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押し売り 2

 ディアーナさんを呼ぶ声に興味を惹かれ、立ち止まって受付を振り向くと、怪我を負い、装備をボロボロにしたパーティーが1人の男性を抱えながら、倒れ込むようにしてギルドに入って来るのが見えた。


 頬を擦りむいている女性が、涙ながらにディアーナさんに訴えている。


「魔物の攻撃から私を庇ってくれたリーダーが、大怪我を負った上に毒で……! もう、手持ちのポーションが何もないのに<治癒士>にも治療を断られて……!

 どうしたらいいの!? ディアーナさん、お願い……。リーダーを助けてっ……!」


 彼女自身も怪我を負っているのに自分のことは気にもかけず、ただ、仲間のことだけを助けて欲しいと訴える。 他のパーティーメンバーも同様だ。口々に「リーダーを助けてくれっ」と言って頭を下げていた。


「何てこと……っ! こんな時なのに、もうポーションが……」


 理由はわからないけど、今このギルドにはポーションが不足している。 さっきの男に使っちゃったしね。


 困り顔のディアーナさんは階段上の私にチラリと視線を流したけど、すぐさま首を振りながら視線を外して、唇を噛みながら俯いた。


(MPの少ない治癒士なら【リカバー】を使った後に【キュア】を使って、ついでに【クリーン】まで使っていたら、魔力が枯渇していてもおかしくないのにゃ。ディアーナはアリスに無理を言わない、いい奴なのにゃ♪)


(そうなの?)


(そうなのにゃ!)


 そうか……。実際には私の魔力はまだまだたくさん余っている。ビジューのお陰でMP多めの体をもらっているからね。


 泣いている彼女がディアーナさんに助けを求めるのを聞いて、少しだけ、私が治療をしてあげようかな?と思っていたんだけど、ハクからディアーナさんの私への気遣いを聞いて心が決まった。 ゆっくりと踵を返す。


 ハクとライムも私の腕の中で跳ねるようにしているので、きっと思いは同じだろう。


「ディアーナさん! その人たちは、ディアーナさんが担当しているの?」


「え……? いえ、今はまだ担当ではありませんが、彼らがCクラスに上がったら担当に付く約束をしています」


 いきなり治療とは関係のない質問を受けたディアーナさんはそれでもきちんと答えてくれる。 ……重症の仲間を心配しているパーティーだけはちょっと不愉快そうだけど、私には必要な情報なんだよ。 


 なるほど、彼らはまだCクラス以下のパーティーなのか。


「ふぅん…。ねぇ、治癒士の治療だと【ヒール】はいくらくらいかな?」


「治癒士の腕によってまちまちですが、ヒールの価格は怪我の程度で変わります。 比較的軽傷には30万メレ、重症には100万メレからが相場で、怪我が治るまでに行う回数によって加算されていきます。 

 ……治癒魔法を彼に使ってもらえるのですか!?」


 期待に目を輝かせたディアーナさんの後ろで「治癒魔法が使えるのか?」「弱みに付け込んでぼったくる気じゃないのか?」とぼそぼそと呟くように相談する声が聞こえるけど、「でも、ディアーナさんが信頼しているっぽい」という意見で落ち着いたらしい。 


 期待するような顔と「ヒール1発でリーダーが助かるもんか…」と言う諦め顔が私に向けられる。


「【ヒール】3発で300万メレと【クリーン】が5発で5,000メレ、【キュア】も5発で15万メレに<造血薬>が2本で……今回は3万メレって所かな。 

 合計で3,185,000メレになるけど、前金で支払える?」


 魔力大サービスのヒールでも3発はかかってしまうので、ちょっと高額になってしまったけど大丈夫かな?


 これだけのギャラリーの前で、これ以上の値引きはしたくない。彼らにお金が工面できることを祈りながら返事を待っていると、ディアーナさんが1枚の紙を手に立ち上がる。


「彼らにはそんな大金の持ち合わせはありませんので、今回はギルドが貸し付けます。 

 ……借金を返し終わるまでは、私がOKを出した依頼だけをこなすことを条件にするけど、どうする? 借金をしてアリスさんの治療を受けるのか、それとも他の治療法を探すのか。 決めるのはあなた達よ!」


 ディアーナさんの発言で、暗い表情(かお)をして悔しそうに俯いていた彼らが跳ねるように顔を上げた。

 

 ディアーナさんから受け取った紙(契約書かな? ここからではよく見えない)を読み込みながら、仲間内で相談を始める。


 たった3発のヒールで重症の仲間がどれほど回復できるのか。 千切れかけている腕の治療費も必要なのに、今回の価格は適正なのか。そもそも怪我の治療に関係のない【クリーン】魔法まで売りつける女を信用して大丈夫なのか。


 早く決断しないとリーダーの命に関わるかもしれないと焦りを滲ませながらも、リーダーの今後のことを考えて決断を迷っていた彼らを後押ししたのは、


「なんでそんなに安いんだ? さっきは腕を生やすのに1,300万メレも取ったじゃないか? その男の腕だって千切れかけてるぞ? ……もう、魔力が残ってなくて、腕の治療は諦めたのか?」


 成り行きを見守っていたギャラリーの疑問の一言だった。


「私に絡んで来た性質(たち)の悪い男の治療費と、これからディアーナさんに担当をしてもらう予定の男性の治療費が違うのは当たり前でしょ?  あと、価格は腕の治療を含めたものだから。失礼なことを言わないでよね!」


 男の言葉で私が【リカバー】も使える実力があることと、今回の治療費が決してぼったくりではないことが理解できたようだ。私の❝腕の治療費込み❞の発言は「見た目が戻るだけでも、リーダーの意識が戻った時のショックが和らぐ!」と捉えられたらしい。 …きちんと機能も戻すよ。


「わかったよ、ディアーナさん! 俺たちは今後ディアーナさんのOKが出た依頼しか受けないし、ディアーナさんが選んだ依頼は断らない。 ドブ掃除だろが、ゴブリンの解体・後始末だろうが何でもやる! だから金を貸してくれ! リーダーを助けてくれ!!」


「片腕でもできる依頼はあるわよね!? どんな小さな依頼でも文句なんか言わないわ! 頑張って借金を返して、リカバー代金を稼がないと!」


 俄然気力を取り戻したパーティーは、元気よくディアーナさんに借金を申し込んだ。 


 さっきのパーティーへの融資といい、今回の借金といい、ギルドは本当に銀行みたいな仕事もしているんだなぁ。今度詳しく話を聞こう。


 でも、今は彼の治療を優先! 早く治療してあげて、さっさとベッドで休みたいよ~!


ありがとうございました!

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