打ち合わせ 2
姿勢を正したギルマスから昨夜の謝罪を受けた後、ディアーナさんにした説明を改めて私の口から聞きたいと言われて、もう一度話をすることになった。 ……フランカのことを何度も話すのは、正直辛いものがあるんだけどね。
話し始めるとすぐに、ギルマスの雰囲気が少しだけ変わる。
気にはなったけど悪い感じはしないしハクも何も言わないから、これがまともな状態でのギルドマスターとしての姿なのかな?と思いながらそのまま説明を続けた。
サブマスが時折質問を挟んでくるけど、ギルマスは黙って私の話を聞いている。 これがこの兄弟のスタンスなら、昨夜の印象と同じだ。 一体何が違うんだろう?
不思議に思いながら話を続けていると、不意にドアをノックする音がしてディアーナさんが入室してきた。
「彼らは依頼で街の外に出ていて、2~3日は戻りません。担当職員に伝言を残しています。 ちなみに、担当職員はビーチェです」
戻って来たディアーナさんから報告を聞いた2人が露骨に顔を歪め、
「ここでもビーチェか……」
と呟いた声が苦々しいものだったので、彼らがビーチェを贔屓している訳ではないことが分かったんだけど、だったらなぜ彼女のような人を受付にしておくのかな?
甚だ疑問だけど、この街に着いたばかりの私が口を出すことでもないだろうから今は黙っておこう。
私の話が終わるとギルマスが一度深く頷き、それに頷きを返したサブマスが段取りを組み始める。昨夜聞いた通り、頭を使うのはサブマスの仕事らしい。
じゃあ、ギルマスの仕事は?と疑問に思った私にディアーナさんが身を寄せて「うちのギルマスは現役のAランクで、冒険者たちを束ねるのが主な仕事です」と教えてくれる。 ……納得だ!
私たちの内緒話に苦笑だけを零したサブマスは、ゴブリンの巣穴に案内することを私に要請した。
何をしに行くのかと聞くと「実況見分」とのこと。報告したゴブリンの数、種類、コロニーの規模を確認したいらしい。
……フランカの遺体の確認も。胎の子が本当に死んでいるかの確認をする必要があるそうだ。
退治したゴブリンは全て持って帰って来ていること、フランカと少女のお墓をあばくつもりなら検分は女性にして欲しいことを伝えると、3人が驚いたように目を見張った。
「ディアーナからは80体ほどのゴブリンを倒したと聞いているが……」
「正確には88体ね。……その内の何体かは子供よ」
「……それを全部持って来たのか? 討伐部位だけじゃなく?」
「魔石の取り出しをギルドにお願いしようと思って」
ギルマスの質問に答えると、
「……解体をしたことがないのか? ゴブリンは簡単だぞ」
「ああ、そういうことか。 アレは臭いからな……」
「88体が全部入るアイテムボックス? まだ若いのに凄いわ!」
3人がそれぞれの反応を返してくれる。 ……ギルマスはやっぱりギルマスだよね。
フランカの遺体の検分は女性が行うことをギルマスとサブマスが約束してくれたので、私もお墓と巣穴まで案内することを了承した。
出発は明日の夜明けと共に、だ。 ギルドの職員や冒険者が何人か同行するらしい。
「だったら今日は必要なものを買いに行きませんか? 案内しますよ」
とディアーナさんが提案してくれたけど、夜勤明けで無理をしてもらっているのにこれ以上あちこち引っ張り回すわけにはいかない。
ギルマスと約束した❝ディアーナさんの特別任務=街の案内❞は、森から戻って来てから開始することをサブマスに確認して、今日はギルド内でできることをするつもりだ。でも、
「ゴブリンの解体手続きと、ハクちゃんとライムちゃんの<従魔登録>ですね? では、早速」
早速仕事を始めようとするディアーナさんのことは引き留める。 今でさえ勤務時間を延長してくれているんだから、少しは休まないと……。
私の心配をよそに、ディアーナさんはこれが担当職員の仕事だと言って譲らない。 だったら今日は部屋に籠って久しぶりにごはんを作る日にしようかと検討していると、
「ディアーナはアリスを解体場に案内したらしばらく仮眠を取れ。仮眠室の使用を許可する。<従魔登録>なら昼からでも構わんだろう?」
ギルマスがさらりと折衷案を提案してくれた。
その提案を受けてディアーナさんが私を振り返り返事を待っているので私は構わないと伝えると、ディアーナさんは嬉しそうにギルマスにお礼を言っている。
ギルマスはただの脳筋ではなく、職員や冒険者思いの良いギルマスだったらしい。ほんの少しだけ見直した。
でも……、満足そうに笑っているディアーナさんは、せっかくの休日がつぶれてしまったことに気が付いているのかな?
仮眠を取って冷静な判断ができるようになったら、今日はそのまま休むことを勧めてみよう。
ありがとうございました!




