検証 3
「こんなにたくさんのカープリフォリオ……」
フランカたちの遺体を覆うように敷き詰めた白い花。 しおれて色が変わり、土に汚れていても、ギルド職員のイルマには何の花かがわかったらしい。
「どうしてこの花を?」と聞くので「綺麗だったから」と答えると驚き、何か言いたげな顔で私を見る。
もしかすると、ビジューではお墓に白い花は供えないのかな?とか、この花はお供えには不向きな花だったのかも。と不安になる私に、
「アリスはこの花を知らないのか? ギルドで常時採取依頼がかかっているぞ。 これだけの量があれば、そこそこの金になる」
ギルマスが苦笑しながら教えてくれた。 イルマが何度も頷いているので、それなりの金額になるんだろう。
「この花と薬草を合わせたら<中級ポーション>になることしか知らないわ。 他にどんな価値があるの?」
せっかくの機会だから教えてもらおうと思って質問したけど、
「それがこの花の価値だ」
「知っていたのですか……」
「わかっていてこれだけの花を墓に入れたの!?」
私の【鑑定】でわかっていること以上の情報はないようだ。
彼女たちの反応から、お墓に供えてはいけない花でないことはわかった。 ただ、お花の中では高価な部類になるから少し驚いているだけだから何の問題もない。 私がこの花に求めたのは❝弔いにふさわしい美しさ❞だから。
守銭奴さんも❝高価な花❞だと聞いても何の反応もしない……、どころか満足そうに笑っているしね。
声を大きくしていたメラーニアたちも私たちの反応の薄さを見て気が抜けたらしく、静かにフランカたちの遺体の引き揚げ作業に戻った。
お花を丁寧に脇に寄せると布に包まれたフランカたちの遺体が見えてくる。 そこまで確認すると、私は後ろに下がって木に凭れるように座り込んだ。
((アリス))
(大丈夫だよ。 でも、フランカたちの遺体は見なくても良いよね? ……フランカたちを綺麗な姿で覚えていたいんだ)
傷ましい姿になっているだろうフランカたちの姿を目に焼き付けたくない。
私が離れたことで不安そうなイルマには【魔力感知】を使用中だと教えて安心してもらい、【マップ】にも【魔力感知】にもこの辺りに近づいてくる魔物の気配はないことを確認して私はゆっくりと目を閉じた。
耳に入るのは、フランカたちを引き上げるためのロープが土にこすれる音。 そして、一つ一つを確認するギルマスの声と、それを書き留める筆の音。
「ここからは姉貴たちに任せるぞ。 俺は背を向けておく」
「ああ、お前はアリスの側で大人しく聞いておけ。警戒は2人に任せるよ」
フランカたちを引き上げると、ギルマスは検視をサブマスへ任せて私の方へ歩いてくる。
「…ありがとう」
「約束だからな」
❝検視は女性に❞とお願いしたのは私だけど、女性だけで行ってくれるとは思っていなかったので心から感謝の気持ちを伝えた。
ついでに【クリーン】をかけて「遺体に傷をつけないように配慮してくれたお礼」と笑いかけると、「そうか」とだけ呟いて、私の隣…、に座っているスレイの隣で立ち止まる。
後は、
「丁寧に帆布で包んでいると思っていたら、こんな上等の布まで…」
「腐敗が始まってるけど、……綺麗なご遺体だよ。報告通りに首の骨を折られてる」
女性たちの検視を聞きながら、
「遺体を包んでいる布はどうしたんだ。ゴブリンの巣からの戦利品か?」
「私が持っていた物よ。 ゴブリンの巣にあった物なんかで体を包まれて嬉しいと思う?」
とか、
「わざわざ遺体を清めたのか?」
「埋葬前に体を清めてあげるのは、当然のことでしょ?」
といった質問(尋問?)がギルマスの役目になったらしい。 ギルマスらしくない淡々とした静かな物言いは私の心を傷つけることなく、私の中から答えだけを引き出してくれて、………ちゃんと<ギルドマスター>なんだと納得させられた。
「フランカの方は上等な布が2枚も……。2人分…、ゴブリンの分なの!?」
「こっちのご遺体も綺麗に清められてるが……、腹をめった刺しだよ! ……本当に自分でやったってのか!?」
「胎のゴブリンも死んでるね。 これだけ刺してたら当然か。 よくも、まあ……」
検視が進みフランカの番になると、彼女たちの声に悲痛なものが混ざる。 それだけ遺体の損傷がひどいということ。…フランカの心が強かった証だ。
「……どうなんだ?」
「フランカの分の布が2枚なのは……、ハクとライムがそれぞれ別の物をえらんだから。
お腹の傷の数は、フランカが他の人たちが被害に遭わないようにと気遣った証。赤ん坊とはいえ、きっちりゴブリンを退治したんだから報酬はちゃんと出してね」
「そうか……。 報酬はきちんと出すが誰が受け取る?」
「フランカのいた孤児院に受け取ってもらうわ。 手紙にそう書いていなかった?」
「アリスに預けろと書いてあった」
「だったら預かるわ。私が孤児院に届ける」
「わかった」
ギルマスの声に感嘆が混ざっているのは気のせいじゃないと思う。 フランカの遺体の状態は、フランカの最期の仕事になったゴブリン討伐は、彼女の意思の強さを示すのに十分すぎるものだから。
「……こんなに腹を刺したら、尋常ではない痛みと苦しみを味わっていただろうに……、微笑んでいるね」
「とても、安らかな微笑みに見えます」
「「「「「……ビジューの御許で安らかな眠りを」」」」」
フランカの遺体から彼女の意思の強さとやさしさを感じ取ったみんなが、声を揃えてフランカたちの為に祈ってくれたことが、私の心を温めてくれる。
ハクとライムを膝に抱き、スレイとニールに両脇から支えられながら、私もビジューに祈った。
彼女たちが次に生まれて来るときは、幸せな生涯を送れますように…!
ありがとうございました!




