治療の対価 相手によって、変わります
2人目の重症患者は、少し面倒だった。
案内された家の患者は腕の骨を折った子供だったのだけど、そのおばあさんの方が重症だったのだ。
内臓出血があるのに、本人は“軽い腹痛”としか思っていない為、「自分は怪我なんてしていない。そんなことより孫の治療を今すぐにしろ」と迫る。孫ちゃんは軽症だから明日だと言っても、ごねる。
このおばあさんが重症でなかったら、すぐにでも家を出て行くのに……。
付き添いのマルゴさんとルベンさんも困惑しているが、話を進めた。
「お孫さんよりも、あなたの方が重症です。
今なら、
1、店においてある、蓋つきのビンすべて
2、店においてある、鍋セットをすべて
このどちらかが治療の対価になります。
この後、悪化してからなら、店においてあるビンと鍋の全てをいただきます。
どうしますか?」
「ハッ! ウチの可愛い孫の腕を治さないで、この程度の腹痛で、店の商品をごっそり持って行こうってのかい! この薮の業突く張りが!」
あ、ムカついた……。
「訂正します。悪化してからの治療には、店のビン・鍋・包丁・ナイフを全ていただきます。
ちなみに、大きさ、数、種類、全てを記帳しているので、1つでも少なくなっていたなら治療は拒否しますので、そのおつもりで。
では、近いうちに吐血されるでしょうから、その時までに、治療を受けるか、拒否するかをご検討ください。
お大事に」
必要なことだけを告げて、さっさと家を出ていく。
まだ、数軒残っているからね。さくさく行かないと!
残っていた患者さんの中には重症な人はいなかったので、みんなでマルゴさんのお家に向かった。
「金物屋のばあさんは、本当に重症なのか?」
マルゴさんの店に着くなり、ルベンさんに聞かれたので、
「本当ですよ。もう、いつ血を吐いてもおかしくないです。遅くても明日の朝には吐血するでしょう。そうなると命に関わりますので、治療は時間との勝負です」
とだけ答えた。内臓出血がどうとか説明しても意味がないしね。
ルベンさんはしばらく考え込んだ後、急ぎ足で来た道を戻って行く。
「金物屋に戻ったんだろう。本当に血を吐いたらうろたえちまって、治療の対価のことなんて考えていられないだろうからね。今の内にどうするのかを確認に行ったのさ」
なんとなくルベンさんの後姿を眺めていたら、マルゴさんが教えてくれた。
なるほど、寡黙だけど面倒見が良いタイプなのか。 確かに人から信用されるタイプだな。
「すっかり陽が落ちちまったけど、これから解体をするのかい?」
約束の解体をどするのかマルゴさんに聞かれたけど、まだ決めていなかった。
そうだな~。どうしようか。
(ハク~。晩ごはん、少し遅くなってもいい?)
(どうしてにゃ? また食欲がないのにゃ?)
(ううん、それは大丈夫。
今夜のおかず用に肉を解体してから、重症だった旦那さんに増血薬を作ってあげたくて。 でも、ハクがお腹すいてるなら、あるもので先にごはんにするよ?)
(アリスは今夜はちゃんと食べるにゃ?)
(うん! いっぱい食べる^^)
(だったら、待つにゃ。アリスが先にすべきと思うことをするといいにゃ!)
ああ、なんて出来た仔なんだ! 遅くなるけど、美味しいお肉をいっぱい焼いてあげるからね~!
「できるなら、今すぐに解体をしたいです。マルゴさんはお腹すいていませんか?」
「構わないよ。最初の約束だからね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
さすが、マルゴさん。筋が通ってる!
「あの、解体用のナイフに予備があったら、お借りできますか? 持っていないんです」
「1本も持ってないのかい? 今までは何を使っていたんだい?」
「今まではこれを」
<鴉>に手を添えながら言うと、苦笑された。 やっぱり無理があるよね。
「じゃあ、これをお使い」
「ありがとうございます! お借りします!」
ナイフセットを貸してもらって、今夜はまともなお肉が食べられる♪ そう、喜んだ瞬間だった。
ルベンさんが血相を変えて私を呼びに来た……。
案の定、金物屋さんが吐血したらしい。ルベンさんが説得をしてくれた後だったから、対価の支払いの意志はある。早く来て欲しい、と。
ああ、従魔たちのごはんの時間がどんどん遅くなっていく……。
(ハク、インベントリの中の焼いた肉串、人にあげてもいいかな?)
(アリスが食べない肉串にゃ? かまわないにゃ)
(ありがとう! ハクは食べる?)
(後でアリスとおいしいものを一緒に食べるにゃ!)
ふむ…。じゃあ、もう焼いてる肉串は必要ないか。
「じゃあ、ルベンさんは一緒に金物屋に行ってください。 マルゴさんはすみませんが、エメさん(重症だった人の奥さん)にこれを届けてから、金物屋に来てもらえますか?」
インベントリから肉串を取り出して、葉蘭に包んで渡した。
「これはなんだい?」
「ワイルドボアの肉です。焼いているのでそのままスープに入れて煮込めます。味付けはしていないので、そのまま食べない方がいいですよ?」
「……どうして、ここまでするんだい?」
マルゴさんが肉を受け取りながら不思議そうに聞くので、
「治療の一環です」
と答えておいた。
ちょうどいいから、美味しくない肉の在庫整理です。なんて言えないよね?
ありがとうございました!




