従魔を紹介しよう
「待たせたかい?」
店の中にある対価を回収し終わるのとほぼ同時に、マルゴさんが倉庫の鍵を持って来てくれた。
「ちょうど終わった所です」
「さっきは嫌な思いをさせて悪かったね。鍵を開けるから、フライパンを回収しておくれ」
「いいえ、マルゴさんとルベンさんが説得してくれたので助かりました」
村の小さな金物屋なので、倉庫といっても小さな一部屋だ。種類も数も多くないので、目当ての物はすぐに見つかったが、念のためにマップを使い、フライパンが隠れていないことを確認してから金物屋を出た。
今回の対価は“ビン17個、鍋10個、包丁3本、ナイフ6本、フライパン4個”。
ちょっと多すぎるような気もするが、金物屋さんの憎らしい態度を思い出して、妥当だったと考え直した。
さて、これからどうするか…。
「お2人ともお疲れ様でした。もう、すっかり夜になってしまいましたが、この村の明かりはどうなっているんですか?」
「明かりの魔道具は高いから、基本は蝋燭か獣油のランプだね。まあ、蝋燭や獣油も安くはないから、夜は早く寝るのが村の習慣さ」
なるほど…。 生活のリズムは早寝早起きか。
「マルゴさんとルベンさんの、明日1日のご予定はどうなってますか?」
「アタシは1日暇なもんさ」
「朝は畑の世話があるが、昼からなら空いてるぞ」
治療には2人に同行してもらいたいから、昼からにしよう。
「では、マルゴさん。朝食が終わってから解体をお願いできませんか? 昼からは治療に同行していただきたいのですが?」
「ああ、構わないよ」
「ルベンさん、畑の世話が終わったら、治療に同行してもらえますか?」
「いいぞ」
「助かります」
快く了承してくれたし明日からも世話になるので、もう少し親睦を深めておきたいな…。
(ねえ、ハク。マルゴさんとルベンさんを食事に誘ってもいい? ルベンさんのご家族も)
(いいけど、ライムのことは先に言っておくにゃよ?)
(わかった!)
「マルゴさん、今から1体だけ解体をお願いしたいのですが、暗いから無理でしょうか…?」
私の可愛い従魔たちに、『今夜は美味しいものをお腹いっぱい食べよう!』って約束しちゃったんです!
願いを込めてマルゴさんを見つめると、あっさりと了承してくれた。
「1体ぐらい構わないよ。ウチの解体室には明かりの魔道具があるからね。モノはなんだい?」
「ワイルドボアです。とりあえず脂の乗っている部位の肉が欲しいです」
「解体すればいいのかい? 教えるのは?」
「明日からお願いします。 それから、お肉を提供するのでお台所を使わせてください!」
「アタシの分も作ってくれるのかい?」
「はい、よければルベンさんもご一緒に! あ、ご家族もご一緒にと思ったんですが、もう、晩ごはんの支度をしている時間帯ですか……?」
もっと早く思いつけばよかったと後悔していると、ルベンさんは嬉しそうに首を横に振った。
「家族もいいのか? ボアが食えるなら、喜んで来ると思うが…」
「では、是非♪ あ、マルゴさん、確認もせずにすみません! あの、良かったですか……?」
泊めてもらう身で、勝手をしてしまった……。 慌てて家主に確認を取ると、
「ああ。 ルベン、早くルシィを呼んどいで!
アリスさんは早く解体室にボアを出しておくれ!」
思いのほか楽しげに笑われて、釣られて私も楽しくなった。
「はい! では、ルベンさん、後ほど! あ、支度に時間がかかるのでゆっくりと来てくださいね?」
「ああ、後でな」
ルベンさんを見送ることもなく、マルゴさんと解体室に飛び込んで、………ライムのことを説明しそびれた。
「へぇ、なかなか良いボアじゃないか! 足だけないね?」
「はい、肉串になりました」
「…さっき、持って行ったアレかい?」
バタバタしていて、お礼を言い忘れていた。
「お手数をおかけしました。晩ごはんの支度に間に合いました?」
「ああ、エメがとても喜んでいたよ」
「それならよかったです」
(よかったにゃ~!)
(うん♪)
思わぬ所で役に立って、ボア肉が無駄にならなくてすんだよ。
「あの! マルゴさん。 実は私には従魔がいるんですが……」
「ああ、可愛い猫ちゃんだねぇ。ペットだと思っていたよ。従魔だったのかい?」
「はい。この仔以外にもいるんですが、解体時には呼ぶ約束をしていまして……。
この部屋の中に入れても大丈夫ですか? 綺麗好きな子で、今朝もきちんと水浴びをしています」
「種族はなんだい?」
「スライムです」
「綺麗好きのスライム? 珍しいのを従魔にしているね。 危険がないなら構わないよ。村の外にいるのかい? 早く迎えに行っておやり!」
マルゴさんは、スライムと聞いても嫌悪を表すことはなかった。 受け入れてもらえそうだ。
「解体で、いらないものを集めるのはどこですか?」
「このバケツの中だけど…、スライムに吸収させるのかい? おもしろい使い方をするね」
「ちょっと腹ペコなんです。 ライム、お待たせ! 出ておいで~♪」
「ぷっきゃー!」
「にゃん♪」
ライムは出てくると、すぐにハクにすり寄って行った。 ああ、すりすりし合っている姿に荒んだ心が癒される♪
(アリス、マルゴの前でインベントリを使っていいのかにゃ?)
(え? あ! ハウスのこと、なんて説明すればいいの!?)
(………マルゴに口止めするしかないにゃ)
(わかった。お願いしておく。 マルゴさんにハクとライムを紹介してもいい?)
(いいにゃ~♪)
「乳白色のスライム…? もしかして、リッチスライムかい?」
マルゴさんが、驚いた顔をしている。
「はい。 この仔が<ハク>、スライムが<ライム>と言います」
「そうかい。アタシはマルゴだよ。仲良くしておくれ」
「んにゃん♪」
「ぷっきゅう♪」
マルゴさんは従魔にもきちんと挨拶をしてくれた。良い人と出会ったな^^
ライムはバケツの中で、精力的にボアの廃棄物を消化してくれている。
「あんたのおかげで今日は楽に後処理が終わりそうだ。 ありがとうよ」
マルゴさんがライムにお礼を言っていた。
魔物の解体後は、いらない部位は焼くか穴を掘って埋めるかをしないと、他の魔物が寄って来るそうだ。
村の中に埋めることはできないし、森などで焼くと類焼の危険があるので、魔物の解体は後処理が意外に面倒なものらしい。
いつもは村の外にある処理場に運んで焼却をしているらしく、今回はライムが消化・吸収してくれるので、楽になるとマルゴさんが喜んでいた。
ライム、ありがとうね! これからもよろしくお願いします^^
ありがとうございました!




