急ごう! オーク肉を守る為に!
冒険者たちが割ってくれた薪を<ドライ>で乾燥させて、インベントリに収納しては次に割ってもらう木を出している私を見て、
「便利だな…」
「いったいどれだけの薪が必要なんだ?」
冒険者たちは感心したような、呆れたような顔でぼそぼそと呟いている。
「こんなの売ったって、大した利益にはならないだろう? あんたには【治癒魔法】があるってのに、なんだってこんなものを?」
リーダーが割ったばかりの薪を私に渡してくれながら怪訝そうに聞くから、
「これは自分用で、販売は考えてないよ」
と答えると、とても驚いていた。
野営で使う薪ならこの辺りで枯れ枝を拾えるし、こんなに大量にストックする必要があるのかと疑問に思うらしい。
料理が趣味で、野営中にも焚き火以外にかまどを使うと言うと「そんな物まで入ってるのか? あんたのアイテムボックスはどれだけ容量があるんだ!?」と、とても驚かれた。
女性冒険者は「料理が趣味!? あんた変わってる……」と驚きの声を上げて、恋人の男性に苦笑されている。
「趣味だけじゃなくて、売り物にもしてるからね」
私も苦笑しながら補足したら、どんなものがあるのかと興味を持ってくれたけど、リーダーに「パーティーの金はもう残っていないから、買うなら自腹だぞ」と釘を刺されて「また今度にする」と残念そうに少しだけ離れた。
【ヒール】だけでなく、【キュア】【クリーン】【ドライ】の魔法や【造血薬】と【解毒薬】を買ってくれて、パーティーの所持金が乏しくなってしまったらしい。
幸いここは森だ。魔物肉やきのこがたくさんあるので、食べるものに困ることはないだろう。
私も無理に販売しなくてはならないほどお金に困ってはいないので、今回は店じまいだ。 好奇心に満ちた視線はスルーして、出しっぱなしにしていたテーブルと看板をインベントリに回収した。
次々と割られる薪をインベントリに収納していると、ここからそれほど離れていない位置にいたオークがこちらの方角に移動を始めた。
マップを見てそれに気が付いた私は、まだ途中だった薪割りを止めてもらって、ここで別れることを告げる。
急な申し出に驚き、自分たちが何か私の気に障ることをしてしまったのかと慌てる彼らに【魔力感知】に私の狙っていた魔物の反応があったと伝えると、【魔力感知】スキルの性能の高さに驚きながらも納得してくれた。
ラリマーで会えたら改めてお礼をすると言ってくれた彼らに、今の薪割りだけで十分だと伝え、これから自分たちを鍛え直すという彼らに激励を込めて人数分のりんごを渡す。
私としてはたくさんストックしている物だったんだけど、リンゴの木はこの森には生えていないらしく、みんなとても喜んでくれた。
感謝の言葉を背中で聞きながら、私はオークに向かって走り始めた。
肩の上で元気に、
(オークにゃ! 今夜はオークにゃ!)
(おーくすき~♪)
と可愛く騒ぐ2匹を落とさないように気を付けながら。
……今夜はストックしている料理を食べるんだけど、拗ねないでね?
ライムには従魔部屋に移動してもらって全力で走った先には、オークとゴブリンが今にも戦いを始めようとしている姿があった。
オーク1頭に、ゴブリンが3匹。 お互いの中央ではホーンラビットが逃げ道を探すように、忙しなく目をキョロキョロさせている。
「間に合った!」
私はわざと大きな声を出し、双方の意識をこちらに向けた。 同時に【アイスボール・トリプル】を声に出さずに発動させる。 その隙にホーンラビットは逃げてしまったけど、気にしない。 本命の方が大事だからね。
私の放った【アイスボール・トリプル】は、2匹のゴブリンの頭を潰して戦闘不能にしたものの、残念なことに最後の1回分はゴブリンの肩に当たり、膝をつかせただけだった。 急ぐあまり、狙いが雑になってしまったようだ。
とっさに【アースウォール】をゴブリンとオークの間に出現させて、オークがゴブリンに興味を無くして私を見ながら下半身に手をやるのを確認しながら、最後のゴブリンにウインドカッターを放つと、今度は狙い通りに首を切り飛ばす。
壁の厚さよりも幅を意識したアースウォールは、きちんとゴブリンの血液のシャワーからオークを守ってくれた。
オークは私が何をしたのかには興味を持たなかったらしく、❝にちゃ~❞と笑いながら下半身を触っている手はそのままに、持っていた斧を私の足首目掛けて投げつけてくる。
とっさに後ろに下がって避けると、それをわかっていたのか、距離を詰めるようにオークが飛びかかってきた。
「やだっ! 気持ち悪い!! 【ウインドカッター・ダブル】!!」
両手を上げて私に飛びかかって来たオークの首と、なにかで汚れている手を同時に切り飛ばし、勢いのまま私に向かって倒れ込んでくるオークの体を、横に転がって避ける。
倒れたオークから血液が流れ出るのを見ながら、鳥肌の立った腕をゴシゴシさすっていると、
「大丈夫にゃ?」
宙に浮いたハクが頬をぺろぺろしてくれた。
「…大丈夫だよ」
温かい舌とふわふわの毛皮の感触に癒されて鳥肌も落ち着いて来たので、ゴブリンを回収し、あまり血を流さなくなったオークも回収して、この場を離れることにする。
ハクとライムにおやつを出してあげていないことを思い出し、魔物がいないスポットを目指して歩き出すと、怪訝な表情のハクが私の名前を呼ぶ。 ハクの声をスルーしてライムを出してあげると、上機嫌ですりすりと再会の挨拶を始めたので内心でほっとしながら歩く速度を上げた。
ハクなら「場所なんかどこでもいいから、ここで食べる」って言いそうだからね。 おやつのことはここから離れてから教えてあげよう。
ありがとうございました!




