彼女の決断
「あんたのアイテムボックスにまだ余裕があれば、あたしの荷物を預かってくれないか? 金に換えて孤児院に寄付して欲しいんだ」
フランカの❝頼み事❞は、彼女の持ち物を換金して孤児院に届けることだった。 もともとラリマーへ行くつもりだったから、引き受けても大した手間じゃない。 でも、
「……私が着服するとは思わないの? あなたが届けた方がいい」
彼女の❝死❞を前提とした頼みを引き受けることには抵抗を感じた。
もちろん、気がかりなことを残している方が❝死ねない理由❞になるかも?といった打算もあったことは否定できないけど。
何とか気を変えて欲しい。フランカの気性をハク達も気に入ったようだし、一緒に旅をしようよ!と願いながら彼女を見つめた。
だからフランカが、
「できない。とは言わないんだね? あんたのお陰で、アイテムボックスを開くだけの魔力と体力が戻ったよ」
くすっと小さく微笑んで、簡単な説明や思い出話を交えながらどんどん荷物を取り出し、
「院長やあの子たちの顔を見たら、ラリマーを離れる決心が鈍っちまう。 もちろん、これらが全部売れるとは思っていない。 売れなかったら持って帰って来て欲しい。
……あたしの手元には売れ残った物と予備の装備が残れば十分だ」
と言ったことが本当に嬉しかった! 気を変えてくれたことが本当に嬉しくて、フランカが困ったような顔で、
「金も渡してやりたいけど…。 どれくらい残せばいい?」
と言った時も、
「ん? お金はどこかの町に着く前に魔物を狩ればいいだけだから、フランカが渡してあげたいなら全部渡してあげたら?」
と答えて、ハクから抗議の体当たりを受けてしまっても、ちっとも痛くなかった♪
預かるのが荷物とお金だけというのがなんだか寂しい気がしたので、手紙を書くことを勧めてみた。
院長から教わって読み書きができると言っていたらね。❝またいつか会おう❞って一言書いておくと、孤児院のみんなも安心するだろうし。
インベントリからテーブルセットと紙とペンとインク壺を取り出すと、フランカが驚いたような呆れたような微妙な顔で私を見たけど気にしない。 そのうちに慣れてくれるだろうしね。
「こんな上等な紙でなくても…」
「お手紙なんだから綺麗な紙の方がいいでしょ? いっぱいあるから気軽に使ってね。 院長さんや子供たち、お世話になって人たちへのご挨拶も必要でしょ?」
遠慮するといけないから、テーブルの上に追加の紙をドンっと乗せておく。 【複製】でい~っぱい増やしたから、本当に遠慮はいらないんだよ~♪
フランカが手紙を書いている間、時間の空いた私はインベントリから綺麗な布を取り出して、どれが少女に似合うか選び始めた。
まだ幼いから可愛らしい感じの方がいいよね? 元は盗賊たちからの戦利品だけど、そこには目をつぶって……。
私があれでもない、これでもないと悩んでいると、フランカが側に寄って来る。
何をしているのかと聞かれて、「この子を埋葬する時に包んであげる布を選んでるの。似合うもので包んであげたいから」と答えると、深~いため息を吐かれた。 ……なんで!?
「あんた、上位貴族のお嬢さまだろう? そんなんで今までよく無事でいられたね? あんたのようなお人好しのお嬢さまが一人旅なんて、悪い奴らに身ぐるみ剥がされてもおかしくなかったろうに…」
と呆れたような目で見られたけど、それは違うよっ!? 私は❝お嬢さま❞でもないし❝お人好し❞でもない。
勘違いをしているフランカに、自分は平民でお人好しでは決してないことを説明したけど、なぜか納得してくれない。 なんだか可哀そうなものを見るような目で私を見てからハクやライムに視線をやり、揃って首を横に振って(ライムは体をプルプル震わせて)いる。
ちょっとだけ面白くないけど、従魔たちと彼女は随分と気が合うようだし、これならこれからの旅も安心だと気を取り直した。
私の迷っていた布を見て「どっちも高そうだけど……。 これが似合う」と選んでくれたフランカと一緒にクリーンで再度清めた少女を綺麗な布で包み、帆布でもう一度包んであげると、
「あんたに見送られて、幸せだよ」
と呟くように言ったフランカは、手紙を書きにテーブルへ戻る。
フランカの言葉は「もっと早くに助けに来ていたら」と後悔が胸にある私の気持ちをほんの少しだけ軽くしてくれた。 お礼にカモミールティを注いでテーブルに置くと、甘い香りが嬉しかったのか私を見て再度微笑みを浮かべてくれたので、私も感謝を込めて微笑み返した。
手が空いたので何をしようかと考えていると、フランカが「少女の為に花を摘んで来て欲しい」と言った。
彼女をここで1人にすることは不安だったけど「1人の方が手紙を書きやすい」というので、【マップ】でこの辺りには魔物がいないことを確認してから了承することにした。
微笑みながら手を振ってくれるフランカに見送られて、お花と少女の埋葬先を探しに行く。
ゴブリンの巣の近くはイヤだろうから、少し離れた綺麗な花が咲いている場所を選んで、その周囲以外からお花を摘んでから戻った。
でも、また微笑みながら私を迎えてくれるだろうと、急ぎ足で戻った私を待っていたのは、
微笑みを浮かべながら目を閉じて横たわっているフランカの、亡骸だった……。
ありがとうございました!




