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最初が肝心だから 3

(ありすがちゃんとした治療費を要求するなんて……! 成長したのにゃ!)

(ありす、えらい! おりこう!)


 ……従魔たちの失礼な心話は無視して、転がっている男だけを見つめ続ける私の耳に、


「アリスさんは<治癒士>だったの?」


 信じられない!と言いたげな声で受付さんが呟く声と共に、


「おまえがどうやって治療するつもりなんだ!? 腕が生えるような、レアポーションを持っているって言うのか!?」


 といった声も聞こえるが、私は担当さんにだけ首を横に振って返事をした。


「おい、おまえ! 返事をしろよ!」


 私が視線すら向けないことに業を煮やした冒険者が声を荒げているが、私は気にしない。


 でも、心優しい担当さんは少し気になるようで、


「あの、どうやって治療をするつもりですか? あと、その、……彼が先ほどからアリスさんに声を掛けているようですが」


 と少し気まずそうに手のひらで男を示した。 でも、


「え? 私に声を? そんな人いなかったけど。

 ……もしかして、さっきから耳に入る「おまえ」って私のことだったの? そんなわけないよね? 私はこのギルドにそんな呼び方を許すほど親しい人なんていないもの」


 担当さんの気のせいだと言ってにっこりと笑ってやる。 もちろん、冒険者のことは一瞥もしない。


 初対面の相手を❝おまえ❞呼ばわりなんて、一体何様のつもりなんだかね~?


 そんな私の態度が癇に障ったのか冒険者が私を怒鳴りつけ始めたけど、すぐに静かになった。


 腕を切り飛ばした男のパーティーメンバーの一人が冒険者の意識を刈り取ったからだ。 ぶっとい腕が冒険者の首に絡んでいたから締め落としたのかな? 口で止める前に意識を刈り取るなんてなかなかに荒っぽいけど、私には害がないから気にしない。


 だからその男に、


()()()はどうやってこいつの腕を生やしてくれるつもりなんだ?」


 と聞かれたから「治癒魔法」と答えてあげた。 …私の顔は担当さんに向いていたけど、そんな細かいことは気にしないよね? 先に質問したのは担当さんだったし。


 担当さんが唖然とした表情(かお)で、


「【治癒魔法】を使えるのに<治癒士>じゃないなんて……」


 と呟いているのに頷きながら男が期待のまなざしを私に向けるので、きっちりと釘は刺しておく。


「<治癒士>じゃないけど対価はきっちりと貰うわよ?

 この男の腕を❝生やしたい❞なら前金で1,300万メレ。傷を塞ぐだけなら前金で300万メレね」


 と言ってやると、様子を見ていた周りから、


「治癒士より高額じゃないか……」

「弱みに付け込むのか? 自分が切り落としたのに」


 といった声が聞こえてきた。確かに私が切り落としたけど、その前に何があったのかをすっぱりと無視する発言に、少しだけカチンときた私は悪くないハズ…‥。


「私がどうしてこの男の腕を潰したのか、そのおめでたい頭は忘れたって言うの?

 この男が私に絡んでこなかったら、私の警告に従って素直に腕を離していたら、あなた達の誰か一人でもこの男を止めていたらこんなことにはなっていなかったんじゃない?

 それなのにどうして私がこの男の治療をしてやらないといけないのかしらね? 放っておいても良いんだけど?」


 ❝私の担当さん以外、ここにいる全員が当事者だ。勝手なことをほざくな!❞との思いを込めて周りを睥睨してやると、冒険者たちと一部の職員は私と視線を合わせない様に顔を反らしたりうつむいたりしている。 ……どうやら❝恥❞は知っているらしい。 その中で、


「その通りだ。リーダーの俺がこいつを止めるべきだったんだ。すまなかった。 ……あんたには不愉快だろうが、こいつの腕を治して…、❝生やして❞やってくれないか?」


 パーティーのリーダーを名乗る男は私と視線を合わせながらきっちりと謝罪して、治療を乞う為に頭を下げる。


「私は<商人>でもあるからね。 対価を払うなら商品として売るわよ」


 喜んで治療をするわけではない。という姿勢を周りに示す為にあえて冷たく言えば、リーダーの男はなぜか安心したように微笑みを浮かべて頷いた。


「今の手持ちの金だと治療費を払えないんだ。ちょっとだけ待ってくれ。

 ビーチェ! 俺たちのギルドハウスを担保に、1,100万メレを融資してくれ!」


「え!? 何、言ってるの? 治癒士よりも高く吹っ掛けられてるのに、言いなりにお金を払うなんてダメよ! 第一、本当に【治癒魔法】を使えるのかもわからないのよ? せめて後払いにしないと!

 担当の私が交渉してあげましょうか?」


 ……ここに❝恥❞を知らない人がいたよ。 もしも彼女が値下げ交渉をするなら、私は治療を拒否してすぐにギルドを出て行こう。


 そう決意したことを知ってか知らずか、リーダーの彼は少しだけ呆れたような顔になりビーチェに言った。


「ビーチェは何を聞いていたんだ? 彼女はこれだけのギャラリーの前でわざわざ<商人>だと名乗った上で❝商品を売る❞と言ってくれたんだ。 個人的な感情を交えずに、プロとして仕事をすると宣言してくれたんだぞ?

 それに、1,300万メレは決して吹っ掛けた金額じゃあない」


「そうよ。 四肢欠損の再生は最初の1週間が肝心で、1日遅れると100万メレずつ加算されるのが<治癒士>たちの常識なのだから、明日まで待って治癒士に依頼をするなら、1,350万メレかかる上に彼を一晩放置することになるの。

 ほら、早く手続きをしてあげなさい!」


 リーダーが言っているようなつもりは私にはなかったんだけど、治療の手を抜くつもりは最初からなかったからこの場は放置しておこう。


 リーダーばかりか、私の担当さんにも急かされているのにビーチェはなかなか動こうとしない。


 業を煮やしたのか私の担当さんが、


「今回は私が手続きをします。それでいいですね?」


 とリーダーに了承を取るなり、物凄い勢いで何かの書類を作成し始めた。


「彼らの担当は私なのに、それは越権よっ」


 ビーチェが顔を真っ赤にして抗議したが、


「今回は彼らの❝収入❞ではなく❝支出❞なのだから、私が代わってもあなたに損はないでしょう? そんなに嫌がるのなら、どうしてさっさと仕事をしなかったの!?」

「ビーチェ、これ以上邪魔をするなら担当を降りてもらうぞ」


 私の担当さんに叱られた上に、リーダーに冷たく注意されて静かになった。


「貸し付けの条件などは私が勝手に裁量したけど、あなたたちの不利にはなっていないはずよ」


 私の担当さんが差し出した書類にざっと目を通したリーダーは何の不満もなかったらしく、「感謝する」と呟きながらサインをし、それを受け取った担当さんが素早くカウンターの上に金貨1枚と大銀貨1枚を置き、その横にリーダーが大銀貨1枚と中銀貨を10枚置いた。 合計で1,300万メレだ。


 私に対する書類(契約書のようなもの)はないようなので、さっさと受け取って床に転がっている男に向き合う。


「【リカバー】!」


 切り落としたばかりだからか、私の【リカバー】のレベルが上がったのか、男の腕は【リカバー】1発だけで簡単に再生し、さっきまで絶望に染まった顔をしていた男はいきなり無くなった痛みと、いきなり生えた腕に目を白黒させている。


 一瞬の静寂がギルド内に広がったけど、誰かの「本当に腕が生えてるぞ!」の一言を皮切りに、大歓声が響き渡った。


ありがとうございました!

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