に凄いね! ニールもスレイも凄くかっこ良かった!!」


 2頭の首に力いっぱい抱きつき、わしゃわしゃと首を撫でながら褒めると、


「我らは弱くはありませぬぞ!」

「わたくしたちもお役に立てます!」


 嬉しそうに胸を張る。 初対面の時にバイコーンに負けそうになっていたことを気にしていたのかな?

 

 2頭の頭を撫でながら「これからもよろしくね! 頼りにしてるよ」と声を掛けると、満足そうに顔を寄せてくる。


 そのしぐさがとっても可愛いのでついつい聞きそびれているんだけど……。


 ねえ、ニール? 最後の攻撃って【ウインドカッター】じゃなかったかな?


 いつの間に魔法を使えるようになってたの!?


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] ほへー。 不意討ちされなきゃそこそこ強いのか~。 そして蜘蛛の足はダメなのに、似た構造の足を持つ(広い意味で無脊椎動物という同種の)カニへは苦手意識が薄い。 なぜなのか。 不思議だ…
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