事前準備をお忘れなく
「あれがネフ村!」
前方に、木の塀で囲った村が見えてきた。
「アリス! 立ち止まって話をするのにゃ!」
やっと人に会える喜びに駆け出したら、ハクからストップが掛かった。 なんだろう?
「村に入る前にちゃんと準備をするにゃ!」
「あ、そうか。いろいろと打ち合わせておかないと…」
村が見えたことで、浮き足立っていたらしい。
確認しておくことは色々あるのに…。
「ねぇ、私の言葉って、ハク達以外にも通じるの?」
国が違えば言葉が違う。異世界で日本語が通じるのか…?
「大丈夫にゃ!
アリスの身体には【言語翻訳】が付与されているから、どんな種族とも会話が出来るにゃ♪」
「そんなスキル貰ってないよ?」
「言語翻訳はスキルじゃなくて、教養として身体に沁み込ませているのにゃ。 会話だけじゃなく、どんな文字でも読み書きができるのにゃ♪」
スキルじゃなくて、教養? 賢い人になったみたい^^
これなら安心してどこへでも行ける! ビジュー! ありがとーっっ!
「それと、これから僕はアリス以外の前では宙に浮かないし、しゃべらないのにゃ」
「どういうこと!? ハクとおしゃべり出来なくなるはイヤだよっ!」
(大丈夫にゃ! 人前では【心話】を使うにゃ)
突然、頭の中で、ハクの声が聞こえた。
「!! 今のが【心話】?」
「そうにゃ。魔物はあまり人語を話さないにゃ。 だからカムフラージュのために、人前では『心話』を使うにゃ」
「でも、ハクは神獣でしょ? 人語を話せてもおかしくないんじゃない?」
「……僕が神獣だってバレてもいいなら、アリスに隠蔽をかける必要もないにゃね?」
あ……。 うかつだった。気を引き締めないと、簡単にボロが出そうだ。
「【心話】のやり方、教えてください…」
コミュニケーションが取れるなら、心話でもいい。
「心話は主・従魔間なら、簡単にゃ。相手の顔を思い浮かべて、『届け』という強い思いで、話しかけるだけにゃ」
顔を思い浮かべ、強い思いで『届け』?
(ハクを力いっぱいもふりたーーいっっ!!)
「うにゃっ!? いきなり大声で話しかけたらびっくりするにゃ!!」
「大声になってた? 強い思いって言ってたから…」
「『届け』っていう思いだけ強くして、普通に話しかけるにゃ…。 あと、もふる時は優しくもふるのにゃ!」
もふっていいんだ? やったね! 言ってよかった♪
(いっぱいお金を稼いだら、何をしたい?)
(ドラゴンを食べるのにゃーっ!!!)
「えーーっ!?」
ハク、ドラゴン食べたいの!?
っていうか、ドラゴンがいるんだ? 出会ったらその瞬間に人生終了しそうだけど……。
(美味しいらしいのにゃ♪)
(美味しいの?)
(んにゃん♪)
そっか…、美味しいなら仕方がない。たくさん稼いでドラゴンを食べに行こう!
(心話はこんな感じでいい?)
(上出来にゃ♪)
この心話でライムとも話せないかな?
(ライム? ライムー? ラ・イ・ムっ!)
ライムを見ながら心話で話しかけてみると気が付いた様で、ぷるぷる震えて可愛く鳴いてくれたけど、心話で返事は返ってこない。
ハクは反応しないから、話したい相手にしか心話は通じないようだ。 考えていることが全部筒抜けになるんじゃなくてよかった。
「【隠蔽】も掛け直しておくのにゃ。もしも【鑑定】を受けたら、すぐに僕に言うにゃ」
「【鑑定】を掛けられたら、すぐにわかる?」
「普通は、ちょっとした違和感しか感じないにゃ。でも【隠蔽】状態で【鑑定】を受けたら、かなりぞわぞわするにゃ。ぞわぞわを感じたら、即!僕に隠蔽を掛けなおすように言うにゃ!
もちろん、心話でにゃ」
ぞわぞわを感じたら、即、ハクに、
(ハク~、隠蔽を掛けなおして~!)
って感じかな?
(そんなにのんびりしていたら2度目の鑑定を掛けられて、隠蔽する前にステータスがバレてるにゃ~)
「鑑定を掛ける方は、対象が隠蔽をしていることにはすぐに気がつく? 見えた情報が全てだと思わないの?」
「普通は1度で納得するにゃ。
でも、疑い深い相手だったり、最初からアリスのことを疑っている相手だったら、鑑定の重ね掛けをしてくると思うにゃ」
こっちの常識がわからない以上何をやらかすかわからないし、今のうちに練習しておこう。
(ハク、隠蔽!)
「こんな感じ?」
「そんな感じにゃ^^」
他に聞いておくことは…、
「時間の単位はどうなってるの? ここに来てからの体感では、1日の長さは地球と同じくらいに感じるんだけど」
地球じゃなくて、日本か。地域差あるもんね。
「時間の単位は地球とほぼ一緒にゃ。
1日は24時間。 1時間は60分。 1ヶ月は30日で、1年は12ヶ月の360日にゃ」
本当にほぼ一緒。 日数も1年で5日少ないくらいなら、日常に影響はない。
「1週間は7日?」
「“週”はないにゃ」
「ないの? じゃあ、“週末の休み”とかは?」
「5日働いて、2日休息する習慣のことにゃね?
ここでは360日ずっと働いて、手が空いたときが休みにゃ!」
農業従事者みたいなものかな。
「いっぱい稼いで余裕ができたら、いつでも好きなだけ休めるのにゃ♪」
そういう考えもあるよね…。 わかった!
「たまには高級宿でごろごろできるように、頑張って稼ごう!」
「おう!にゃ!」
「ぷっきゃ~!」
そう言えば、高級宿って1泊いくら位するのかな?
「お風呂が付いてる宿って、いくら位かかるの?」
「そうにゃ~。 宿のクラスで違ってくるけど、だいたい中銀貨で5枚前後かにゃ?」
「中銀貨? お金の単位は“メレ”って言ってなかった?」
「そうにゃ。 中銀貨5枚で、50万メレにゃ!」
50万!?
「それを日本円に直すと?」
「50万円にゃ~」
50万円! 一流ホテルのスイートでも、もっと安いところがいっぱいあるよ!
「高級宿って、本当に高いんだね? ちなみに普通の宿ならいくら位?」
「食事が付いて、大銅貨3枚~5枚くらい。 3千メレ~5千メレにゃ!」
ざっと、10倍以上…。 お風呂への道が遠い…。
「銀貨とか銅貨以外の硬貨もあるの?」
「あるにゃー」
簡単に教えてもらった。
小銅貨 10円
中銅貨 100円
大銅貨 1000円
小銀貨 1万円
中銀貨 10万円
大銀貨 100万円
金貨 1千万円
白金貨 1億円
1億円硬貨かぁ。 私のインベントリに白金貨が入ることは、なさそうかな^^
後は…、
「村で、売って欲しくないものとかはある?」
「オークとボアは売っちゃダメにゃ!」
「ぷっきゅきゅ、ぷきゅー」
「ライムは、『解体で出るいらない部位はぼくが食べるから、ちゃんと呼んで』って言ってるにゃ」
“美味しい肉は自分たち用で、解体時にはライムを呼ぶこと”ね。 了解。
「じゃあ、ライムはそろそろ、ハウスに入っておく?」
インベントリを開けながらライムに声を掛けたら、素直にハウスに入ってくれた。
安全だとわかったら、すぐに出してあげるからね!
ありがとうございました!




