初めての馬車旅 12
(ハク? イザックの守りを固めることはできる?)
(イザックが動かないでじっとしていたらできるにゃ!)
…動くとダメってことだな。 仕方ない。
「イザック! 即死だけはしないで! 命さえあれば、あとは何とでもしてみせるから!!」
私のリカバーだけで足りなかったら、ハクにも手伝ってもらう!
泥濘から抜け出した馬車が全力で逃げていくのをマップで確認しながらイザックに声をかけると、
「ああ、アテにしてるぞ! 俺も死にたくはないからな!」
これからの戦闘になんの不安も感じていない顔でイザックが笑う。
人の命を奪うことを、もちろん敵なんだけど、それでも命を奪うことを受け入れているイザックを見て、この世界が厳しい世界だということを改めて認識する。
これから襲ってくる相手もきっと同じ。 ううん、反撃する立場の私たちと違い、向こうは私たちを襲おうという意思を持って来ているんだから、手加減なんて期待できるわけがない。
私もこんな所で死にたくはないからね。 こういった戦いは2度目だけど、今回はアルバロもマルタもエミルもいないんだから、前回以上に気を引き締めてかからないと!
盗賊たちに向かって遠慮なくウインドカッターを連発で放つ。
今回は生け捕りにする必要はないので、足元を狙うなんて親切はしてやらない。 密集している地点に向かって胴の高さに連発してやると、何人かにヒットしたらしく、その場から動かないポイントが出てくる。
ポイントは赤いままなので、まだ生きているから安心はできないけどね。 まずはこちらに向かってくる奴らを何とかしないと!
襲ってくる奴らは仲間を倒されたことを気にするそぶりも見せないで、そのままの勢いで突っ込んでくるのでウインドカッターを追加で放つと、数拍を置いてイザックが飛び出した。
「ええっ!?」
「ははっ! 後は任せろ!」
「え、ちょっと、イザック!?」
呆気に取られている私を置き去りに、イザックは(推定)盗賊たちに向かって行ってしまった。
急いで後を追いながらウインドカッターを打ち込んでいると、盗賊たちの中から矢のような炎が飛んでくるようになった。
「ファイヤーアローにゃ。盗賊のくせに生意気にゃ!」
とっさにウォーターアローをぶつけてみるとファイヤーアローは霧散したので、盗賊たちの使う魔法はあまり強くなさそうだと少しだけ安心する。 もちろん、油断はしないけどね!
イザックが盗賊たちと斬り結び始めたので、私も魔法から太刀での戦闘に切り替えた。
「そんなお飾りで何ができるって言うんだぁ~? おとなしく死んでおけ!」
「おいおい、何もったいないこと言ってんだよ! 殺す前に遊んでやろうぜ! まだ小娘だが使えるだろ?」
「どうせ殺すんだから、その前に楽しませろよ! 首絞めながら犯ろうぜっ!」
<鴉>を構えた私を見て、盗賊たちが下卑た笑いを浮かべる。
「ほらほら、お嬢ちゃん! さっさと降参してお飾りの剣をこっちへ渡しな? そうすりゃあ、気持ちよくしてや……、ゲハッ!!」
「グハッ…!」
盗賊たちの口から出る下品な言葉なんて、まともに聞いてやる必要はない。
気持ちよさそうにおしゃべりしている最中だったけど、構わず土を蹴って一気に正面から袈裟切りにする。 返す刀で隣にいた男の胴を下から掬い上げるように切り付けると、男は簡単に真っ二つに分かれた。
……獣や魔獣よりもヒトの方が柔らかいのは当然だけど、<鴉>は盗賊の防具をもあっさりと破壊して盗賊の命を奪う。
「なっ……! このガキ、ふざけやがって!!」
目の前で仲間を殺された盗賊たちはいきり立ったけど、ふざけているのはどっちだろうね? 一方的に襲い掛かってきた盗賊たちに、そんなことを言う権利があるとは思わなかったよ。
盗賊たちがあまりにも非道なので、私の中で❝相手の命を奪う❞という意識が❝自分の命を守る❞という物にシフトした。 ヒトを殺す忌避感はどこかへ散って、自分を守るために相手を害することに躊躇いを感じなくなる。
いつの間にかハクも私の肩から降りて盗賊たちを攻撃してくれていたので、盗賊たちは順調に数を減らしていった。
「アリス! 残りを生け捕りにしろっ!」
「えっ!? ……殺しちゃったよ」
それまでは遠慮なく盗賊たちを殺していたイザックが急に❝生け捕り❞を指示したけど、振り下ろしていた<鴉>の勢いは止められず、盗賊の首を跳ね飛ばしてしまった。
「ああ、いい。 こいつらに聞きたいことができたから生け捕りにするぞ!」
「了解!」
「自害されないように気を付けろ!」
「ええっ!? …了解!」
自害するつもりのある相手を生け捕りにするなんて、どうやればいいのかと一瞬だけ困ってしまったけど、とりあえず気絶させれば、後はイザックが何とかしてくれるだろう。
<鴉>の刃を上に向けて握り直すと「舐めやがって!」と逆上した盗賊が斬りかかって来たので、相手の剣を<鴉>の峰で叩き折り、そのままの勢いで強く殴りつける。
「ッグ!」
打ち所が悪かったのか気を失ってくれる様子はなかったので、鞘を使って腹部を強打すると、やっと気を失ってくれた。
「よし、まずは片付いたな」
イザックの声に振り返ると、盗賊たちは全員土の上に倒れていた。 あれ? あと何人かいたと思ったんだけど…。
(僕とイザックがそれぞれに2人ずつ気絶させたのにゃ。あとは自害されたのにゃ…)
私が手こずっている間に、1人と1匹はあっさりと❝生け捕り❞を成功させていた。ハクにどうやったのかと聞いたら(窒息させたのにゃ)とあっさり返って来たので、びっくりする。
ハクの魔法はどれだけのバリエーションがあるのかな?
ありがとうございました!




