初めての馬車旅 13
「どうして生け捕りにしたの?」
意識のない盗賊たちを縄で縛っているイザックに質問してみる。
「……アリスのように容姿の良い若い女は奴隷として売るといい金になる。殺す必要がないんだ。
なのに、こいつらは始めっからアリスを殺すつもりだったからおかしいと思ってな。 事情を聴きだしておいた方がいい」
イザックは説明をしてくれながら指先まである皮の手袋を嵌めて、盗賊たちの口の中を探り始めた。 毒薬などを仕込んでいないかを調べているらしい。
「ちっ…、やっぱりな」
イザックの読み通りに毒薬を仕込んでいた盗賊がいたので、私はびっくりしてしまった。
えっと、<黒の鉤爪>だっけ? 以前に襲ってきた盗賊団は誰も自害なんかしかなったし、そんな物騒なものを口の中に仕込んだりしていなかったと思うんだけど……?
私が戸惑っている間も、イザックは着々と尋問の準備を整えていく。
「おっ? ライムも手伝ってくれるのか?」
「ぷきゃ~♪」
ハウスから出てきたライムがいそいそとイザックに近づいて行くが、本当に尋問を手伝う気なのかな?
ライムはたまに好戦的になるから、怪我をしないように注意していてあげないといけない。 ちらっとハクを見てみると、❝任せろ!❞とばかりに胸を張っているのでちょっとだけ安心する。
ハクが側についているなら、大丈夫だろう。
「アリス、こいつらが死なないように気を付けて見ていてくれるか? 口の中の毒物は回収したから、即死だけはないと思う」
私には何ができるかな?と考えていると、盗賊たちを縛り終えたイザックが振り返る。
「うん、わかった。 死なせないだけでいいんだね?」
「ああ。アリスはそれだけでいい。 ライム、始めるぞ」
「ぷきゅ!」
❝ジュッ!❞
「!! ッグゥゥ!!」
いつの間に打ち合わせをしたのか、イザックの合図でライムが盗賊の足に酸を浴びせる。
お互いの言葉が通じなくても意思の疎通ができているのは、❝ライムだから❞で納得しておこう。
(ライムが頑張っているのにゃ♪)
❝おにいちゃんモード❞でライムを見守っているハクに、ライムが酸を吐くことで体に負担はないのかと確認すると、(ごはんの栄養をいっぱい蓄えているから大丈夫にゃ! 肥料にするか酸にするかの違いだけにゃ!)と、リッチスライムの生態が一つ解明された。 今夜のごはんはたくさん出してあげよう!
❝ジュッ! ジュッ! ジュッ!❞
「グゥゥッ! ウググッ!! グハッ!」
「どうだ? 話す気になったか?」
私がハクと話している間にも尋問は進んでいて、何度か酸を浴びせられた男の猿轡がやっと外された。
「ウグッ!」
「ん…? 【ヒール】!」
猿轡を外したとたんに男が舌を噛み切ったので、窒息しないようにとりあえずは舌だけを治すイメージでヒールを掛けると、いきなり呼吸ができるようになった男は愕然として私を見た。
「グッ!」
「【ヒール】! ねえ、私の魔力って、結構多めなことを知ってる? 何度舌を噛み切っても、即死しない以上は何度だってヒールで治すからね。 痛い思いをするだけ損だよ?」
何度でも治すと言うと、盗賊の目が動揺で揺れた。
❝ジュッ!❞
「ギャアアアアアアッ!!」
今度は胸元に酸を浴びて、とても痛そうにのたうっている。
じりじりと肌が焼けている痛みは相当なものだろう。 盗賊が私に期待するような視線を投げてくるけど、私は何もしない。 まだ命に関わるほどの火傷じゃないからね。ライムの邪魔はしないよ?
諦め悪く舌を噛むたびにヒールで治療して、火傷の範囲が広がって命が危険になるとヒールで治療する。
舌を噛んでも死ねないし、火傷の痛みだけを味わわされて決して殺して貰えないことを悟るまでライムの攻撃と私の治療を繰り返すと、とうとう、盗賊が音を上げた。
「お前は何者だ?」
「……殺し屋だ」
「ターゲットは?」
「……アリスという子供」
「誰に頼まれた?」
「………」
❝ジュッジュッジュッ!!❞
「グギャアアアアアッ!! ……ちょ、町長の息子だ!」
「ほぉぉぉ? じゃあ、お前たちは?」
❝ジュッジュッジュッジュッ!!❞
「「「「ウグゥゥゥゥゥ!」」」」
ライムの攻撃の後に猿轡を外された男たちは、イザックの問いに簡単に口を割った。
1番目の男が何度も死に損なったことや、苦痛を引き延ばされては治療されて、また酸による苦痛を味わわされているのを見ていて、とっくに心が折れていたらしい。
1番目に尋問を受けた男だけが殺し屋の生き残りで、後の4人はただの盗賊。 ジャスパーの元町長の息子の依頼で、殺し屋たちと盗賊たちの合同チームが襲って来たらしい。
元町長の資産はほとんどが没収・凍結されているのに、よく殺し屋や盗賊を雇うだけのお金があったな……。 せっかくの隠し財産なんだからこんなことに使わずに、自分たちの今後の生活の為に使えばよかったのに……。
ボソリと呟くと、イザックが疲れたように、
「バカの息子はやっぱりバカなんだよ…」
と呟いた。
うん、納得だ……。
ありがとうございました!




