初めての馬車旅 24
「ギャッ!!」
「クェェェッ?!」
「グギャ!!」
近い位置にいるハーピーに片っ端からウインドカッターを連発する。 1発1発狙っている余裕はないので、手当たり次第になっているけど気にしない。当たればいいんだ。
運よく戦闘不能になったら儲けもの。 どこかを傷つけて地上に落とせば、後はイザック達に任せたらいい。
ハクはどうやって見分けているのか、首や胴体を真っ二つにされて絶命した個体だけを【物理攻撃吸収壁】で受け止めている。 前までは結界で受け止めていたので、ハクも着実に成長しているようでますます頼もしい♪
「なっ! ハーピー相手に【ウインドカッター】で!? ……っっ!」
戦闘中に意識を逸らせたビビアナをハーピーのウインドカッターが襲ったけど、水魔法をぶつけて威力を落とし、なんとか避けられたらしい。
「ビビアナ! ボサッとするな!!」
反対側で馬車を守っていたサルがビビアナを叱咤する。 ……反対側にいたのによく状況が分かったな。ビビアナを気にかけていたんだろうけど、そこそこの実力もあるってこと?
「っ……、っと!」
(アリスのバカ!)
(ごめん!!)
他人のことかまけている場合じゃなかった! 私の肩にいるハクを獲物認定した数体が徒党を組んで襲ってきたので、上から降って来るウインドカッターを避けながら、鋭い爪で攻撃してくるハーピーの翼を<鴉>の一刀で切り落とす。
「ギャァァァッ!」
片翼では空に逃げることは不可能だろう。 悲鳴を上げて地を転がっているハーピーはそのままに、せっかく降りてきてくれたハーピーたちが空に逃げてしまわないうちに<鴉>で切り捨てた。
地を転がっていたハーピーに止めを刺して戻って来たハクを肩に乗せ、肉弾戦に切り替えたハーピーと戦っていたイザックに声を掛ける。
「こいつらってば、可愛いハクとライムを獲物認定してるんだよ!」
「なんだとっ!?」
ハーピーの憎らしい特性を教えるとイザックの攻撃に磨きがかかり、2頭を相手に6:4で有利だった戦いを一気に片付けた。
片方の腹を蹴り、体勢を崩した所を踏み台にして飛び上がり、イザックの剣が届くか届かないかの位置に滞空していた個体の片翼を落としてから一息に両方に止めを刺す姿を見て「あんな戦い方もあるのか!」と感心する。
私は魔法とマップのお陰で接近戦は避けられそうだけど、戦闘中に魔力切れになった時の為に、ああいう戦いの仕方も覚えておこう。
せっかくの機会なので【ウインドカッター】ばかりでなく、【アイスニードル】や【ファイヤーアロー】、【ウォーターランス】も試してみたんだけど、
(ザクザクにゃ! まずくならないか心配だにゃ~…)
(羽はアリスが使うんじゃなかったのにゃ? 焦がしても使えるのにゃ?)
(魔石まで砕いてどうするのにゃ!)
ニードルは致命的な傷を負わせるには向かなくて、何発も打ち込んでいるうちに下半身の可食部にもザクザクと刺さってしまい、ファイヤーアローはせっかくの羽を焦がしてしまい、ウォーターランスは食べられない胴体部分を狙ったんだけど、思った以上に太かったランスが胸と一緒に魔石も貫いてしまった。
(ごめん! ごめんって!!)
結局は❝血抜き❞にも都合のいい【ウインドカッター】が私の主力魔法になりそうだ。
空中のハーピーを私が魔法で攻撃し、止めを刺しきれなかった個体や魔力切れで肉弾戦を仕掛ける個体をイザック達が相手する。
高い所にいる個体がいなくなったところで私も<鴉>での戦闘に切り替えてしばらくすると、こちら側の死者は0人でハーピーの群れを殲滅することができた。
「アリス! 水をくれ!」
私の倒した個体を回収していると、水筒の水を飲み干したイザックが走って来た。
水差しからコップに注いで渡すとそれも一気に飲み干してから、本当に嬉しそうな顔で笑う。
「あ~、美味いっ! 面倒な戦闘の後の美味い水は最高だぜ!」
満足そうに笑っているイザックに釣られて私とハクにも水を注いでいると、
(大変にゃ! あっちのハーピーにスライムが近づいているにゃ!)
ハクが慌てた声を出した。 マップを見ると、離れた所に撃ち落とした個体を狙ってか、スライムが移動している。
水を飲みながら状況を確認し、イザックに水差しを押し付けて、
「遠くのハーピーを回収してくるから、イザックが倒した個体を分けておいてくれる?」
返事も聞かずに走り出す。
今回の戦闘ではせっかくの素材をダメにした個体があるから、スライムに奪わせるわけにはいかない!
そんなことになったらハクが怒り狂ってしまうかもしれない!! 怖い想像が頭をよぎってしまい、必死にスライム目掛けて走っていた。
「【ウインドカッターッ】!」
「プギャッ…」
スライムがハーピーに襲い掛かるほんの一瞬前に、私の飛ばしたウインドカッターがスライムを真っ二つにした。
「間に合った……」
「早く回収して、次に行くにゃ!」
人目がないのを幸いに、私の顔の真ん前に浮かんだハクが、次を急かせてぷにぷにのにくきゅうを私の頬に押し付ける。 ……気持ちがいいから、ちょっとゆっくりしちゃおうかな?と思っていると、
「早く全部終わらせて、ライムを出してあげるのにゃ!」
先輩従魔として後輩を思いやっている発言を聞いて反省する。 ライムに寂しい思いをさせていることに思い至らないなんて、主失格だ…!
「わかった!」
反省して次の回収目標に向かって走り出すと、頭の上に着地したハクが私のおでこをなでなでしてくれた。
……たまに厳しいんだけど、こういう優しい所にとっても癒されてる。 戦闘直後の鬱々としているようで高揚しているような不思議な感覚がすぅっと消えてくれたこと、ハクは気が付いているのかな?
ありがとうございました!




