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初めての馬車旅 15

 私たちが盗賊に襲われた地点まで戻った時、そこに生きている盗賊は1人もいなかった。


 生け捕りにしたはずの5名も、他の盗賊たち同様に事切れていたのだ。


 驚きに目を見開いていると、イザックの肩にいたハクが私の肩に飛び移り、私を労わるかのように頬すり寄せてくる。


 ……ああ、うん。 ……そういうことか。


 イザックもハクも、盗賊たちに聞きたいことなど別になかったんだろう。ただ、私をあの場から離したかっただけ。 


 これが集落から離れた所で襲われた時の対処方なのか、狙われたのが私だったことを伏せる為なのかはわからないけど、盗賊たちを皆殺しにする必要があったんだろう。 


 でも、抵抗できない人間を殺せないかもしれない私を気遣って、イザックとハクだけで後始末をしてくれたんだ。


 私に負担を掛けない為に、私の心を守る為に、元・護衛と従魔たちは優しい嘘で私を現場から離してくれた。


 ……私はまだまだ覚悟が足りないと自分を戒めていると、腕の中にいたライムが私の喉元をやわやわと擦り、頬をすりすりしていたハクがなめなめし始めた。


 どうやら慰めてくれているらしい。


 言葉ではなく、ただただ温もりを分けようとしてくれる態度に従魔たちの優しさを感じて、落ちていた気分を少し浮上させることができた。


 気づかわし気に私を見ていたイザックに微笑みかけると、イザックも安心したように表情を和らげる。


 感謝を込めてもう一度微笑みを浮かべた時に、その声は響いた。


「ちょっと、サル! 何をしてるの?」


「ああ? 俺たちの取り分を選んでるに決まってるだろう? これなんか良いな!」


「私たちの取り分…? 何言ってるの!?」


 声のする方に視線を向けると、遺体となった盗賊たちから装備をはぎ取っているサルが目に入った。


「俺たちが馬車を守っていたから、あんたらは安心してこいつらを倒せたんだ。分け前をもらうのは当然だろう? Bランクさんよぉ」


 言っていることは間違っていないんだけど、ニヤリと笑って当然のように分け前を要求するサルに不快感を感じたのは私だけではないらしい。 ディエゴや乗客たちだけでなく、サルとは気の合っていたらしいクルトまでが眉間にしわを寄せている。


「こいつらが全員歩いているとは思えねぇから、どこかに馬を隠しているんだろう。 俺たちには1頭ずつでいいから先に選ばせてもらうぞ」


 悪びれることもなく、堂々と言い切る様子を唖然として見つめていると、不意にこちらを向いたサルと目が合った。


 唇の端を釣り上げたサルに、私が文句を言おうとすると、


「サル!! もう、いい加減にしてよ!」


 ……先に、ビビアナがサルを怒鳴りつけた。


「あ? 何怒ってるんだよ? お前はちょっと黙ってろ」


「黙ってられないよ! 

 サルは❝Bランク相手にもきちんと自分の権利を要求する、頼りになってカッコいい自分❞をアリスさんに見せてるつもりだろうけど、はっきり言って、図々しいだけでカッコ悪いから!」


「なんだと!?」


「あんたは子供の頃からずっと面食いだったからね! アリスさんのことを意識してるのは最初から気が付いてた。 なんだかんだと理由を付けては絡んでたのだって、あんたを利用して捨てた<コンパニオン>を思い出すからだけじゃない。 

 アリスさんにイザックさんがついていることが面白くなかったから。 本当は自分がパーティーに誘いたいけど、できないから八つ当たりをしてるだけのくせに!」


 きっぱりと言い切るビビアナに、サルは呆然としている。  いきなり名前が飛び出した私もびっくりしているけどね…。


「お、俺にはお前がいるだろう!? 何を言い出すんだ!」


 サルが何とか気を取り直してビビアナに話しかけてるけど、どうしてチラチラと私の方を見るんだろう? 自分のパートナーの誤解を解くのに集中しろ!!


 私の心の声が届くわけもなく、こちらをチラチラと見ているサルにビビアナが気付いてしまった。


「サルが私をパーティーに誘ったのは、私がほどほどの顔とほどほどの実力しか持ってなかったからでしょ!? <コンパニオン>にいいように振り回されたあんたは、昔からあんたが好きだった私なら他の男にちょっかいを出さないだろうし、この程度の容姿の私が声を掛けられることもないだろうから安心だって思ったんでしょ? それに、自分より低いレベルの私と組んで偉そうに振舞うことで自尊心を保てた。 違う!?」


 どんどん気が高ぶっていくビビアナに、サルは何も言えない様子でただ立ち尽くしている。


「私だってアリスさんのように美人に生まれたかった! 好きな人に好いて貰えるような容姿に生まれたかった! 妥協で選ばれたくなんかなかった!!  私だって、アリスさんのように………! グスン…。 うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 気が高ぶりすぎたのか、ビビアナは私を見つめたかと思うと、とうとう泣き出してしまった。


 乗客たちはさっきから目を丸くして固まってしまっているし、私もなぜこんな話になったのかわからなくて対応に困っている。 ビビアナを落ち着かせるべきサルに至っては、壊れた人形のように手を上げ下げしたり口をパクパクと開け閉めしているだけだ。


 そんな木偶の坊に代わって動いたのはイザックだった。


 自分の持っていた手ぬぐいをビビアナの頭にかけて泣き顔を隠してやりながら、静かに話しかける。


「女の価値は顔だけじゃないぞ?

 そりゃあ、アリスの容姿はあの通りだし、中身もかなりいい奴だってことは俺が太鼓判を押すけどな。 でも、それだけでみんながみんな、アリスを恋人にしたがるわけじゃない。 

 俺だってアリスのことはかなり気に入ってるが、どっちかって言うと妹みたいなもんだしな」


「……あんなに綺麗で可愛いのに?」


「ああ。 誰が見ても、アリスが綺麗で可愛いのは真理だな。 そのうえ性格も悪くない…って言うか上玉だ。 

 でも、俺の知っている男は、まだ若いがアリスを娘として可愛がっているし、Aランク冒険者の中にはアリスと一緒に寝起きしていた結果、すっかり可愛い妹のように思っているヤツもいる。俺と一緒だな。 もちろんアリスに惚れて、二言目には婚約や結婚を申し込んでいたバカもいたが、あいつはアリスの料理の腕に惚れ込んでいたようだしな。

 極上の容姿はアドバンテージになるけど、それだけで全ての男が恋人にしたがるわけじゃない」


「………」


 なんだか、私のことを褒めているのか貶しているのか微妙な感じだけど、ビビアナが泣き止んだから、まあ、いっか。


 不服に思っていたのが顔に出ていたのか、私を見たビビアナが不思議そうな顔をする。


「極上の見た目だって褒められているのに、そんな顔するの?」


「見た目を褒められるのは嬉しいけど、別に私が何かをした成果じゃないから。 ビジュー神には感謝するけどね。 それより、私の性格を貶してない?」


 ビビアナがいいタイミングでツッコんでくれたので、イザックに聞いてみる。


「あ? なんでだよ。 べた褒めしてるじゃないか!?」


「恋人にしたいタイプじゃないって力説してるみたいだけど?」


「は!? あ、いや……。 それはだな……」


「遠回しに❝色気がない❞って言ってる感じ?」


「ちょ…、いや、だってな…?」


「……っぷ! くくっ…、あはははははは!」


 イザックを問い詰める私がおかしかったのか、言葉に詰まるイザックがおかしかったのか、ビビアナが笑い出した。


「イザックさんとアリスさんは本当にそういう関係じゃなかったんだ!? そっか…。こんなに綺麗で可愛い人が側にいても、夢中になる人ばかりじゃないのか……。 

 だったら、私のように普通の女を本気で好きになってくれる人もきっといるよね?」


「「もちろん!!」」


 イザックを問い詰めはしたけど、別に不特定の人にモテたいわけじゃないから答えがなくても気にしない。


 何かを吹っ切ったように笑うビビアナの笑顔が魅力的だったので、イザックと声を合わせて肯定したら、ビビアナがとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。


 うん、やっぱり素敵な笑顔だな。 サルにはもったいない!


ありがとうございました!

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