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カルチャーショック

「おはようございます。昨夜の【造血薬】の販売代金5万メレです」


 受付に座るディアーナさんの所へ行くと、微笑みと共に小銀貨4枚と大銅貨10枚がカウンターに置かれたので、その内の大銅貨5枚をディアーナさんの方へ押し戻す。 


 細かいお金でくれたってことは、ちゃんと受け取る意思があるってことだもんね。 押し問答にならなくてよかった!


「ありがとうございます。 この2,500メレと昨夜の159,250メレを合わせて161,750メレは遠慮なくいただきますね。 …相談なのですが、アリスさんの担当を1人増やしてもかまいませんか?」


「いいよ。次からは10%を引けばいいの?」


 ちょっと荒稼ぎしすぎたかな?と思いながら了承すると、ディアーナさんは慌てて補足説明をしてくれる。


 5%の内2%はギルドに、残りの3%がディアーナさんの取り分なんだけど、3%の内の1%を使ってディアーナさんの補助的な立ち位置で私の担当を増やしたいとのことだった。


 まだ依頼の1件も受けていないぺーぺー冒険者なのに、担当が2人もいてどうするのかとは思うんだけど、ディアーナさんが必要だと判断したのなら、私に異存はない。


「信頼できるものを選びますので」と言ったディアーナさんの言葉を信じるだけだ。 隣のカウンターで聞き耳を立てているビーチェだけは選ばないと思うしね。


 まあ、おいおいの話だろうと暢気に思っていると、ディアーナさんの合図とともに一人の男性がカウンターから出てくる。


 そのまま私に一礼して「シルヴァーノです」と名乗ると私の後ろに陣取った。………なんだか覚えのある立ち位置だ。


「…………護衛?」


 思わず呟くと、ディアーナさんの苦笑が返ってくる。


「あの造血薬は5人の冒険者が分けて味見をしました。その結果……」


「なあ! アレはどこで買ったんだ!?」

「<商人>ってことはあんたが扱っている商品なのか? 10本ほど売ってくれ!」


 遠巻きにずっと私を見ていた冒険者たちから一斉に声が上がった。


【❝不味くない❞造血薬】はそれほど魅力的な商品だったのか、と驚きを通り越して今まで飲んでいた人たちが気の毒に思える。でも、


「アレは登録申請している段階の新商品だから、まだ出回ってないわよ。 何本か持っているけど、販売価格が決まってないから売るのはまた今度」


 とりあえず朝ごはんにしたいから<商人>にはならないよ。 複製に複製を重ねたから、造血薬はいっぱいあるんだけどね~。


 ディアーナさんに(お仕事が終わったら声を掛けて)の目配せをして、食堂の方へ移動する。


 どんなメニューがあるのかな?











「………これが朝ごはん?」


「ええ。ここの(ギルドのやど)定番のカフェとビスコッティです」


 私が目配せするとすぐにディアーナさんがカウンターから出て来てくれて、仕事は良いのかと心配したけど、どうやら勤務時間はとっくに終わっていて、私を待つ間の時間つぶしに仕事をしていたらしい。


 それは申し訳ないことをしたから、遠慮なく朝ごはんをたくさん食べてもらおうと意気込んで席に着いたんだけど、今、目の前にあるのは人数分のコーヒーとビスケット。それだけ。 


 ……これって朝ごはんじゃなくて❝おやつ❞だよね?


 周囲のテーブルを見てみても、そこにフルーツ(リンゴが皮つきで丸ごととか)やヨーグルト、ラスクのようなものが見えるだけ。


「フェッテ・ビスコッターテが気になりますか? あのパーティーは依頼を無事に成功させたお祝いの朝食のようですね。はちみつが倍量になっています」


 私の視線の先にあるラスクのようなものを見て、ディアーナさんが微笑まし気な顔をしながら教えてくれたけど、そうじゃないんだ。


 どこを向いてもおやつのような朝ごはんに戸惑いを隠せないでいると、


「ああ! アリスさんは他所からいらしたんですものね! もしかしてしょっぱい物とかが良いですか? 良かったら買ってきますよ」


 ポン!と手を打ったディアーナさんが素早く席を立ちあがった。


 慌てて止める私を見ながら、


「他所から来た冒険者たちが朝食にしょっぱい物やお腹にたまるものを食べたがることがあるので、この店は飲み物をオーダーすれば食べ物の持ち込みができるんですよ。 何か買ってきますね!」


 朗らかに笑って出て行こうとするから、腕を掴んで引き留めた。


「お気遣いありがとう! これがこの街の定番の朝ごはんなのね? ちょっと驚いていただけだから、わざわざ買いに行ってくれなくても大丈夫! コーヒー…、カフェが冷めちゃうよ!」


「でも……」


 ちょっとだけ困った顔のディアーナさんを席に戻して、にっこりと微笑む。


「食べ物の持ち込みがOKなのね? じゃあ、手持ちの物を出させてもらうから大丈夫!」


 これ以上ディアーナさんが気を遣わない様に、急いでインベントリから自分たち用の朝ごはんを取り出した。


 今テーブルにある物に合わせるなら、フルーツヨーグルトにサンドイッチって所かな? ハクのリクエストでハーピーの照り焼きサンドを、ライムのリクエストでカッテージチーズ入りのサラダも出しておく。フレンチトースト(たっぷりミルクのふわとろトースト)なら、ディアーナさんも食べてくれるかな?


「よかったら食べてね! いらなかったら遠慮なく残して? 残ったらライムが食べてくれるから、気にしなくても大丈夫」


 なぜだか目を丸くしているディアーナさんに一言断ってから、手を合わせる。


「いただきます!」

((いただきま~す)にゃ!)

「恵みに感謝を…」


 それぞれに挨拶をしたら、朝ごはん!


 なんだか周りの視線が集まっている気がするけど……、 きっと気のせいだね!


ありがとうございました!

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