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口は災いの元・・・

 魔物というものは、同種の魔物でも生息する地域によって少しずつ変化するので、見る人が見れば違いが判る。 


 だから<冒険者ギルド>で出される<地域限定の討伐依頼>に他の地域の魔物が混ざっていたら、良くて❝依頼失敗❞、悪いと❝ギルドに対する詐欺行為❞と見なされて処分の対象になるらしい。


 なので、ディアーナさんから話を聞いた解体担当さんが、


「そんなの俺たちに確認すればすむことじゃないですか。 さっきの88体は確かに同じ場所で繁殖したやつらですよ」


 と言ってくれたことで話は終わるかと思ったんだけど、


「それが私たち(ぼうけんしゃギルド)の常識よね。 でも、彼女に言いがかりをつけたのは我がギルドの受付担当だったのよ」


 ディアーナさんが自分のこめかみをグリグリしながら説明を追加したことで、話は変わった。 解体担当さんも眉間をグリグリしながら、


「…いい機会ですね。 お嬢さん、持っているゴブリンを全部出してください。俺たちがきっちりと証明書を書いてやります」


 積極的に解体を請け負ってくれる。 さっきまで涙目だったのにね? 


 その言葉に満足そうに頷いたディアーナさんが、


「私は今回アリスさんから受け取る報酬で、ギルド職員全員に差し入れを買うわ。 ふふっ…、きっと悔しがるわね?」


 と笑うと、


「獲物がゴブリン限定だと、受け取る担当報酬なんてたかが知れてますからね。でも88体以上となると、話は変わる。アイツなら悔しがりますね!」


 解体担当さんも笑い出す。 2人の表情がちょっとだけ意地悪なんだけど……、気にしたらダメだよね。きっと。


 でも、解体担当さんがビーチェに好意的でないことには少しだけ驚いた。 彼女のような人は男性受けが良いと思ってたんだけどな。 そのささやかな疑問は表情(かお)に出ていたのか、


「アイツが媚びるのは自分に気のある冒険者にだけですよ。解体担当、それも俺たちのような駆け出しには見向きもしないどころか、見下してくるんです。 ……あんな奴に見下されるような仕事はしていないつもりなんですけどね?」


 と不愉快そうに説明をしてくれた。


 ゴブリンの解体は新人さんの仕事らしい。 肉も皮も使いどころのないゴブリンは、解体の練習にはちょうどいいそうだ。


 だったら遠慮はいらないな。 インベントリを開いて旅の間に退治したゴブリンを全て取り出す。


「25体ですね。 2体だけ随分とボロボロですが?」


従魔(うちのこ)の戦闘力の確認をするために倒させたものだから。値下がりする?」


「いいえ、ゴブリンなので魔石と討伐証明部位さえ無事なら大丈夫です。 従魔とは……、その可愛い猫ちゃんとスライムですか?」


 驚いたように問いかける解体担当さんに、2匹が嫌そうな鳴き声で返事をした。 そうだよねぇ…。


「この仔たちならもっと上手に倒すわ。この2体を倒したのは別の従魔たち」


 いつも従魔小屋(ハウス)に避難しているライムはともかく、ハクなら獲物の価値が下がらない様に急所を狙って仕留めるだろう。 こんなにボロボロにしたりはしない。


 2匹の頭を撫でながら言うと、


「そんなちっこいのが魔物を狩るのか? スライムも!? すげぇ…」


 鼻をつまんだ冒険者たちが感心したように2匹を見つめる。


 うんうん。ゴブリンって、やっぱり臭いよねぇ……。


 ハクの結界に守られている私たちとディアーナさんは大丈夫だけど、お供に付いて来た冒険者たちはなかなか辛そうだ。 中にはケロっとしている強者(つわもの)もいるけどね。 


 覚悟をしていた臭いがないことにびっくりしているディアーナさんに微笑みかけて、解体場を後にする。


 ついでだから、他の魔物の解体もお願いしておこうかな。










 ディアーナさんの案内でゴブリン以外の魔物の解体場へと足を運ぶ。 なぜかぞろぞろと後を付いてくる冒険者たちだけど、


「ゴブリンが丸ごと113体も入ってたんだろう? 他にどれだけ入っているか気になるじゃないか!」

「通常ならカウンターで受け渡しをするのに、ディアーナが解体場へ案内するんだ。何が出てくるのか気になるじゃないか!」


 わくわく顔で言い訳する彼らを追い払う気にはならなかった。 別に隠すほどの物じゃないしね。


 だから、解体場でオーク29体とハーピー14体を取り出して、


「オークが29体にハーピーが14体? それで全部か? 他の魔物は狩らなかったのか? 持ちきれなくて捨てたのか?」


「あるよ? でも、動物タイプは自分で解体できるから」


 聞かれたことに素直に答えた結果、


「なあ、今度一緒に討伐に行こうぜ! 解体は俺たちがするから、あんたは獲物を預かってくれよ!」

「解体は全部俺たちが引き受けるから、俺のパーティーに入ってくれ!」

「冒険者の活動の仕方をあたし達が教えてあげるから、一緒にパーティーを組みましょう! あたし達は人型タイプの解体も得意よ!」

「いや、俺たちの方が…!」

「私たちのパーティーは女性の方が多いのよ! 大事にするわ!」


 熱烈な勧誘合戦が始まるとは想像していなかったんだ………。


 解体担当さんに<ヴェル>の解体方法を教わる予約を取って、早々にその場から逃げ出すハメになった。


 解体済みのいらない部位があるんだけど、今日は買い取りに出さない方がいいかなぁ?


 うかつ過ぎる行動だとハクに齧られ、ライムに深い深いため息を吐かれながら反省した……。


 本当だよ? だから、そろそろ許してくれないかなぁ?  乙女の頬に歯形はどうかと思うんだぁ……。



ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 歯形……。 大丈夫大丈夫、小動物好きとか、構いすぎて噛まれた後だとか。 そんなのをのろけながら言っとけば、ちょっと残念なお嬢さんと見られるだけだから! ……ぼそっ(どうせ魔法ですぐ傷は…
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