言いがかりには反撃しよう
ギルドの訓練場の端に建っている解体場(ゴブリン専用らしい!)に、巣穴にいた(または戻って来た)ゴブリンを全て出して、私たちはさっさとその場を離れた。
涙目で半笑いを浮かべている解体担当の職員さんには本当に申し訳ないけど、頑張ってね!!と応援の気持ちだけ送って……、利益が出たら何か差し入れしようかな。
仮眠室に行くディアーナさんと別れて、私ももう一度仮眠を取りに部屋へ戻った。
連泊の申請をするとあっさりと通ったことが不思議だったけどね。 3階の一部を破壊した責任は誰が取るんだろう?
私に支払いを求められたら、……ギルマス達に回してもいいよね?
お腹を空かせた従魔たちに起こされて1階(食堂)へ降りて行くと、すでに起きていたディアーナさんが笑顔で迎えてくれた。
お昼前のギルドは閑散としていて、職員だけが忙しなく動いている。
依頼を受けた冒険者たちは朝の内から行動するらしいので、今ここにいる冒険者たちは急ぎの依頼を受けていない人たち。いわゆる❝暇❞な冒険者たちだ。そのせいか、興味本位の視線が痛いほど突き刺さってくる。
まあ、気にしないけどね。
ディアーナさんに先導される形で受付に向かい、カウンターに入った彼女からゴブリンの魔石を受け取り、解体の手数料を支払っていると、
「ゴブリンだけ? ゴブリンしか相手にできないのかしら? お似合いだけど」
「ゴブリンか。 新人にしたら上出来じゃねぇか」
隅の方のテーブルからこちらを見てくすくすと嗤う女の声と、感心したふうを装いながらも声音に嘲りが混じっている男の声が聞こえた。
声の方を見てみると、ビーチェが冒険者らしき男に何かを耳打ちしてはくすくすと笑っている。
(顔を引っ掻いてやるにゃ?)
(ぼくはとかす~っ)
悪意を向けられて不愉快な気分になったけど、可愛い従魔たちが私以上に怒ってくれる姿が可愛かったのでこの場はスルーしようとしたんだけど、
「ビーチェ、ギルド職員としての礼儀はどこへ置いて来たの?」
ディアーナさんが反応してしまった。
私がスフェーンにできていたゴブリンの巣を潰し、その検証の為に明日はギルマスを始め職員が何人か抜けるので、その分自分たちの仕事が増える。 さっさと帰って明日に備えるように告げたけど、
「そんなのその人が言っているだけでしょ? コロニー以外の場所で倒したゴブリンも一緒に提出して箔付けにしてるかもしれないじゃない」
「新規登録者が良くやる手だな。 冒険者登録をする前に集めた魔物素材を一度に提出して❝自分は強い❞ってアピールするの」
と、頭から否定されてしまった。
言われている内容に関しては別に良いんだけどね? でも、それを<冒険者ギルドの受付職員>が<冒険者ギルド内>で<冒険者>に言うのはどうなんだろう?
案の定、聞き耳を立てていた暇な冒険者たちが不愉快そうな顔で2人を見ている。
その中の1人が、
「なあ、あんたはアリスさんだろう? 昨夜は俺たちの仲間を助けてくれてありがとうな! 昨夜ここにいた奴らはもう、あんたを侮ることはないが、ここにいなかった奴らの為に❝言いがかり❞で生まれた疑惑を晴らしちゃどうだ?」
と声を掛けてくれた。 周りでこくこくと頷いているのは昨夜いた人たちかな? とても好意的な様子なので笑顔を向けると、それぞれがウインクやサムズアップで反応を返してくれる。
幸いなことに、インベントリの中には旅の間に倒したゴブリンが入ってる。 でも、ここで出すのはなぁ…。と逡巡していると、
「ほら、やっぱり!」
「よそでは出くわさなかったのか……」
鬼の首を取ったように勝ち誇るビーチェと、残念そうな顔の冒険者の声が重なった。
このままではせっかく助け舟を出してくれた冒険者に申し訳ないので、
「ゴブリンはまだあるんだけど……。ここで出すの? 食事中の人たちもいるよ?」
とだけ告げてみる。
それだけでピンと来た人たちは、慌ててグラスの中身を飲み干したりお皿の上の物を掻き込んだり。それぞれの慌てぶりで、みんなの共通認識❝ゴブリンの死骸=臭い❞が確認できてしまった。
ビーチェの挑発に乗らなくて良かった! 食事中の人たちの恨みを買う所だったよ。と胸を撫でおろしていると、
「お前たちはその娘の言うことを真に受けるのか? 昨日ここで受付をしていたビーチェの話では……」
ビーチェと同じテーブルにいた男性が不思議そうに周りに問いかけた。
❝我が意を得たり!❞とばかりに昨夜ここにいた冒険者たちが口々に何があったかを話しだしたんけど……。
❝ギルド期待の新人、100年に1人の逸材❞だの❝サブマスがべた褒めするほどイイ性格❞だの❝苛烈な反撃の仕方と笑顔のギャップが最高!❞だの、一体誰のことを言っているのか訳が分からないことになっている。
昨夜はみんなお酒が回っていたんだな~。と結論づけてディアーナさんに視線を向けると、
「本当に、まだゴブリンの死骸を持っているのですか?」
と真剣な顔で聞かれたので、素直に頷いた。 ディアーナさんに嘘を言ったりしないよ~?
にっこりと笑顔を向けると、ディアーナさんはちらっとビーチェに視線を流してから楽しそうな笑顔を浮かべて言った。
「では、それも解体しちゃいましょう? 私にお小遣いをくださいな」
……ん?
両手を出して❝ちょうだいポーズ❞を決めるディアーナさんがとても可愛らしかったし、残りのゴブリンの解体をお願いすることに反対する必要もなかったので、再度『ゴブリン専用解体場』に移動する。
ぞろぞろとお供が付いてくるのは気にしない。 とっても臭いゴブリンを取り出すのに、なぜそんなにワクワクとした表情なのかは不思議だけどね?
私の顔を見たとたんに顔を引き攣らせた<解体担当職員>さんの反応は、まあ、理解できるけど。
そんなに嫌がらないで欲しいなぁ~……。 マルゴさんは「ゴブリンはギルドにお願いしたらいい」って言ってくれたんだけど、やっぱりちょっと遠慮した方がいいかなぁ?
ありがとうございました!




