打ち合わせ
「迷うことなく、女神の御許にたどり着きますように…。どうかフランカさんの魂に安らぎを……」
沈痛な面持ちで話を聞いていたディアーナさんが両手を組んで祈りを捧げてくれる。
「まさか彼女がそんなことになっていたなんて……。 ギルドにはゴブリンとの戦闘で命を落としたと報告が入っていました」
深いため息を吐いたディアーナさんは組んでいた両手を強く握りしめ、「決して許されることではない」と呟く。そのまま目を閉じて考え込んでいたかと思うと、おもむろに目を開いて姿勢を正し、
「今回の報告をギルドとして受け付ける為に、今のお話の裏付けが必要となります。 何か証拠になるものをお持ちですか?」
毅然とした態度で私に証拠を求めた。 お仕事モードに入ったらしい。
私の言うことを頭から疑うわけでもなく、かと言って鵜呑みにしないディアーナさんはとても信頼できる職員で、この人が私の担当をしてくれることに改めて感謝した。
この人になら安心して預けることができる。そう判断した私はインベントリを開き、中からフランカのギルドカードとギルドマスター宛の手紙、それと彼女の形見になった小さな宝石の付いた髪飾りを取り出してテーブルに置く。
「これはギルドマスター宛の手紙ですので、私が読むことはできませんね。 ギルマスに……、いえ、この部屋にギルドマスターとサブマスターをお連れしても構いませんか?」
手紙の宛名を確認したディアーナさんがギルマスを呼びたいと言うので頷いて了承すると、彼女は手紙と髪飾りを一旦私の手元に戻してから、立ち上がった。
部屋を出て行くディアーナさんを見送っていると、ハクとライムが膝に飛び乗ってくる。
「ん? どうしたの…?」
何も言わずに私に体を預けているので理由を聞いてみたけど、2匹とも何も言わず、ただ私に寄り添ってすりすりと体温を移そうとしている。
「………大丈夫だよ」
フランカのことを思い出して、心が揺れていることに気が付いているらしい。何も言わずに寄り添ってくれる2匹の優しさが嬉しくて、膝の上の従魔たちをぎゅうっっっと抱きしめて、心ゆくまでなでなでもふもふをしながら時間を過ごした。
しばらくしてから部屋に入って来たギルマスたちは、フランカの手紙をじっくりと検分すると、揃って眉間に深いしわを刻んだ。 顔立ちは似ていない2人だけどその表情はそっくりで、2人が姉弟だと実感できる。
なんとなく感心しながら2人の様子を見ていると、ディアーナさんが戻って来た。黒く変色したギルドカードをテーブルの上に置き、2人に報告を始める。
「当ギルド所属の冒険者・フランカの物だと確認が取れました。 これは冒険者登録時の申請書です」
「……そうか」
「筆跡も…………同じようだな。 ヤツらを呼び出してくれるか? 理由は……、フランカの遺品が見つかったから確認を、と」
ギルマスが憤怒の表情で歯ぎしりをしている隣で、サブマスがディアーナさんに指示を出している。
どうやらサブマスの口調は、基本が男性のように固いもののようだ。 昨夜の弟たちへの口調で薄々そうじゃないかな?とは思っていたんだけど、私への口調が丁寧なものだったから迷ってたんだよね。
あれは非礼を詫びる為に、私に気を遣ってくれていただけのようだ。
ギルドのサブマスターに丁寧な口調で話される昨日登録したばかりの新人冒険者……。 なんだか浮いちゃいそうでちょっといただけないなぁ。
私がそう思っていたのが伝わったのか、サブマスは私に改めて自己紹介をしてくれた後、口調を本来のものに戻すと宣言した。それについては問題ないけどね。
「ほとんど初対面の人に名を呼び捨てにされるのはちょっと……」
「気になるか……?」
「なんでだよ。別にいいじゃねぇか」
ギルマスの言うことはとりあえず無視して、サブマスと2人で歩み寄れる地点を探す。
ギルマスとサブマスは普段ギルド職員や冒険者のことは呼び捨てにしている。だから、私の名前も呼び捨てにしたい。
私は大学に入ってからずっと、勤め先でも呼び捨てにされたことはない。 私を呼び捨てにしていたのは家族と友人たちだけ。 信頼を築けていない2人から呼び捨てにされるのはどうしてもなにかが引っかかる。
「だったら、おま…、あんたも俺たちを呼び捨てにすればいいじゃないか」
ギルマスの言うように私たちがお互いに、と言うか、私が人前で2人を呼び捨てにするのもなんだかなぁ…だし。 コンラート(ジャスパーのもとギルマス)のような形で和解しているわけじゃないからね。
結果、2人は私を呼び捨てに。私は2人を『ギルマス』『サブマス』と呼ぶが、他人がいない時や(私の)気が向いた時には私も2人を呼び捨てにするので❝お互い様❞、と言うことで話がまとまった。
落とし所としてはこんな所だろうけど、ディアーナさんが戻ってくるまでの時間をこんな話で使うとは思ってなかったなぁ。
気まずい沈黙が続くよりは、ずっと良かったけどね!
ありがとうございました!




