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私のことは忘れて欲しい……

 これからしばらくの間は私から戦闘を仕掛けないから、ライムを従魔部屋(ハウス)から出してあげたい。 


 私は一旦繁みに身を隠して、「ライム~、もう大丈夫だから出ておいで?」と声に出しながらインベントリを開いた。 これで、繁みに隠れていた従魔を呼びに行ったように見えるはず。


 ライムとハクを抱っこして泉へ行く道すがら、どうしてあんなに苦戦をしていたのか説明(いいわけ)を聞くことになった。 …別に❝弱い❞なんて思っていないよ?とも言えず、仕方がないから聞くことにする。


 この冒険者パーティーは何度かこの森に来ていて、いままでこれほどの苦戦をしたことはなかったらしい。


 今回の戦いも最初は危なげなく倒せていたんだけど、後衛の魔法担当の彼(元・瀕死の彼)が後ろから回り込んできたハウンドドッグに襲われたことで前線が崩れた。 彼が襲われたことで前衛の彼女に隙ができ(恋人同士だそうだ)、ゴブリンに組み付かれてしまい、元々人数では不利だった戦いが一気に劣勢になってしまった、と。


 ……一瞬の油断が命取りって、本当だな。


「私は慢心していたんだ……。攻撃魔法があれば敵を近寄らせることはないと思って、魔法にばかり磨きをかけて、戦闘訓練を怠った」


 仲間に背負われながら反省している彼を改めて見てみると、確かに戦闘ができそうな体型ではない。 なんて言うか…、細すぎる。 


 マルタが上位ランクだったのは、攻撃魔法が得意だからだけではなく、後衛なのに、メイドさん達も感心するほどの美しい筋肉(戦闘する力)を持っていたからなんだと改めて認識した。


「あたいだって、こんなに近くにいたのにあんたを守れなかった……」


 恋人を守れなかったと後悔する女性を見て、パーティー内の恋愛は危険なものなんだなぁ…、と認識する。 私には関係のない話だけどね!


「Cランク試験の前に、徹底した鍛え直しが必要だな…」


 リーダーの宣言にパーティーのメンバーが全員頷いたところで、目的の泉に着いた。










 泉で顔や手を洗いたいという彼らを止めて、先に飲み水の確保をさせてもらう。


 水が魔物の血や体液で汚れても【クリーン】を使えばすむことなんだけど、心情的に嫌だったんだ。


 汲んだ水に【クリーン】を掛けてインベントリに収納していると、パーティーのリーダーが話しかけてきた。


「名前を教えてくれないか? 俺たちは」

「また今度ね」


「え…?」


「自己紹介はまた今度。 今度どこかで会うことがあったら、その時にお互い名乗ろう?」


 ❝ダンッ! カラッコロ……❞


「……次に会うときには誰かが欠けているかもしれない、と言うことか?」


 自己紹介を遮られたリーダーは、強張った表情で私を見るけど、そうじゃない。


 ただ単に、この後すぐに別れるのに、今名乗られても覚えられない自信があることと、


「今は私の名前を憶えて欲しくないだけよ。 私が特別価格で【ヒール】を販売したことを他の冒険者に知られたくないから。 ……あなたたち、このことを他所(よそ)で話さないでくれる?」


 “アリスという女は格安で治療をしてくれる”なんて間違った認識を誰かに話されたくないだけ。 ラリマーでは、きっちりと❝販売❞する予定だからね。


 ❝ダンッ! カラッコロロ……❞


 ダメ元で口止めするとリーダーは軽く目を見張り、納得したように頷いた。


「ああ、そうだな。 怪我人があんたに殺到して、治療費を値切ろうとする姿が目に浮かぶよ。 

 ……どうして特別価格だったんだ? ゴブリンとハウンドドッグ程度に負けそうだったから、俺たちが低ランクで金を持っていないだろうと思ってまけてくれたのか?」


 ほんの少しだけ不服そうなリーダーに「そうだ」って言うのも気の毒で、仕方がないから本当のことを口にした。


「相場がわからなかっただけよ」


「「「「「は?」」」」」


 ❝ガッ…❞


 私が告白すると、実は話を聞いていたらしい他のメンバーも揃って呆けた顔になった。


 薪割りをしてくれていた男性は手元まで狂わせている。


「【リカバー】の相場は知ってるけど【ヒール】の相場を知らなかったの。 おかしい?」


 開き直って、それがどうした!?とばかりに視線に力を込めてみたけど、


「いや、まあ……。おかしいだろう? 普通は逆だ」


 あっさりと❝おかしい❞認定されてしまう。 


 そうだよねぇ。 私も自分でびっくりしたもん……。


 ❝ダンッ! カラッコロ……❞

 ❝ダンッ! カラッコロロ……❞


 少しだけしょげてしまった私をどう思ったのか、男性たちは薪割りを再開したり、空を見て「青いな」と呟いたり、目を閉じて回復に努めている風なアピールを始める。 その中で女性だけが、


「それにしても、あんたってば凄いよねぇ! あんな大怪我をヒールで治すなんて、あたいびっくりしたよ。 リカバーが必要なくらいの大怪我だったのに」


 と話題を逸らしてくれた。


「うん? 大怪我だったけど、四肢が欠損していたわけじゃないんだから、ヒールで十分でしょ?」


「は? そんなわけないよ! ほとんど瀕死の状態だったんだから! ……あんた、リカバーも使えんの?」


「よし、こんなものかな。 お待たせ~! 飲み水の確保ができたから、もう水を使ってくれていいよ!」


 質問には軽く笑って頷いて、泉の前から移動する。 


 魔物の体液で汚れた体を清めたがっているのをわかっていて、先に水場を占領させてもらったので、何かでお礼をしようかな?


 ハクやライムに相談して、ここで露店を開くことにした。


 テーブルセットを取り出して、簡単なメニューを書き込んだ紙を真ん中に置く。紙が風で飛ばないように、文鎮代わりに看板を置いたら営業開始だ。


「【ヒール】1回10万メレ? やっぱり安いな…。 ヒールの相場を教えてやろうか?」

「【クリーン】で血糊もきれいになるなんて楽~♪ 洗濯しなくていいなんて最高!」

「【ドライ】もあるのか…。 水で洗ってからドライにするか、今のままでクリーンを掛けてもらうか……。 迷うな…」

「造血薬……。 これ以上はみんなに迷惑を掛けられないからな……。 よし、2本もらおう」


 それぞれが楽しそうにメニューを読んでいる間、リーダーだけはメニューよりも看板を見て口をぽかんと開けていた。


「あんた…、あんなに強いのに<商人>だったのか!?」


 看板と私をしげしげと見つめていたかと思ったら、割ってもらった薪を【ドライ】で乾燥してはインベントリに放り込んでいる私に向かって大股で歩いてきた。


「一応、今は、ね。 ラリマーに着いたら冒険者登録をするから、今は見習いってところかな」


「登録前であの強さなのか…。 

 おい! 怪我をしているヤツはさっさとヒールで治してもらえ! パーティーの資金から金を出す!

 薪割りが終わったら、体力と飯の続く限り鍛え直しをするぞ! 体調を万全にしておけ!

 ……治療を頼む」


 リーダーの言葉にみんなが表情を引き締めて、次々に魔法を買ってくれる。


 薪割りは続けてくれるみたいなので、割ってくれた薪の代わりに、まだ割っていない木をたくさん出しておこう♪


ありがとうございました!

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