【マップ】を信じた結果
この森で予定していた薪・水・食料の確保が大方すんだので、森を抜けるための移動を始めることにした。
と言っても、予定通りに森の中心を通って、入った方角とは反対の方へ抜けていくだけなんだけど。
「ぼうけんしゃがおおいね~?」
「そうだね。 最初に入った『シーダの森』では誰にも会わなかったから、この森もそうだと勝手に思い込んでたよ。 やっぱり大きな街の近くにある森だからかな?」
「ライムははぐれない様に気を付けるにゃ!」
「わかった!」
ライムが冒険者たちや魔物に害されたらいけないので、近くに人や魔物がいる時は従魔部屋に入ってもらってるんだけど、ハウスでひとりぼっちのライムが寂しがっているのを想像すると少しだけ速足になってしまう。
「ライムはハウスの中では眠っているから大丈夫にゃ~。でも、アリスの強い感情は伝わるから、あんまり心配しているとライムも困るのにゃ」
とハクに諭されても、気が付くと速足になっていてハクの苦笑を誘ってしまった。
ルート上の魔物を狩り、薬草やキノコや果物を採取しながら森の中心を目指していると、マップの範囲に、密集している赤いポイントが映り込んできた。
「……ゴブリンの集団?」
「奴らは臭くていやにゃ……」
ハクの言うとおり、ゴブリンはとても臭い。 それが集団でいる所になんて近寄りたくはないんだけど、イザックのアドバイスが頭に浮かんでしまっては見ないフリもできなくなった。
「行くのにゃ?」
ゴブリンの集団がいる場所へ直接向かうと、森の中心を通るルートからは外れてしまう。 一瞬だけ迷ったけど、ゴブリン達のいる方向へルートを変えるとハクが心配そうな声を出した。
「うん。 放っておいて、万が一、この森で出会った冒険者たちが被害に遭っても目覚めが悪いしね。 ……集団の中にいる名前のないポイントも気になるし」
本当は向かいたくない。 これだけの集団ならきっと、女子供のゴブリンだっているに違いないからね。
でも、ゴブリンを放置して他の人たちが被害に遭うかもしれないと思うと、とても見逃しにはできなかった。
ゴブリン達は集団でいるけど、こちらは戦えるのはハクと私だけ(ライムは当然従魔部屋に避難中)。 むやみに突っ込んでいくほど無謀にはなれないので、道すがら自分の能力を再検証&ブラッシュアップする。
結果、<気配遮断>のスキルは、今の所はあまり使い物にはならないことが判明。 何かの陰でじっとしている分には良いんだけど、少しでも動くと普通に気付かれる。身を隠す時に使うと気休め程度にはなるかな?といった所だ。 もっとレベルを上げないと、フィリップの様に便利に使うことはできないな。
でも、攻撃魔法の連続発動がクアドラプルまでは難なくできるようになった。 今では4つの的に同時に4つの攻撃をミスなく打ち込める。
この森に入ったばかりの頃はトリプルに苦労していたのに、コツをつかむと後は簡単だった。
4つの的を1234と順番に狙うのではなく、1~4の4つの的を全て視界に収めたまま、それぞれの的に意識を向けて攻撃魔法を発動させるだけで命中するようになったのだ。
気が付きさえすれば、随分と簡単なことだった。
調子に乗ってクインティプルにもチャレンジしてみたけど、成功率は50%を切る程度。 一度に5つの的を視界に収めたままそれぞれを意識するのがちょっともたついてしまうのだ。 まあ、そのうちに慣れるだろう。
ルート上にいる魔物で狩りの訓練をしながら進んでいると、少しだけゴブリンとの遭遇率が高くなった。
私を見つけるなり、襲い掛かって来るゴブリン達を退治するのは難しくない。 嬉しそうにニチャリと笑う顔や興奮している声に不快感を感じるからだ。
そんな存在が襲ってくるのだからいくら人型をしていても迎撃するのに何の躊躇いも感じない。接近される前にウインドカッターで片付けた。
「この辺のハズなんだけど……」
「油断するにゃ!」
マップ上にはゴブリンを表す赤ポイントが密集しているのに、私の目にはそんなものは存在しない。
でも、マップに映っている以上、ゴブリン達は必ずこの近辺に存在するハズなのだ。
小さな異変や違和感を見落とさないように周りを観察して、やっと見つけたのは洞窟の入り口だった。
これだけ冒険者が多い森で、どうしてゴブリンが集団生活をしているのかと不思議だったんだけど、木々で隠れた位置にある洞窟の出入り口を木の枝や岩で隠すようにしていたから今まで誰も気が付かなかったんだと納得する。
マップを確認してゴブリン達のいる位置から中の形を推測すると、中はYの字の様になっていて、この入り口を進むと少し広めの空間があり、その奥の方にも左右に1つずつ空間があるようだ。
中の赤いポイントの数はざっと80以上。 ここに私とハクだけで突っ込んでいくのは得策ではない。
少し離れて入り口を見ていても出入りするゴブリンの姿は見えないし、さてどうしたものか…。
「ねぇ、ゴブリンって、夜目が利くのかな?」
「人族よりは利くけど、さすがに真っ暗だと見えないと思うにゃ」
真っ暗だと見えないってことは、洞窟の中で火を焚いているか【ライト】の魔法を使えるゴブリンがいるということになる。 つまり❝知恵がある❞と言うことだ。うかつに飛び込んで罠などに引っかかってはたまらない。
でも、下手なことをして、他の出入り口から逃げられると困ったことになるかもしれないし……。
しばらく考えて、この入り口の側には見張り役の様に2匹のゴブリンがいるけど他の場所にはそういった存在が見当たらないので、出入り口はここだけだと判断する。
気休めだけど【気配遮断】を掛けたハクに入り口からそっと奥を覗いて貰って、中がほとんど見えないくらいに暗いことを確認して、奥もきっと薄暗いのだと推測した。
「中で火事を起こせば慌てて出てくると思うんだけど……。酸欠が怖いからやめておこうかな。【ライト】!」
とりあえずは魔力マシマシの【ライト】の魔法を洞窟の中に放り込んでみる。
驚いたゴブリン達が、1匹でも多く出て来てくれますように!
ありがとうございました!




