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初めての馬車旅 26

 夜も明けていることだし、とりあえずはここを離れた方がいいだろうと、私たちは朝食をお預けにして馬車に揺られている。


 ハクとライムも状況をわかっているから大人しく待ってくれているんだけど、ペーター君がお腹を鳴らせては、何とも言えない悲しそうな顔になるので見ているのが少し辛い。


 幼い男の子がお腹を空かせていると、幼い頃の流威(おとうと)がお腹を空かせていると錯覚してしまうから。


 顔も雰囲気も全然違っているのに、どうしても幼い頃の流威の記憶に繋がってしまう。 私が学校から帰ってくると、「お腹すいたーっ」って玄関まで迎えに来てくれた流威を思い出して、ついつい何か食べさせてあげたくなるんだ。


 でも、ペーター君の隣にはきちんと愛情を注いでいる両親がいるから私ができることは何もなく、早く休憩場所に着くことを願うだけ。


(眠れないのかにゃ?)

(ぼくがちいさいからきもちよくないの……? ぼく、がんばっておおきくなる!!)


 起きている私を従魔たちが心配してくれているのに気が付いて、慌てて目を閉じた。


(ライムはいつだって気持ちがいいよ~っ! 小さいライムは可愛いんだから、無理に大きくなろうとしないでいいんだからね?

 ハクも心配しないで大丈夫だからね! もう寝るよ)


 背中にライムの温かいぷにぷにの感触を、膝の上にふわふわしたハクの温かい重みを感じていると戦闘で高ぶっていた気持ちも落ち着いてきて、私はいつの間にかぐっすりと眠り込んでいた。  










「これを夕方頃まで預かっていてくれる?」


「わかった。これはアリスが馬車を降りる時まで預かっていてくれるか?」


「うん、いいよ~。休憩ごとに取り出して血抜きする? ライムが吸収してくれるから土を汚すこともないし」


「それ、いいな! ライム、頼んでいいか?」


「ぷきゃ~!(まかせて!)」


 一度目の休憩時間、私とイザックは遅めの朝ごはんもそこそこに、ハーピーの解体作業に勤しんでいた。


 私はハクに約束した<から揚げ>を大量に仕込むため、イザックは必要のないハーピーの胴体部分を処分して荷物を軽くする為だ。


 廃棄部分をライムが吸収することに「グルメなライムにこんな不味い肉を食わせるなんて拷問じゃねぇか!」と最初は渋っていたイザックだったけど、(あじわわないからだいじょうぶ~。えいようにするからまかせて!)と言ったライムの言葉をそれとなく伝えると納得した。 


「スライム、拾いに行くか…?」と小さく呟いていたのは結構本気に聞こえる。 リッチスライムが、みんなライムみたいに性格のいい仔だったらいいんだけどね~。 


 っていうか、イザックはライムのことを普通のスライムと思ってるんだっけ? イザックが本気でスライムを捕獲しに行くなら訂正をしないと、と思ったけど「テイマースキル、落ちてねぇかな…」と呟くのが聞こえたので今は言わなくてもいいだろう。


 解体処理が終わるのを見計らっていたのか、片付け始めると、お腹の出たおじさんがこちらに向かった歩いてきた。


「今日の朝食も大変に美味しかった。アリスさんはどこで修業を?」


「秘密」


「ははは! きっと素晴らしいお屋敷なんでしょうな! 実は私は商人でして。 今朝退治したハーピーの素材を売ってもらえないかと相談に来ました」


 質問に答えなったことを気にする様子もなく、おじさんは話を続ける。


「荷物が少ないようだがアイテムボックスのレベルがかなり高いのか? それにしては、アリスの飯を買っているが…」


「今回は商談で、見本品だけを持ってラリマーに行く途中だったんですが、目の前に転がる商機を見逃せなかったんです。 ハーピーの素材を譲ってもらえませんか? アイテムボックスの整理にもなりますよ?」


 にこにこと人の好さそうな顔で笑うおじさんは商人さんだったらしい。 お腹の出たずんぐり体型の商人さん。…なんだか親しみを感じるのは私だけかな?


「ああ、そういうことなら俺よりもあいつらに声をかけてやってくれ。 俺の荷物はもうしばらくアリスに預けておくから鮮度には問題ないんだ。 不要部位は廃棄し終わっているから、俺のアイテムボックスでも十分に入る量だしな」


 そう言ってイザックが解体途中のサルたちを指差すと、おじさんは困った顔をする。


「彼らはアイテムボックスを圧迫するような量を持っていますか?」


「さあ? アイテムボックスの容量は人それぞれだからな」


「ハーピーを狩ったのはほとんどお2人なのでは?」


 おじさんが困ったような、探るような視線で私たちを見るので、


「馬車を守っていたのはサルとビビアナだよ」


 思わず口を挟んでしまった。


「それは本当ですか!?」


「ああ。 俺たちは迎撃に出ていたから、馬車を守っていたのはあの2人だ」


「なんと……っ!」


 イザックが私の言うことを肯定すると、おじさんは驚き、そして嬉しそうに私たちに頭を下げてみんなの所へ戻って行った。


 大きな声で「この2人が馬車を守っていたらしいぞ!」とみんなに伝え、歓声が上がる中をサル達に近づいている。


 どうやらアイテムボックスを圧迫されていたらしい2人は、売買交渉に同意したようだ。嬉しそうに頷いている。 乗客たちの感謝の声には戸惑った顔をしているけどね。


「…いいのか? アリスの【結界】のことは秘密だとしても、馬車を守り切ったことを奴らの手柄にしちまって」


 イザックが読みにくい表情で私に聞くけど、


「いいんじゃない? 乗客たちも安心したみたいだし」


 と答えると、ニッと笑って頷いた。


「ああ。これでアリスが馬車を降りた後の乗客たちの不安は軽減されるだろう」


「正直なところ、サルたちの株を上げてやるのはちょっと引っかかるものもあるんだけどね」


「俺もだ。でも、乗客たちを不安にさせたままにするよりはマシだな」


 私が馬車を降りた後、頼れるのがイザックだけだと御者や乗客たちが思ったら、イザックの負担が増えてしまう。


 不安そうな表情でサルたちを見ていたおじさんに言った言葉は、全部が本当のことではないけど決して嘘ではない。ハーピーの物理攻撃から馬車を守っていたのは本当だからね。 


 疑わしそうにこちらを見ているディエゴ(ぎょしゃ)親子の視線はスルーだ、スルー!


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] この世界のハーピーは素材(食材含む)になるんですよねぇ。 洋モノから伝わったハーピィの基本知識だと、食事前後に語る事すら許されないような、ひどく汚ならしい存在が相場ですから。 つまり爪の毒…
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